前回まで「陸軍中野学校」シリーズを続けて取り上げる中で、改めて気づいたのは脚本家・長谷川公之によるプロットの見事さだ。その緻密さにより、スパイたちの諜報戦に緊迫感をもたらしていた。
 長谷川は警察官出身という珍しい経歴の持ち主で、それを活かして「警視庁物語」などの刑事ドラマを得意としてきた。その作風は日本の脚本家では珍しく、情に寄り過ぎない乾いたタッチを特徴としており、冗長なシーンのほとんどないタイトな構成とあいまって、フィルモグラフィにはクールな印象を与える作品が多く並ぶ。
 今回取り上げる『孤独の賭け』も、長谷川脚本の魅力を味わうことのできる作品だ。五味川純平の小説を原作とした本作は、一組の野心家の男女がたどる顛末が描かれる。 
週刊文春デジタル