中尾彬といえば、晩年はバラエティ番組への出演が目立っていたが、俳優として多くの方が印象を抱くのは、やはり「悪役」だろう。
貫禄たっぷりの顔とシルエット、野太い声、ギラついた眼差し――全てにおいて押し出しの強さを感じさせ、多くのテレビドラマや時代劇などで主人公たちの前に立ちはだかってきた。ただ、彼の演じる悪役は、たとえば小沢栄太郎や安部徹が演じるような「頭の先から足先まで徹頭徹尾、揺るぎない悪」というのは意外と少なかったりする。
強面な表側の一方、その裏側に巣くう不安や見栄といった「人としての小ささ」を奥底から醸し出す芝居が抜群に上手く、そのことが演じる役柄になんともいえない人間臭い魅力をもたらしていた。
今回取り上げる『内海の輪』でも、そうだった。悪巧みをしながらも不安に駆られ、それでもなおその心情を必死に隠そうとする――そんな、中尾彬の「追いつめられ芸」ともいえる名演を堪能できる。
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