東映が銀座の本社を移転することになった。跡地は複合的な商業施設になるらしい。
 取材や試写で何度もうかがったことがあるのだが、一九六〇年に建てられた本社ビルには、各部屋や試写室はもちろん、廊下や壁や天井や階段、全てが高度経済成長期からそのまま経年した風情がある。昨今の無機質な再開発ビルとは明らかに一線を画したアンティークな魅力あふれる、とても安らぐ空間だった。
 ただ一方で、見るからに老朽化した諸々の施設には不安もあったし、銀座の超一等地をこのままにしておくのは、他人事ながらあまりに惜しい気もしていた。そのため、致し方ないことなのだろう。
 そこで今回は、『海賊八幡船』を取り上げる。海賊と何の関係が――と思われるかもしれない。が、本作は六〇年に「本社建設記念作品」として製作された一本だったのだ。 
週刊文春デジタル