子どもの頃からいままでの間に色々な変化が起きたが、環境の上で一番大きく変化したのは、音だろう。昔はBGMがなく、静かだった。聞こえる音は、ご飯が炊き上がる音、虫のすだく声、蚊帳の中で蚊の飛ぶ音、近所の夫婦喧嘩の声、「ケンジっ! いつまで寝とんなら! 学校に遅刻するじゃろうが!」「なんで時計がいつまでも読めんのなら! ○○君を見てみい。スラスラ読めとんじゃ。それをオメエは何なら。泣くなっ! 出て行け!」という怒鳴り声とかわいい子どもの泣き声などが近所中に響き渡っていた。
 それがいつの間にか、一変した。大自然を満喫しようと景勝地に行くと、スピーカーから演歌や高校野球の実況が大音量で流れるようになった。
 音楽は人間には特別な意味をもっている。 
週刊文春デジタル