わが日大の卒業式は、日本武道館で二回にわけて行なわれる。
 言うまでもなく学校法人としての大イベント。私は昨年の早いうちに、色留を新調していた。一昨年も一枚つくっている。
 色留などというものは、めったに着るものではない。叙勲とか親族の結婚披露宴に着用するものだ。着物の格としては最高クラスで、男性のモーニングに匹敵するもの。
 あれは六年前、私が紫綬褒章をいただいた時だ。隣りに住むオクタニさんから電話がかかってきた。着物については皆が師匠と呼ぶ人。
「当日いったい何を着るの?」
 まずはそのことを心配してくれたのか。ありがたい。 
週刊文春デジタル