野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」VOL.7 NO.4
コンテンツ
対談VOL.7
浜田正幸氏 vs. 野田稔
社会人材とは自分の足で立ち
完結的な価値を創造でき、なおかつ
外に向かって開いた人材のこと
第4回 日本にはこれまでになかった社会人教育が必要だ
Change the Life“挑戦の軌跡”
グラフィックファシリテーター――日本で1つの肩書き
――株式会社ユニファイナアレ やまざきゆにこ
第4回 想いは1つ、“皆の心が1つになあれ!”
NPOは社会を変えるか?
第24回 中小企業の社長は果たしてどんな夢を見るのか
――NPO法人ドットジェイピー 佐藤大吾理事長
粋に生きる
8月の主任:「仁平幸春」
第4回 フォリアという1つのムーブメントが広がり始めた
誌上講座
テーマ7 二流を超一流に変える「やる気」の与え方
野田 稔
第3回 内発的動機をどのように高めるか。すべてはそこにある
連載コラム
より良く生きる術
釈 正輪
第28回 自分らしく生きれば幸せか?
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対談VOL.7
浜田正幸氏 vs. 野田稔
社会人材とは自分の足で立ち
完結的な価値を創造でき、なおかつ
外に向かって開いた人材のこと
本誌の特集は、(社)社会人材学舎の代表理事である野田稔、伊藤真をホストとし、毎回多彩なゲストをお招きしてお送りする対談をベースに展開していきます。ゲストとの対談に加え、その方の生き様や、その方が率いる企業の歴史、理念などに関する記事を交え、原則として4回(すなわち一月)に分けてご紹介していきます。
今月のゲストは、浜田正幸氏。多摩大学経営情報学部および大学院経営情報学研究科教授で、「社会人材学舎」の講師陣の一人です。誌上講座にも一度、登場いただきました。早稲田大学大学院修士課程修了。大学院で認知心理学、行動科学を研究の後、本田技研工業入社。ホンダF1チームのコーディネーターとして欧州を転戦。その後91年、野村総合研究所に移り、人事・組織を中心にした経営コンサルタントとして活躍。独立して、ケアブレインズ設立。多摩大学経営情報学部准教授を経て現職。現在は樵とし、またチムニースイーパーとしても活躍。
社会人材学舎の理事長である野田稔とは、野村総合研究所以来のパートナー。今月の対談では、この二人が社会人材について語り合います。
第4回 日本にはこれまでになかった社会人教育が必要だ
自分自身で自分に枠をはめてしまう
その枠を外すには、経験するしかない
野田:自分の足で歩けることの大切さを語ってきたけれども、そのことの大切さを教えるというか、学んでもらうためには、具体的に何をやればいいのだろうか。
浜田:教育の仕方はいろいろあるのだとは思うけど、1つはベンチャー、従業員10人くらいのところで、ビジネスの全貌を完結的に体験するとか、親方について経理や人材管理などさまざまな知識とノウハウを学ぶかということかもしれない。
野田:スモールビジネスを無理矢理体験させてしまうということだね。浜田さんもそうだったよね。
浜田:そう、そう。
野田:実際、野村総研を辞めたときに、浜田さんに経理ができるとは思わなかったものね。
浜田:自分でも全然思わなかった。
野田:それができるようになったものね。意外と自分の能力って、自分自身で枠をはめてしまう、自分で限界を決めてしまうことが多いじゃないですか。
そこでよく言われるのは、自分はここまでしかできないというレベルの枠だけど、実は範囲の枠の方が重要だと思う。
浜田:僕もそう思うな。
野田:やればいいのに、何で出来ないと思うのだろうというところですよね。
浜田:全く同感。多分、大企業ではそれは越権行為になってしまうから、いけないのでしょうけど、そこを体験する。1年も2年も必要ない。1カ月でいいと思うけど、そのタイムスパンで人はどう動き、お金がどう流れているのか、そこだけでも体験すればいいと思うのですけどね。そのことを知っていてほしいなと思います。
ここに2014年中小企業白書があります。その中に、「起業の準備に踏み切らない理由」という項目がある。何だか怖いタイトルですよね。
どういう答えがあるかと言うと、「収入・やりがい・プライベートの面で現状に満足しているから」とか、「失敗のリスクを考えると」などとある。あるいは、「周囲に自営業者や起業家がいないので、起業することの現実味がない」とか。
野田:「経営者としての能力、資質に不安あり」とか、実務の話も多いですね。「事業や企業を立ち上げるための具体的な段取りや手続きがわからない」とか。これらは当然かもしれないけど、若者が多い。
浜田:まずは、そういう実務をしっかり教えるところが必要なのですね。ビジネススクールもこうしたところは教えないですよね。足りないのは、自分の足で歩くための実務なんですよ。知識も絶対必要なのだけど、たとえば、マーケティングをやりましたとか、会計をやりましたとか、ぶつ切れの知識で自分の足で立てますかというと、立てない。その会社の中の、たとえば経理部門に私は行きますとか、マーケティング部門に行きますということだけだと、その中でしか立てないということになってしまうと思いますね。
野田:しかし、起業の準備に踏み切らないって、何だろうね。「準備ぐらいはしろよ!」と思うのだけど、でも今はこんな感覚なのかな。いずれにしても、そういうリアリティのある学びの場が必要ですね。
浜田:そういうことですね。
野田:昔で言うと実務教育ということになるのかもしれないけど、本当に最近では行われなくなってしまった。そこを担っているのは専門学校だけですよね。専門学校の一番の強みと言うのは、本当に使えるかどうかわからない技術だけど、使える気がして卒業するということだと思うのですよ。
浜田:それはでかい。
野田:結構昔は大学もそういう側面があって、たとえば今でも覚えているのだけど、一橋大学に、多分今はないと思うのだけど、実務英語という時間があった。何をやるかと言うと、テレックスを打つ。部屋が2つに分かれていて、双方にテレックスがあって、学生同士が打ちあう。その時にFOBが何だというまさに貿易英語を学ばせる。一橋は商人のための学校だから、そういう授業がリアルにあった。でもね、考えてみたらあんなものを学んでもあまり使えない。使えないのだけど、何か実務ができる気になって卒業するというのは大切なことなんだろうと、改めて思うのです。
FOBは、輸出業者が貨物を積み地の港で本船に積み込むまでの費用とリスクを負担し、 それ以降の費用とリスクは輸入業者が負担するという貿易の取引条件のこと。
ゆとり教育の本来の目的は
働くことを学ばせようというものだった
野田:イギリスでは、今はまた分かれてしまったのだけど、雇用教育省を作った。昔、若年層の失業率が何をやっても高止まりで下がらなかった、つまり若年就労率が低いときに、「多分これは働くという実感値が若者にないのが問題なのだろう」と考えて、それが就労を妨げていると仮定して、教育省と雇用省を1つにして、雇用教育省にした。それで、すべての学びは就労のためと位置付けた。学びだけで独立する学びはないと宣言したのですね。
浜田:いいですね。
野田:たとえ文学だろうと歴史だろうと、それは良き就労のためであると、同じことをほとんど同時期にやったのは、アメリカのクリントン政権の時で、School to Workということを言いだした。学校から就労へ。これも若年就労率が下がっていたところが問題だった。
なぜか知らないけど、日本では労働省は厚生省と統合させて厚労省とし、文部省は科学技術庁と統合させて文科省にしてしまって、欧米とは逆に舵を切った。一時期、その点、つまり学びと就労の関係を真剣に考えようとしていたのが、失敗したけれども、実はゆとり教育だったと思う。
浜田:なるほど。
野田:ゆとり教育は、授業時間を短くして、お勉強を減らすところにだけがクローズアップされてしまったのだけど、実は減った時間をどう使うかというところがセットで本当は考えられていた。
それが総合的な学習の時間で、そこでは働くということを学ぶということに決まっていたのですよ。ところが働くことを学ぶことを教える先生が、働いた経験がなかったというオチがついてしまった。
彼らは学校を卒業してそのまま教員になったから、学校の先生として働く仕方しか知らないわけです。だから、会社員になるということを、リアリティを持って教えられない。それで仕方ないからというので、総合的な時間のカリキュラムをたくさん作って、教育委員会に置いておいたのです。実は、僕もその制作に協力していました。
浜田:それは知らなかった。
野田:そうしたら、なぜか抜いて行かれるのは水田の稲作体験ばっかりだった。最初は理由がわからず不思議だったのだけど、わかった。先生たちには農家出身の方も多いので、稲作の体験はあるわけです。先生のほかに、唯一知っている職業が稲作なんですよ。だから、稲作の授業は自信を持って出来るからというので持っていくのだけど、考えてみたらわかることだけど、稲作の体験がある先生が教えている地域では、子どもたちは家庭で稲作をしている。だからうちで田植えをして、学校の総合的な授業でまた田植えをして、一体何をしているのだという話になってしまった。
ゆとり教育を考えた官僚は、志は高かったのだけど、現実があまり見えていなかった。そういうことって結構、大学でも起こっていると思っていて、大学の先生がやっぱり、大学での教育しか知らない人が多すぎると思いますね。
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