野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」

野田稔と伊藤真の「社会人材学舎」VOL.5 NO.3

2014/06/16 06:00 投稿

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野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」VOL.5 NO.3

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コンテンツ

対談VOL.5
平野洋一郎氏 vs. 野田稔

安定したら、ベンチャーじゃない
世界で通用しなければ、意味がない
挑戦を止めたら、人生はつまらない

第3回 やりたいことがあるのならば起業するのが近道

政治・行政にやり甲斐はあるか?
6月のテーマ:日本国憲法は果たして変えるべきなのか
伊藤 真
第3回 憲法9条と自衛隊。集団的自衛権の解釈変更

粋に生きる
6月の主任:「遠峰あこ」
第3回 遠峰あこが次のステージを模索し始める頃

誌上講座
テーマ5 若いうちからたそがれないように、自己変革をする方法論
野田 稔
第1回 企業変革の理論を自分のキャリア開発に応用してみよう

Change the Life“挑戦の軌跡”
女子力をビジネスに活かす! 二人で組んだしなやかな経営
――シルキースタイル
第3回 起業、商品開発、足踏み、成長、そして第2章へ

連載コラム
より良く生きる術
釈 正輪
第19回 自分という存在をリセットしたかった



対談VOL.5
平野洋一郎氏 vs. 野田稔

安定したら、ベンチャーじゃない
世界で通用しなければ、意味がない
挑戦を止めたら、人生はつまらない

本誌の特集は、(社)社会人材学舎の代表理事である野田稔、伊藤真をホストとし、毎回多彩なゲストをお招きしてお送りする対談をベースに展開していきます。ゲストとの対談に加え、その方の生き様や、その方が率いる企業の歴史、理念などに関する記事を交え、原則として4回(すなわち一月)に分けてご紹介していきます。

今月のゲストは、インフォテリア株式会社の創業者、平野洋一郎氏です。同社は、昨年9月1日に、創業15周年を迎えた会社ですが、そのベンチャースピリッツは衰えることを知りません。平野社長は、「安定」を嫌います。安定とは、変化しない、つまりは成長しないということを意味するからです。1998年に六畳一間のアパートからスタートしたインフォテリアは、海外4拠点に子会社を持つ会社になりましたが、平野社長の理想にはまだほど遠いのです。自社のさらなる成長ももちろんですが、後から続く者をいかに増やし、助けるか。そこにも力を注ぎたいと考えています。

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第3回 やりたいことがあるのならば起業するのが近道

お金を毛嫌いしてしまえば、事業化は遅れる

平野:ロータスに勤めていて、日本とアメリカのソフトベンダーの違いを目の当たりにしました。一番の違いは、事業のスピードです。それがあまりに違うから、DOSの時代には日本にもあった各大学の周りに位置して開発を競ったソフトベンダーが、WINDOWSの時代になって消えていったのです。
 アメリカで、昨日まで一緒に徹夜をしていたような、一エンジニアが急に会社を辞めて、ミリオン単位の資金調達をして、半年後にはすでに次のプロダクトを作っているなんてざらにある話なのです。
 そのスピードに今でも日本の企業は勝てない。しかも、日本のエンジニアは投資家と組むことを毛嫌いする傾向があるのですね。「お金と組むというのは悪いことだ」と思っているようなのです。「僕は、何もお金のためにやるわけじゃない」と言うわけです。これが一方で大きな問題だと思っています。
 だから、日本で投資家の候補周りをしていても、よく言われたのは、「君の考えは日本では理解されないから、アメリカで会社を始めたらいいよ」というアドバイスでした。
 ただ私は、日本にも、投資家と組んで急成長していくというモデルを定着させたかったのです。だから、あえて東京で始めたのです。私がシリコンバレーで会社を始めて成功したとしても、後に続く人間は生まれない。「シリコンバレーだからね」で終わってしまと思ったのですね。
野田:お金はあくまでも手段であって、お金のために働くわけではない。しかし、理想を追求するためにはお金は何にもまして必要なものの一つですよね。
平野:そう思います。ボストンで、自分の横で働いていたやつが起業する。しかも、「ああ、あいつだったらそうだろう、仕方がない」と思える花形エンジニアなどではないのですよ。どう見ても普通のエンジニア。それなりに役職にはついているのですが、別にスターなわけじゃない。ロータスというのは場所がボストンなので、MITとハーバード出身者が多い。単に、それだけなのです。しかも、「MITとかハーバードってこの程度か」と正直驚きました。失礼ながら、「思ったほどすごくないな」と思いましたね。だから起業して資金を集めるということは、決して大それたことではないと感じたわけです。
 ところが、日本から見ちゃうと雲の上の話という感覚があるじゃないですか。MITとかハーバードなどというと、それだけで凄い人という感覚というか……。
野田:経営学の世界はもっとそうですね。経営学で向こうからさまざまな概念が出てきますが、そんなものは、実は10年以上前にすでに日本でも言っていたという話がほとんどなのです。10年前に私たちがそれを主張したときは誰にも受け入れてくれなかった。ところがその話のむしろバージョンダウンしたものがアメリカから入ってくると、皆が飛びついて評判になるという悔しさをしょっちゅう味わってきました。
平野:向こうで会議をしていても、ある分野の専門家に、「でもそれだったらこっちのほうがいいじゃない」とか言うと、「ああ、そうだね」て、納得するシーンが日常茶飯事でしたね。日本の上司とか専門家と違って、すぐに納得するだけ偉いのかもしれないですけど(笑)。
野田:わかります。ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』などもそうでした。私たちにはアイデアがあって、本を出版しても、その概念を広げる力が弱いのは事実だと思います。
平野:同じですね。考え方としてはこちらのほうが上だとしても、むこうでは事業計画をうまく書いて、それを持ってエンジェルやベンチャーキャピタルを説得して、ミリオン単位で資金を集めたら、すぐにスタートできる。実行できてしまうわけです。そうなると、ただ言っているだけなのと、実際に実行するということの間には、経営は実業ですから、それこそ雲泥の差が生まれてしまう。
 しかも、同じ方向を目指しているアイデアが多数あるわけです。釈迦に説法ですけど、多数あればうまく行く確率が高まる。ベンチャーキャピタルのポートフォリオの話と全く同じで、だいたいは失敗するのですよ。だけど、その中のいくつかが、うまく行く。そのいくつかは大成功する。そこがたまらないわけです。

愚痴を言うくらいならば、やってみればいい

野田:ところで、隣で働いていた人は独立後、どうされたのですか?
平野:最初に3ミリオン集めるという計画を描いたのですね。正直、「そんなに集まるかよ」と思っていました。彼が起業してから2か月後くらいに会って、食事をする機会がありました。それで進捗を聞いたら、「いや、ダメだった」と言うわけです。内心、「ほら見たことか」と思ったのですが、「1.5ミリオンしか集まらなかった」と言うのです。ドルですよ。経営の経験もないし、MBAでもない。金持ちの息子でもない。そんな彼が1.5ミリオンも調達できるわけです。もちろん、彼だけが特別ではない。
 しかもその彼は、その後さらに5ミリオンを調達したのですね。1年後に会って、さらに驚きました。「会社の調子どう?」と聞いたら、「倒産した」と言うのですよ。「えっ? 倒産って、そんな……6ミリオンも調達して、こんなところで飯食っていていいの?」と驚いたら、「いや、いいんだよ。それよりも、この新しいプラン見てくれ」と言うわけですよ。次の会社のプランです。「でも、前の会社に資金を出してもらった人はどうなるの?」「あれはあれでいいんだ。一所懸命頑張って、だめだったので清算したのだから」と言うわけです。
 当時の私にはよくわかりませんでした。日本人の多くが理解できないと思います。億単位のお金を出してもらっていて、倒産して、それはそれでいいなんて、日本ではないですよ。正直、当時私はまだ融資と投資の違いをよくわかっていなくって、だから、そんな大金を出してもらっていて倒産したら、それこそ日本なら夜逃げするだろう、なんて思いましたね。もちろん、今はそのからくりはわかりますが、それでも心情的には日本人のメンタリティとは合わないですよ。向こうからすれば、こっちの驚きの意味がわからないわけですけど。
野田:どうしてそんなにつまらないことを言っているんだって、思うのでしょうね。
平野:皆がそういうやり方をしていて、実際に、自分の近くにそういう連中が存在していたので、自分もできる気になったのです。
 この、「自分もできる気になった」というのが大事なわけです。私がシリコンバレーでそのまま起業してしまうと「あっ、シリコンバレーだからできる」になってしまう。ところが東京でやれば、少なくとも友人ですね。近くにいる連中が、「平野ができるならば俺だってできる」というやつが、5人出てくればいい。そこから5倍ずつ広がっていけば、結構な人数になるじゃないですか。
 しかも私は高校の頃からコンピュータにはまっていて、進学校なので、試験ごとにランキングが出るのですが、3年間常に成績はビリでした。おまけに大学は中退ですから。東京にも高校の同級生はいっぱい出てきていますが、彼らは「平野ごときができるのであれば、俺だってできる」と思えると思うのですね。私より優秀なやつがいっぱいいますから、私がもしできれば、やってやろうかというやつが絶対出てくる、という思いから、東京で始めたのです。
野田:なるほど。まさに、そこから初めて、日本を変えようと思ったわけですね。
平野:本で読むとかテレビで見るとかというのと違って、知っているやつがやるというのは大違いでしょう?
野田:そうですね。どうも、私の高校時代の同級生は、私がテレビに出るようになってから、あいつが出られるならと皆、勘違いをしたらしいです(笑)。
「お前ら、こっちの努力も知らないで」と思いましたけどね。そんなところは確かにありますね。それで、いかがですか。実際に、後から誰かが続いていますか?
平野:続いているかというと、残念ながら、続いていないですね。少なくとも、自分が最初にターゲットとして意識していたのは、まさにその「平野より優秀だ」と思っていながら大企業に入った連中ですが、そこからは続いてはいない。ただ、高校の同級生は、二人くらい独立しましたね。もちろん、私の影響だけではなくて多分、やりたいことがあったということだと思うのですけど。その一方で、大企業の中央研究所などで、未だに酒を飲むと愚痴をこぼしているやつもいます。
野田:確かに、そういう人が多いですね。
平野:そうなのです。愚痴を言っているだけ。文句を言っているだけで、やりたいこともできない。やりたいことをやる方法はあるはずです。とにかくまずそこから出て、始めればいい。今は15年前よりもずっと投資の環境も整ってきています。
 ところが、「いいよ、別に金儲けしたいわけじゃないんだ」と言うわけです。先ほどの繰り返しになりますが、ここは大事なところです。
 金を毛嫌いするというのは本当によくなくて、お金が入ってくるということの意味を取り違えていますね。お金が入ってくると言うことは、価値を出したということです。その見返りなのですよ。つまり、お金が入ってこないということは、世の中に価値を出していないということです。ボランティアの世界は違いますが、ビジネスの世界は100%そうです。それを変に毛嫌いしたり、悪いことだって思えば、ビジネスで世の中の役に立つことはできないと思ったほうがいいです。
野田:私は、「金儲けじゃない」と言うのは、言い訳じゃないかと思うんですけどね。本音では、お金はあったほうがいいに決まっている。お金は価値の対価だといった考えまであるかどうかはわかりませんが、多くの人はお金が嫌いじゃありません。ただ、そういうふうに言っていると、事業をしないことの言い訳になるというところがあるんじゃないですかね。
平野:あるでしょうね。大人になると、ばかみたいな言い訳じゃなくて、それなりの形になる言い訳をしたくなるでしょうからね。

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