野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」

野田稔と伊藤真の「社会人材学舎」VOL.3 NO.2

2014/04/14 06:00 投稿

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野田稔・伊藤真の「社会人材学舎」VOL.3 NO.2

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コンテンツ

今週のキーワード

「リベラル・アーツ」

対談VOL.3  岩瀬大輔氏 vs. 伊藤真
他人のほうがうまくできることは
他人に任せよう。そして自分は、
自分にしかできないことを恐れずやり切ろう

第2回 ビジネススクールへの留学が人生を変えてしまった

企業探訪:理想のワークプレイスを求めて
第2回 ライフネット生命保険
その2:多様な人材が、同じ方向を向いている組織

粋に生きる
4月の主任:「玉川奈々福」
第2回 「玉川奈々福」という一人の浪曲師が生まれた

誌上講座
テーマ3  パワーラーニングメソッド
第1回: パワーラーニングはより上質な人間になるための学び

連載コラム
より良く生きる術
釈 正輪
第10回 仏教は、何をどこで間違えてしまったのか

Change the Life“挑戦の軌跡”
「あられ屋です」。その言葉にプライドあり!
第2回 商品からパッケージ、すべてにこだわる


NPOは社会を変えるか?
第10回 カンボジアの教育を変える、壮大なグランドデザイン
――公益財団法人CIESF(シーセフ)

政治・行政にやり甲斐はあるか?
4月のテーマ: 国政調査権と政治家の覚悟
第2回 なぜに国の決定が市町村にまで徹底しないのか


今週のキーワード
「リベラル・アーツ」

 リベラル・アーツは、一般教養と訳される。そもそもは、古代ギリシャや古代ローマに起源を持つ言葉で、「人を自由にする学問」という意味だ。古代ギリシャ社会では、自由人とは非奴隷を意味した。逆に言えば、リベラル・アーツは奴隷やペリオイコイと呼ばれた反自由人が自由人=市民になるために必要な学問であった。

 なぜ必要かと言えば、自由人には投票権が与えられるからだ。そのためには自らの意志を正しく行使できなくてはいけない。そのベースとして、社会人として正しい考え方ができるだけの教養が必要というわけだ。

 立候補するほうの見識も疑われることが多い昨今は、こうした理想からはだいぶ遠くまで来てしまった感がある。

 いずれにしてもリベラル・アーツを学ぶということは、「常識を身につける」という言い方もできるのだが、むしろ、常識(と思っていること)から自由になるために学ぶと言い換えたほうがいい。

 なぜならば、多くの常識は、枠のある常識だからだ。自分の常識、地域の常識、会社の常識、業界の常識、日本の常識、民族の常識……広い、狭いはあるが、それらは本当のコモンセンスではない。

 そうした染みついた常識から一度解放されて、自由に、もっと広い視野で、社会や人間のあるべき姿を考えるために、リベラル・アーツは必要なのだ。

 リベラル・アーツとは、単なる教養ではなく、言ってみれば、人が自分の中に確かな基軸を作るためのリファレンスボードなのだ。

 宗教にしても、歴史にしても、哲学にしても、何かに傾倒するために学ぶのではなく、むしろさまざまな考えや事実を知り、普遍的な解に近い基軸を自分の中に作り上げるために学ぶべきものだ。そのための非常に実用的な道具なのだ。



対談VOL.3
岩瀬大輔氏 vs. 伊藤真

他人のほうがうまくできることは
他人に任せよう。そして自分は、
自分にしかできないことを恐れずやり切ろう

本誌の特集は、(社)社会人材学舎の代表理事である野田稔、伊藤真をホストとし、毎回多彩なゲストをお招きしてお送りする対談をベースに展開していきます。ゲストとの対談に加え、その方の生き様や、その方が率いる企業の理念などに関する記事を交え、原則として4回(すなわち一月)に分けてご紹介していきます。

今月のゲストは、ライフネット生命保険株式会社の代表取締役社長兼COOである岩瀬大輔氏です。
岩瀬氏は、司法試験合格後、弁護士にはならずにコンサルタントやファンドなどを経験後、ハーバード大学のビジネススクールに留学します。なぜ彼はキャリアを中座して、留学の道を歩んだのでしょうか。そして、そこでの学びが、彼の人生を大きく変えていくことになります。伊藤真伊藤塾塾長(社会人材学舎代表理事)が引き続き聞きます。

第2回 ビジネススクールへの留学が人生を変えてしまった

ベンチャー経営者は皆知っている。
単純作業ほど重要な仕事はない

伊藤:ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入って、どうでしたか。
岩瀬:驚いたのが、BCGには、意外と英語ができる人が少なかったのです。流暢にしゃべる人は2割いなかったですね。その点、僕は帰国子女だったので便利がられて、外国人とのプロジェクトばかりに入れられましたね。そういう意味での存在感は最初からありました。それと、結構地味な仕事も嫌がらずにやっていたので、そういう仕事も回ってきました。
伊藤:なるほど、英語という特技と、地味な仕事を嫌がらない性格。特に後者は大事だね。
岩瀬:はい。BCGに入社して2年後の2000年にBCGからICG(インターネット・キャピタル・グループ)に行って、日本法人の立ち上げに加わったのですが、こちらは5人でのスタートでした。その時は名刺を刷ったり、オフィスを借りたり、キンコーズに行って資料をつくったりと、すべて5人でやりましたね。あれもいい想い出です。
伊藤:まあ、ベンチャー企業を立ち上げた人間は誰であれわかっていることだろうけど、
そういった、大企業では下働き的な仕事と思われがちな仕事こそ大切な経験だよね。
岩瀬:そう思いますね。ライフネット生命を作ったときも、パソコン買ったり、名刺を刷ったり、…自分で全部やっていましたね。そういう仕事も意外と好きですね。それに、おっしゃるように、そういう仕事が大事だと思っているので、苦にはならないです。というのも、そこに本質があるような気がしています。
 たとえばコンサルタントの時も、よくお客さんから段ボール箱いっぱいの営業報告書などが送られてきました。当時はまだそんな状況でした。それを派遣社員の方たちに入力してもらうのが常でしたが、僕は極力自分で入力するようにしていました。苦にならないのですが、人に頼むのではなく自分でやることで、一見は単純労働のようだけど、数字を打ち込んでいるうちに、何か気づくことがあるのですね。後でただ眺めるよりもはるかに深層に気づきやすい。別にわざわざ何かを探しているわけではなく、つまりは頭ではなく、身体で感じて気づくことがあるのです。
 数字と触れる、現場と触れることで初めてわかることがある。そこにむしろ本質があるように思います。
伊藤:まさに、そうだね。
岩瀬:たとえば現在、生命保険会社は43社ほどあるのですが、それらの企業の決算データを自分で打ち込む。そのほうが、数字の感覚がわかるし、規模感もわかるし、特徴もわかるのです。43社全部の社名を打ち込んでいて、「ああ、そう言えばこういう会社があったな」などと思い起こされる。そうした作業、そして気づきの中にこそ大切なヒントがあると思っています。
伊藤:私も若いときに、コピー取りばかりやらされていた時期があって、「コピー取りをやるために弁護士になったわけではないんだけどな」などと思っていたのだけど、前向きな性格だから、そのうち、「だったら、日本一のコピー取りになるぞ」と思ってね。コピー取りは単純作業だから、いろいろと観察できるし、頭も暇だからいろいろと考える。すると、なぜこの書類をコピーするのかな、何で今コピーを取るのかな、この書類は何のために使うのかな、などと考えるようになったのですね。そういう意識でいると、その作業の間にいろいろなことが学べた。書類の中身について考えたり、今という状況がわかるようになったり、仕事の中身や進捗度合いも推し量れるようになる。コピー取りから学べることも山ほどあるんだなとわかった。
岩瀬:そうですね。それにコピーは、人によって結構出来栄えが違いますよね。性格が出るというか、実力が出るなと思います。
伊藤:できる人間は、何をやってもうまい。その作業に求められることをしっかりと考えるし、丁寧に行うし、相手のためを思った気配りもできる。だからコピーもうまいし、コピーするだけではなくて、それをどのように後処理して渡すのがいいかも考える。ホッチキス留め1つ取っても、差が出るよね。結構、磨くべき技術やノウハウもある。つくづくつまらない、意味のない仕事などというものはないと思う。どんな小さなことでも、当たり前だけど、意味があるし、そこから学べることが山ほどあるということを、キャリアの最初にしっかり気づくかどうかで、その人のその後が大きく変わってしまうと思いますね。

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自然も芸術も哲学も……すべて

経営者にも弁護士にも必要な教養だ

岩瀬:大学時代に、リチャード・ハイランド先生がアメリカから東大に1年間教えにいらっしゃいましたが、彼との出会いも大きかったです。
伊藤:ハイランド先生というのはすごい先生だよね。私もアメリカに行ったときにお宅にもお邪魔して、いろいろお話をさせていただいたことがある。
岩瀬:哲学者みたいな方ですよね。
伊藤:そうね。法律の先生なのだけれども、哲学者みたいで、子どもに対する教育の視点にも学ぶべきことがたくさんある。
 そうそう、フィラデルフィアの自宅にお邪魔したときに、「ちょっと遊びに行こう」と誘われて、どこに連れていってくれるのかなと思っていたら、近所の自然公園みたいなところまで車で行って、その中を二人で歩くだけなんだよね。自然を愛で、草花について語り、数時間、歩いただけなのだけど、その時間は何ものにも代えがたい時間だった。日本にいると、そういう時間はなかなか取れないじゃない。もちろん、歩くだけでなくて、その中で、いろいろなことを話し合って、教えてもらえた。すごく貴重な時間を過ごさせてもらった想い出がある。
岩瀬:彼の名言をいろいろ今でも覚えているのですが、たとえば、コンサルティング・ファームにインターンに行く前に、その時は「こんなの冷やかしだ」と思っていたので、「弁護士に受かるわけだから、コンサルティング・ファームになんか自分は就職するわけがない」といったことを先生にぶつけたことがあります。
 怒られました。「そんなふうに人生を絶対に決めつけるな!」って。人生、何があるかわからないのだから、常に心を開いて、いろいろな機会に身を投じなさい。どうなるかわからないのだから、そうやって絶対決めつけてはいけないといわれたのを覚えています。実際、そのとおりになったのだから、忘れられるわけもないですよね。
 でも、多くの人がそうやって決めつけちゃっているということを、後になって、自分より若い人たちの相談に乗ると思いますね。
伊藤:ハイランド先生の言葉の1つで、“アテネの学童”を覚えている?
岩瀬:覚えていないですね。
伊藤:私はなぜか覚えている。“アテネの学童”は、ラファエロの最高傑作といわれるフレスコ画でしょう? 先生が君に、「アテネの学童を知っているか?」と突然聞いたことがあった。君は「知らない」と答えた。そうしたらハイランド先生が怒ってね、「アテネの学童も知らないのか! もっと絵を勉強しろ! 芸術だとか文化をもっと身につけなくちゃダメじゃないか」って言うわけですよ。
岩瀬:なるほど、BCGのパンフレットの裏表紙にも宗教画があしらわれていたのですが、「これ何だか知っているか?」と聞かれて、「知らない」と答えると、「知らないのは恥ずかしいぞ」と言われましたね。あるいは一緒に歩いていると、先ほどの話ではないですが、草花を愛でて、その花の名前を教えてくれるのですね。それでいつだったか、なぜ花の名前をそんなにちゃんと知ろうとするのかと聞いたら、「この世界を理解しようとする心が大事だ」といわれました。
伊藤:ハイランド先生はそういう方だね。だけど、本当にそう思う。丸めて言ってしまうと一般教養になってしまうけど、むしろリベラル・アーツと言いたいね。自由な市民になるための知識は、何を行うにも大切。特に弁護士や経営者にはなくてはならないものだと思う。宗教もそう。主義主張を理解することもそう。何かに傾倒するというのではなく、いろいろなことに関心を持って接する。それらが自分というものの価値基準を形成していくわけだからね。
岩瀬:まさにそうですね。もう1つ、僕にとって大きな経験が文楽、人形浄瑠璃ですね。今でこそ、“財界きっての文楽ファン”といわれるようになってきました。先日は、公演パンフレットの巻頭エッセイまで書かせていただきました。これもハイランド先生の影響なのです。「人形浄瑠璃を見たことあるか」と。「何、それ?」。「自分は世界中のあらゆる舞台芸術を見てきたけれども、文楽が一番すごい」と言うのですね。「東大生なのに、見たことないのか」と怒るのですよ。
伊藤:どこかの政治家に聞かせてやりたい話だね。
岩瀬:それで観に行くようになったわけです。文楽の素晴らしさを、皮肉にもアメリカ人に教わったのです。


キャリアをいったん脇において

なぜ僕は留学をしたのかと言うと……

伊藤:次のエポックが留学ですね。これにも裏事情やいろいろな取捨選択や決意があったと思うけど……。
岩瀬:確かに。コンサルタントからベンチャーぽいことをやって、それからリップルウッド(現在のRHJインターナショナル)に入るのですが、そうやって6年くらいしたところでハーバード大学のビジネススクールに留学します。これには実は表事情と裏事情があるのです。
 表の事情はと言うと、ファンド時代の同期の一人が、僕より1年前に、ハーバードのビジネススクールに入ったのです。年齢は1つ上で、よくできるやつだったのですが、28歳で、外資系金融企業でばりばり働いていて、給料もすごくよくて……というタイミングで留学をしてしまったわけです。
 留学すると、お金はかかるし、キャリアは途絶えて、給料も出ない。それに見合うベネフィットが果たしてあるのか、と思いました。正直、当時はいい給料をもらっていたので、2年間といっても、損失は大きいわけです。
 しかも、部下にMBAホルダーを使っていたのですよ。投資先の会社の社外監査役なども仰せつかっていました。
 それでもなおかつ留学するって、意味わからないわけですよ。周りの人間にも、いまさら留学なんてする必要がないといわれました。
伊藤:それでも気になった?
岩瀬:尊敬する仲間が留学をすると言い出したわけですから、気になりました。それで議論したのです。日比谷シャンテのオムライス屋さんでしたね。
 俺たちは留学すべきなのか。なぜこのタイミングなのか。
 そこで彼に言われてことが印象的だったのです。
「確かに、短期的に見れば留学は損だ。だけど、人生は短距離走ではなくてマラソンだ。だから、今世界を見ておくことは絶対自分の人生の糧になるから俺は行く」
 その言葉が心に響いてしまって、自分も行きたいと思ったのです。
伊藤:なるほど、でも、それだけでは人間そうそう踏み切れない。そこで裏の事情が登場するのだろうね。
岩瀬:ご明察です。実は、妻とは当時、遠距離恋愛の最中だったのです。彼女はニューヨークに留学していて、4年付き合って、その後の4年、離れ離れだったのです。そこまで離れていると、いろいろと行き違いも生まれます。すれ違いも生まれます。それで、「もう、このままでは無理」と言われて、これは追い掛けるしかないと思ったのですね。留学するか、当時所属していた会社のニューヨークオフィスで働くかの選択だったわけですが、先ほどの話もあって、これは絶対にハーバードに留学するほうがいいなと思ったのです。
伊藤:なるほど、それで合点がいった(笑)。
 それで留学をして、損はなかったわけだよね。大いなる学びがあったわけでしょう?
岩瀬:そうなのです。留学する前に、ハーバードのビジネススクールは、Transformational Experience。つまり、「人生が変わるような2年間」だといわれていました。正直、大げさだなと思っていました。ちょっと図に乗っていたのですね。そこそこコンサルタントも経験して、外資のファンドでも働いて、今さら何を……でも、結果的には本当に、すごく人生が変わったのですね。
 いろいろなことを考えさせられたのですが、あの留学で、自分の中に溜まっていたものが見事に外に出たのですね。毎日ブログを書いて、世の中に発信するようになったのもあの時でした。
 それまでは、あまり世の中のためとか考えたこともなく、自分が頑張って活躍できればそれでいいとしか思っていなかったのですが、パブリックマインドが芽生えて、友達にもすごく変わったといわれましたね。
伊藤:20代で外資系の、それこそハゲタカファンドなどといわれてしまうところで働いていたわけだからね。
岩瀬:まさに、おっしゃるとおり。そんな気分は吹き飛んで、その代りに、それこそいい意味でのリーダー意識とかエリート意識とか、意識の奥底で眠っていたものが浮かび上がってきた感じでした。

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