理想の歯科衛生士像【DHブログ - Vol.11】
『歯科衛生士は、身体のことを相談できる数少ない存在』
歯科衛生士3年目を迎えた春、歯科診療所の部門別に歯科衛生士10数名が集まり、スタッフルームでミーティングした時の事です。その時の議題が何であったかは記憶には無いのですが、自分が何を言ったかはっきり覚えています。
私は『例えば患者さんから「最近生理が不順で心配なんです」と相談された時には、患者さんの気持ちを受け止め、何かアドバイス出来る歯科衛生士になりたいです』と言いました。他の歯科衛生士の反応はなく、シーンとしたあるいはシラーとした嫌な雰囲気になっていました。議題は覚えていませんが、全くの見当違いな発言ではなかったことは覚えています。
しかしその時の雰囲気は、自分がトンチンカンな間違った意見を言ってしまったように思え、実に後味の悪いミーティングでした。あまりの反応の無さに、焦りから恥ずかしい気持ちも出てきたことや、『なぜ私の思いがわからないの?』という悔しさと悲しさ、また、あまりに無関心な態度に怒りさえ感じたため、今でも記憶に残っているのだと思います。
身近に自分の身体のことを相談できる存在はなかなかいません。患者さんにとって歯科衛生士は、数少ない相談できる存在なのです。当時ミーティングに参加した歯科衛生士には、患者さんに寄り添う気持ちはあるように思えませんでした。
あれから30数年が過ぎ、10年以上お付き合いのあるメインテナンス患者さんも増えてきました。このような患者さんとは、数ヶ月に1回定期的にお会いしていますから、口腔内の変化だけではなく、体調や心の変化、環境の変化にも気付きます。
ある時、メインテナンスで来院されている60代後半女性Bさんから『来週私、手術するの』と言われました。私は突然の手術と言う発言にびっくりし、思わず『えっ?何かありましたか?』と言ってしまいました。毎回メインテナンス開始前に問診していますから、突然のこの発言には驚きしかありませんでした。詳しく聞くと『10年以上前の乳癌の切除で胸にシリコンを入れていることは前に話たでしょ?そのシリコンがだいぶ古くなってタレてきたから、先生がお腹の脂肪を胸にもっていく手術を提案してくれたの。』ということでした。『あら、それはいい提案ですね!』と私が答えると『夫にもお友達にも誰にも話してないのよ。定期的に私の口の中や健康を気遣ってくれる長岐さんだから、私の気持ちわかってくれるかなぁって。』『わかりますよ、私もBさんと同じように手術します。』この言葉の後、私もBさんも涙腺が緩くなった笑顔で会話していました。
65歳女性Cさんが数ヶ月間で激痩せしたことがありました。私は口腔を診てから、歯肉の色や唾液量、プラークのつき方や質に変化があることをCさんに話しました。そして『何かありましたか?』と聞きました。すると、Cさんの口から『夫が胃癌になって、、ステージ4だと言われ、今自宅で夫の食事を作りをしています。』と話ながら、Cさんの目が赤くなり、みるみる涙が溢れてきたのです。この後、Cさんからもう少しだけお話を聴かせていただき、私がアドバイス出来ることをお伝えしました。他の人には言えずにいた気持ちを、受け止めてもらえたことが嬉しかったのだと思います。Cさんは笑顔で帰られました。
歯科衛生士3年目で理想としていた会話が、こうして叶えられ、目の前の患者さんを勇気付けているという実感があります。私は『専門家以上身内未満』の思いで、患者さんを勇気付けることのできる歯科衛生士を目指しています。
1人でも多くの歯科衛生士が、ただ患者さんのメインテナンス業務を行うのではなく、患者さんの心の拠り所のような存在になれればと、願っています。
~素敵な私たちでありますように~
長岐 祐子
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