さまざまなものが私たちの暮らしに彩りを与えてくれているなかで、もはや栄養となっているのが「推し」の存在。

推しといっても人に限りません。食べ物や生き物、乗り物などジャンルは多岐にわたります。

今回は「エンタメ」のジャンルで5名の編集部員に自身の「推し」について語ってもらうことにしました。

好きなものは多々ありますが、僕が子どもの頃から今に至るまで、最も長い時間をかけて楽しんできたのは「マンガ」だと思います。

マンガなんて、それこそ評論家のように詳しい人や「考察勢」が山ほどいますから、ここではあくまで「個人的にハマっているマンガ」としてご紹介させてください。気楽にご笑覧いただければと思います(ネタバレはしません)。

九井諒子『ダンジョン飯』に沈没した年末年始

私がおすすめしたいのは『ダンジョン飯(KADOKAWA、九井諒子著、全14巻)』。これこそ、その筋の方から言わせると「今更か!」と𠮟られそうですが、私がハマったのは最近です。

2016年の「このマンガがすごい!」オトコ編1位を受賞するなど、ずいぶん前から高い評価を受けてきた『ダンジョン飯』。もちろん僕も認識しており、「いつか読みたい」とずっと頭の片隅にありながら、実際に手に取る機会がありませんでした。

でも、ちょうど今月(2024年1月)から始まったアニメ化のプロモーションビデオなどをYouTubeで見て、あまりに出来がよさそうだったので、待ちきれず先にマンガを読み始めたんです。

結果としては……年末年始の休みで一気読み。ええ、大人買いをさせていただきました。妻からも「ずっとダンジョン飯読んでるね……」と半ば呆れ気味の小言をもらいましたね。

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超ハイクオリティーな作画と世界観、主人公の絶妙な「イカレ具合」

内容としてはタイトル通り、架空の世界における冒険ファンタジーもの。古典的なRPG的な世界観といいますかね。エルフやドワーフ、オークなど色々出てきますが、魔王やら勇者やらはいないあたりも個人的に気に入ったポイントです(これがいるとゲーム感が強くなりすぎるというか、感情移入しづらくなるので)。

ダンジョン(迷宮)の最深部でドラゴンに食われてしまった妹を助けるために、主人公パーティーがもう一度迷宮に潜り直すところから物語は始まります。

この世界における迷宮内では「人の魂を肉体に束縛する」呪いがかかっている(死が禁じられている)ので、死んでしまっても身体の損傷さえ回復魔法などで治せば、蘇生できることになっています。こういうゲームっぽい設定に、すべて仕組みや理由があって説明されているところがいいんですよね。

なので、妹がドラゴンに消化される前に助けにいこうとするのですが、食糧などの物資も、調達するための資金も足りない。そこで主人公のライオスは「食糧は迷宮内で自給自足する」と、倒した魔物を料理して食べながら妹を助けに向かう……という話です。

このマンガの個人的なポイントをざっとまとめてみました。

●作者の絵がメチャクチャうまい。
●料理が美味しそう。
●世界観が作りこまれている。
●キャラクターの個性と表情が豊か。
●「お人よしサイコパス」という新しい主人公像。

一つひとつ説明すると長くなるのですが、一言でいうと「作者の空想力・創造力の高さと、それを具現化する画力がすさまじい」ということになるかと思います。

最終巻の表紙。あまたの冒険を乗り越えて最後に食べるのは……やっぱりヤバい

今時、絵のうまい漫画家さんやイラストレーターさんは星の数ほどいます。昔からそうだったと思われるかもしれませんが、最近はデジタル作画などのテクノロジーの進歩や、作画について学べる環境がひと昔前とは天と地ほど違うので、無名の方でもプロ並みに上手なんです。

でも、九井さんはそういう「今どきのうまさ」ではありません。ものすごく細部まで書き込まれているというわけではないし、絵画のような写実性があるというわけでもない。むしろ少し古風なタイプの絵柄といってもいい(あくまで個人の感想です)。

にもかかわらず、線の1本1本がとても力強く、構図が非常に分かりやすく、かつ斬新。キャラクターもそれぞれが生き生きとしている。当たり前のように思われるかもしれませんが、だれ一人として「似たような顔」のキャラがいないんです。

人気作でもよくありますよね、髪型を変えたらキャラクターがみんな同じような顔になっちゃう作品。ダンジョン飯は、それがまったくない。

登場するすべてのキャラクターが、オリジナリティーと躍動感、生命感にあふれている。予定調和的な言動をとったりもしない。みんな好き勝手に動いている感じがすごくするんですね。

で、その中でもっとも「イカれて」いるのが主人公のライオス。妹を助けるために、魔物を食べてでも迷宮の奥地へ向かおうとしている……はずなのに、時々「妹の救出<<魔物食」になるんです。

挙句の果てには「ファリン(妹)がいたら今頃こんなおいしい物は食べられなかっただろうな」と口走る始末。ふとこぼした本音が、マジでサイコパス……。

そもそもライオスは人間社会に興味がなく、魔物が好きで好きでしょうがないんですよね。好きが高じて「そのうち味も知りたくなった」というところがまたヤバい。

こんなに共感できない主人公なのに、基本的にはとても仲間思いで、時にタチの悪い連中に騙されるほどお人よし。「お人よしサイコパス主人公」の爆誕です(笑)。

気になったらアニメから入るのもアリ

というわけで、語り出したらとまらないのですが(肝心の「飯」について語ってない……)、本当に面白いのでぜひ一度読んでみてほしいです。放送中のアニメから入るのもアリだと思います(アニメも素晴らしい出来)。

最後に、ダンジョン飯の名言を一つ。「ただひたすらに、食は生の特権であった」。

食すとは、生きること。生き物の命をいただいて生きているのは、現代社会も変わりませんよね。そのありがたさと、生きているからこそ味わえる特権に感謝して、今日もごはんを美味しく食べようと思います。

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