足を踏み入れると、デザイナーズものの家具やインテリア、さまざまなアート作品がわけへだてなくひしめいていています。
で、ありながら、おごそかな気分になってしまうわけでもなく、むしろ肩肘張らない親密な空気も流れている不思議。
お名前(職業):M.Fさん(PRプランナー)、夫(取材時は不在)場所:東京都世田谷区
広さ:およそ200㎡(バルコニー込み)
分譲/リノベ費用:非公開
築年数:築50年
間取り図:
編集部作成
「お手本にしたのは、パリのアパルトマンです」
そう聞いてスッと腹落ちしたのは、きちんと土台作りがなされているから、空間に“無理”が生じていないんだと、はたと気づいたから。
■目次1. この部屋に決めた理由
2. お気に入りの場所
3. お気に入りのアイテム
4. 残念なところ
5. 暮らしのアイデア
6. これからの暮らし
この場所に決めた理由
「実家に帰ってきた感覚ですね」
じつは、社会人1年目の頃からこの辺りで一人暮らしをしていたというMさん。その後結婚して、同じエリアで引っ越した先が、まさにいま暮らすこのマンションの別室だったというから驚きです。
「ここは4、5年住んだあと、転職を機にいちど離れたんです。しばらくは通勤で便利な都心で暮らしていたのですが、自宅で仕事する時間が増えたのを機に、家を探しはじめて。たまたま、条件にピッタリなこの部屋が空いているのを見つけたんです。まさか、以前住んでいたマンションの別の部屋を購入することになるとは思いませんでした……(笑)」
働き方の変化に応じて、家や生活にもとめることや、大事にしたいこともかわっていったのだとか。なによりたっとぶようになったのは、ズバリ、緑が身近にある環境。
「以前ここに住んでいたときから、この景色が好きだったんです」
さもありなん。リビングの一面が眺望になっていて、背の高い建物に遮られることなく遠くまで広々と見渡せます(取材をおこなったのが緑々としはじめる前の時期だったことが悔やまれる!)。
以前住んでいた頃からの近所付き合いもあるし、マンションの管理状況などもわかっていた。土地勘もあって、もとめていた緑ある景色も申し分ない。ここに決めるハードルがかなり低かったのにも、うなずけます。
「ご近所さんから『おかえりなさい』って言われたときは、ホッとしました」
お気に入りの場所
すべてを包み込む、ヘリンボーンの床内装は、ほぼスケルトンの状態からリノベーション。夫婦そろって海外の建築やインテリアが好きで、海外旅行などを通してそうしたものに多く触れてきた経験を活かしながら、デザイナーとコミュニケーションを取っていったそうです。とりわけイメージのベースにあったのは、パリのアパルトマンだったとか。
「参考にしたパリのアパルトマンの部屋は、クラシックな内装がベースにありながらも、現代的なテイストの家具がミックスされていました。我が家も、あまりワンテーマでガチッと固めたくはなかったので、クラシカルなパターンの床をベースにすれば、アート作品やさまざまなジャンルのインテリアなどを同じ空間でミックスできると思って」
リビングの床はヘリンボーンだが、廊下、寝室は同じ材を使いながらパターンを変更。予算の問題を解消するためでもあったが、結果的に、パターンを切り替えることで空間をゆるやかに区切ることにも。
どの部屋にも花器が置かれている。骨董店で見つけたもの、北欧メーカーのもの、H&MやZARAで見つけたものなど、セレクトのわけへだてなさが気持ちいい。
リビングの一角は、ゆるやかに仕切られたワークスペース。Mさんがもっとも長く時間を過ごす場所だという。ピエール・ポーランのワークデスクを選んだ決め手は、ズバリすっきりとした背面。リビング側から見える光景にまで抜かりなく気を配っているんですね!
たしかに、絵画や写真作品、有名デザイナーの家具やインテリア、花器、と、住まいのいたるところにさまざまなアートピースが散りばめられているのに、うるさくないし、むしろよく馴染んでいてまとまった感じ。その秘密は、床の包容力にあったのか!
キッチンだったバスルーム。バスルームだったランドリースペース
改装段階で、もとあった状態からもっとも大きく変更を加えたのは、水回りスペースの配置だったそうです。
叶えたかったのは、理想のバスルーム。
もともとキッチンだった空間を、防水基準をクリアする仕様につくりかえ、バスタブとシャワーブース、浴室専用の洗面台をそれぞれ置いて、ホテルさながらの浴室に。
「置き型のバスタブや、ゴツさのない薄型のシャワーヘッドは私たち夫婦のこだわりなんです。どちらも、クラシックさとモダンさが両立するようなデザインを選びました」
窓からは気持ちのいい光も入るし、こりゃ、昼間っから入る風呂は最高だろうな〜!
ちなみに、移動することとなったキッチンは、リビングに組み込んで、対面式に。フラットなキッチンカウンターは、お手入れをしやすくするための工夫だと言います。
お気に入りの食器として挙げてくれたのが、海外のホテルやレストランでも使われている、アメリカの「JONO PANDOLFI」のもの。ハンドメイドにこだわった工房で、素焼きの温もり感とスタイリッシュなデザインが、和食にもマッチしてお気に入りなのだとか。
そして、もともと浴室だった場所はランドリースペースに。暮らしていくうち、ここがなかなか便利なことに気づいたそうで。
「まず、洗濯から乾燥までがここで完結するんです。また、その日着ていたアウターなどをここに一晩置いておくことで、外でついたニオイや、花粉やほこりなどを落とすことができます。さらに、ロールスクリーンで洗面所との間を仕切れるので、来客時には、洗濯物など見せたくないものを隠すことができます。リノベーションして、実用面で一番よかったのは、案外ここかもしれません」
お気に入りのアイテム
初めて買ったアート作品住まいの随所に絵画や写真作品を飾っているMさんですが、そもそもどっぷりのめり込むことになったきっかけはというと、玄関を入った正面に飾ってある大きなリトグラフ。
「高屋永遠さんというアーティストの作品で、私が初めて買ったアートなんです」
前職時代、当時の会社で行われていた、若手アーティストを集めたアートフェアに参加したときに出合った作品だとか。最初の一歩にしては、かなり思い切ったサイズの買い物で、気持ちがいいな〜! でも、アートを買おうと思った理由は?
「なにより、『家に飾りたい』って素直に思えたんです。こうしたアートはそれまでも好きでしたが、家に飾りたくなるものと出合ったことはなかった。でも、この作品はそのイメージが湧いたんですよね」
スペインで暮らす日本人アーティストの作品。人種は違えど、だれもが同じ赤い血を流しているというメッセージが込められているとか。
それからは、堰を切ったようにさまざまなアート作品を手に入れては、住まいに飾るようになったってわけです。要はきっかけ次第。アートが好きでも購入まではなかなか至らないってひとは、とりあえず何でもいいから買って家に置いてみては(沼っても責任は負えません)。
50年前につくられた、桐箪笥とピアノ
いわゆるなアート作品とわけへだてなく、家具やインテリアもアート視点で選ばれているのが見てとれます。たとえばこの収納箪笥もしかり。
桐箪笥の背面に、なんとアクリル板があしらわれている!
「富山でアップサイクル家具を手掛けているYESさんのものです。青山のインテリアショップ・Nick Whiteで見つけました。現代アートみたいで面白いなと思って」
また、リビングにあるアップライトピアノも、なんだか素敵なたたずまい。ルックスにも気を配って選ばれたことがわかります。
「子供の頃からピアノをやっている夫が、ヤフオクで見つけたKAWAI製のピアノです。コンパクトで、ラブリーな猫足じゃないところが好み。私も、6年間くらい趣味でピアノを習っているんです」
ちなみに、桐箪笥もピアノも、いまからおよそ50年前につくられた年代モノだとか。あえてその年代のものを選んだのには、理由もあるそうで。
「このマンションが築50年ほどなので、同じくらい古い家具やインテリアが、よく馴染むと思うんです」
ただ見映えのいいものや名のあるものを選ぶのではなく、空間との相性を考えながらていねいに選ぶ。そのまなざしに、品のよさを感じるな〜!
残念なところ
古さが拭いきれない共用部
「とりあえずやり切ったかなと、一段落しています。“家のなか”は」と話すMさん。
“家のなか”は? あ、なるほどね。部屋のなかと同じくらい広いバルコニー(なんと、約100㎡以上もある!)の使い途を、これから考えなきゃいけないってことか。と思いきや……。
「マンションの共用部を、もっとおしゃれにしたいなと思っているんです」
ん?共用部?
「もうすぐ大規模修繕をするらしいんです。いま夫が理事会に入っているので、そのときに、なにか提案したいなと思っていて」
なるほど。確かに築50年の建物とあって、一歩おうちの外に出ると、パリのアパルトマンのような魅力は感じられないかも……。毎日家を出るときや疲れて帰ってきたとき、来客があったときとか、たしかにマンションの入り口が気持ちいいに越したことはない。でも、まさか共用部にまで気を配っていて、なんとかしようと本気で考えているなんて。住まいへの飽くなきこだわりたるや!
暮らしのアイデア
隠す、魅せる
たとえば梁やアルミサッシなど、古い建物につきもののディテールは、リノベーションをおこなう住まい手にとってときに厄介な存在です。
Mさんの住まいにおいても例外で、たとえば寝室の壁の中央にある窓。
その中途半端な位置と大きさに残念感をおぼえていたMさんは、思い切って壁全体を覆う長さのカーテンをとりつけることに。
「あえて上からカーテンを取り付けることで、窓を隠すだけじゃなく、空間を広く見せる効果を期待したんです」
カーテンの窓以外での使い道と言えば、「隠す」シーン。この部屋でも、カーテンは服を収納を隠す、クローゼットの役割を果たしています。
扉のあるクローゼットだと、圧迫感が気になりますが、カーテンを使えば、まるで壁の一部のように、自然な印象に。
それでいて、いかにも隠しカーテンとわかるような見た目で悪目立ちをしないようにと、ハリのある固い素材を選んだというところに、カーテン使いのセンスがうかがえます。
また、窓のアルミサッシも、リノベーションする上では関門になり得るディティール。実際、「ここが一番苦労しました……」とMさんもぼそり。
とりわけリビング一面の窓。景色は観たいけれど、アルミサッシは視界に入れたくない。そんなトンチのような難題をクリアしたのは、部分ごとに細かく動かせるウッドシャッター。
気になるアルミサッシのある部分だけを隠しながら、光と景色は取り込めるように。
開けながら、開けない。二兎を得ちゃったわけです。
隠しながら魅せるアイデアは、こんなところにも。この見せる本棚は、そもそもエアコンを隠そうとして、偶然生まれたもの。
「エアコン隠しのルーバーを取り付けるとき、デザイナーさんから、『ついでに、本棚も扉をつけて隠してしまうのはどうか?』と提案があったんです。でも、でもあえて見せる収納にするのもいいんじゃないかって」
実際、目線は収められている本のほうに自然と向かって、上にエアコンがあることには、言われるまで気づかなかった!
また、本の収納方法にもある工夫が。
「日本の書籍の表紙は、白系が多いんですよ。一方、海外のものはカラフルなものが多くて、眺めているだけでも楽しい。だから、目の高さの棚に洋書を、下のほうに和書を収納しているんです」
これからの暮らし
さまざまなアートピースを揃えながら、あくまで、アパルトマンのような親密さを感じさせるMさんの住まい。凝らされたさまざまな工夫も、空間や生活に自然ととけこむものばかりでした。
理想の住まいが完成したいま、これからは、友人・知人を招いて、ホームパーティがしたいのだと、Mさんはいいます。リビングの向かい合うかたちで置かれたソファなど、よく見ると、コミュニケーションが円滑になるようなさりげない配慮も。
きっと、これから着手されるというバルコニーも、アートフルで、団欒にピッタリの場所になるんだろうな〜!
リノベーションは必要なところだけ。もとのポテンシャルを生かした、愛着が湧く築48年1LDK(渋谷区)
こだわりのデンマーク家具と観葉植物が白壁に映える。73㎡マンションの広々ふたり暮らし(東京都世田谷区)
Photographed by Kenya Chiba
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