「服から服をつくる®︎」。そんな発想で、人にも地球にもやさしい取り組みをしているのが、アウトドアシーンを中心にファンを増やし続ける「BRING™️(ブリング)」です。
服づくりのコンセプトや、服から服をつくるサーキュラー・エコノミー、そしてBRINGが目指す未来とは……。
東京・恵比寿にあるBRINGの直営店に伺い、ブランド担当者である中村崇之さんと山城美聡さんにお話を聞きました。
服づくりを始めたのは、リサイクルに消費者を巻き込むため
BRINGのディレクターの中村崇之さん。ブランドの立ち上げから服のマーチャンダイジング、ブランディング、イベント企画などまで、幅広く携わっています。
──恵比寿に直営店がオープンして1周年を迎えたそうですね。BRINGのブランド自体はいつから始まったのでしょうか。
ブランドの歴史でいうと、2010年にさかのぼります。はじめは回収した着なくなった服をバイオエタノールにリサイクルしていました。
そのエタノールは、僕らが間借りしていた染色工場の燃料にしていたんです。でもそれだと、一般の消費者には自分たちの服がどうリサイクルされているのかが見えにくいですよね。
もっと消費者を巻き込む方法はないかと考えてたどりついたのが、「服から服をつくって、消費者とリサイクルをつなげよう」というコンセプトなんです。(中村さん)
服の回収と綿繊維をエタノールに再生する技術(現在は事業終了)などをブランドの中心にして2010年に始動したのが「FUKU-FUKUプロジェクト」というもので、その後2017年に、服から服を作る「BRING」とリブランディングして、今に至ると語ります。
2017年には、服のポリエステル繊維をポリエステル樹脂に再生する自社工場(北九州響灘工場)ができました。ポリエステル樹脂の生産能力は1年で最大1000トン。ちなみに、2021年に回収した衣料品の量は1196トンでした。(中村さん)
──1000トン、1196トンっていうその量が想像もできないですが(笑)、それだけの不要な衣料品がみなさんのクローゼットに眠っていたことに驚きます。
そういうことです。ショッピングモールなどで服の回収イベントをすると、1回で3トンは集まりますね。有名百貨店の全店舗で実施したときは、約1週間で200トンが回収されました。
着なくなった服は、お下がりで誰かにあげたりフリマサービスで売ったりする人が多いと思いますが、穴や変色、シミのある服などは「捨てようか」となりますよね。
でもBRINGは「ケミカルリサイクル」という手法で分子レベルまで分解するので、傷んで他の人に譲ることができない服であっても、ポリエステルの服であれば再びポリエステル繊維の原料に再生して、新しい服をつくることが可能です。
当社の技術では染まっているポリエステルの色も抜くことができるので、リサイクルしてできた再生素材をまた新たに好きな色に染められるのも、ケミカルリサイクルの優れた点だと思います。
ポリエステル100%繊維を一度まっさらなポリエステル樹脂に戻し、糸を紡ぎ、生地にして、服をつくっています。(山城さん)
取り組みへの共感が止まらない。全国に回収拠点は約3,500
BRINGの山城美聡さんは、サーキュラー・エコノミーを実践する職場を求め、BRINGに新卒で入社。営業やマーケティングのサポートを中心に担当しています。
──リサイクルやリユースをしたいけれど、どうすればいいかわからなくて仕方なく捨てている、タンスの肥やしにしているという人は多いと思います。BRINGの回収拠点の存在を伝えたいですね。
当社のリサイクルシンボルであるハチのマークが目印です。今日お越しいただいたこのショップでもお預かりできますよ。ぜひお持ちいただけたらと思います。
私たちのプロジェクトに賛同して回収を実施してくださるブランドさんは約200、回収拠点(スポット開催含む)は全国で約3,500拠点もあります(2022年10月時点)。ホームページの「BRING MAP」から、お近くの回収拠点を検索できるので、ぜひ調べてみてください。(山城さん)
直営店の「BRING EBISU」をはじめ日本全国のショップに置いてある回収ボックス。
回収ボックスは、自社のアイテムだけを回収しているブランド、どこの服でもOKというブランドなどさまざまだそう。
いずれにせよ、思いや取り組みに共感していただけるのがうれしいです。
回収できるものは衣料品のみで、ベルトなどの小物や、タオルや寝具などは回収していません。回収後、BRINGでは衣料品についている品質表示タグを見て、素材ごとに仕分けており、ポリエステル100%繊維のものは、BRINGの工場でポリエステルの樹脂にリサイクルされます。
回収した服のなかには、新品のタグがついたままのものもあります。そういったまだ着ることができる服は全体の約5割強あり、リユースします。そのほかは素材に応じてリサイクルします。ポリエステル樹脂に生まれ変わるのは、約9%ほどです。
北九州の工場で製造する再生ポリエステル樹脂は、5%が店頭回収分、95%は縫製工場などから出る繊維くずを活用して製造しています。(山城さん)
──これからは、店頭にハチのマークの回収箱が目にとまりそうです。ところでBRINGというブランド名の由来やハチをモチーフにしている理由は?
まずはお客様が古着をお持ちになるという意味での「BRING」ですね。そして「ハチが蜜を集めるように、みんなで服を集めよう」という意味も込めています。
あとは、ハチは「Bee(ビー)」なので、「B」から始まる「RING(循環)」とか、「8」を横にすると無限、つまりサスティナブルという意味になるとか、いろいろと隠れた意味があるんです(笑)。(山城さん)
つくるのは、ポリエステルの特性を生かした「目的のある服」
──いよいよ服の話です。再生されたポリエステルでどんな服をつくっているんですか?
私たちは「目的のある服をつくる」を掲げ、「それぞれの服を、どんなときに使いたいか、何をするための服か、誰に着てほしいか、どんな体験をしてほしいか」を想像しながらデザインしています。
ポリエステルという素材に親和性が高いのは、やはりアウトドアやアクティビティシーンのウエアですね。
ポリエステルは丈夫で耐久性があり、熱にも強いのが特徴です。また洗濯を繰り返しても縮みや型崩れ、色落ちがしにくい素材で、吸水性と速乾性に富んでいます。(中村さん)
BRING「DRYCOTTONY Long sleeve T-shirt」5,830円(税込)。ホワイトのほかに、ブラックやグレーなど全10色展開。
さらに、ポリエステルにはいろんな機能を付与することができると中村さんは続けて語ります。
ポリエステルって、いろんな可能性がある素材なんですよ。
人気なのが、いま僕たちが着ている「DRYCOTTONY(ドライコットニー)シリーズ」です。汗をかいてもすぐ乾くので、いつもサラッとした着心地が快適です。
たとえばコットンだと、とくにパーカーなど、フード部分などの厚みがある部分はなかなか乾かないけれど、これは夜に洗って干しておけば朝には乾いちゃうほど。
ポリエステルだけど、見た目も触り心地もまるでコットン。洗ってもくたびれないし、すぐに乾くのでホームウエアにしている人も多いです。(中村さん)
BRING「AnoDenim Climbing Pants」16,500円(税込)
一方で昨年出したデニムは、普段のコーデに取り入れたくなるクオリティ。
ポリエステルの色落ちしにくいという特性を生かしました。ヴィンテージデニムの色落ちもかっこいいけれど、深いインディゴブルーのパリッと感のあるリジッドデニムが好きという人もいます。僕もそのひとりです。
発売して1年が経ち、いろんな方から評価をいただけて、あらためて「そういうデニムを好む人も多いんだなあ」とわかりました。
どのアイテムにもブランド名のロゴをあえて入れず、どんなライフスタイルにもなじみやすいベーシックなデザインにしています。(中村さん)
──素材やデザインはもちろんですが、リサイクルや環境配慮というところにも共感して、BRINGの服を選ぶという人も多いのでしょうか。
はい、そう言ってくださる方は多いですし、そのことをとてもうれしく思っています。
日本では「パリ協定」をもとに、温室効果ガスの削減目標を「2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減」としています。
私は、サーキュラー・エコノミー(循環経済)を実践している企業を探して入社しました。チームメンバーとは常に課題について話し合える恵まれた環境ですが、それでも「これでは目標までに間に合わないんじゃないか」と打ちのめされるような気持ちになることがあります。
そんなときに、イベントやショップでお客様とお話をしたり、服の回収に参加するお客様の姿を目にすると、「ああ、私たちのやっていることは間違っていないんだな」って思えて、すごく励みになるんです。
また、お客様はもちろん、いろんな企業から賛同や共感の声を頂くことが増えました。発信力のあるブランドとのコラボや、メーカーに原料を提供してモノづくりに活かしていただくなどBRINGの取り組みが日に日に広がっています。(山城さん)
矛盾しそうな「地球環境への配慮」と「服の販売」を両立し、経済を回していく
東京・恵比寿にあるBRINGの直営店。フルラインナップが手に取れます。
──これからも変わらないBRINGらしさとは?
直営店の回収箱に服を持ち込んでくださったお客様には、BRING製品を10%オフで購入できるチケットをお渡ししています。これ、ちょっと矛盾していると思いませんか?
服を買うという行為は、サスティナブルの反対側にあるものと捉えられてしまいがち。一般的に、地球環境の配慮には「できるだけ買わない」「抑制する、我慢する」というほうが相性はいいと思うんです。
でも、経済を回す必要はあるし、僕たちもボランティアでは成り立ちません。利益を生んで会社を継続していくこともサスティナブルと言えます。だから消費を止めたくないんです。
僕らが目指すのは、サーキューラーとエコノミーの両方をきちんと実現していくこと。
そのために必要となるのが「生き延びるためのデザイン」です。着た服を何度でもリサイクルできる服をデザインすること。そのためのインフラをつくって稼働していくこと。その両軸をしっかりと維持していきたいと考えています。
服を着て、古くなったら回収して、リサイクルして原料に戻し、また服をつくり、再び着る人のもとへ戻る。BRINGとして、そんな循環を提案し続けていきたいですね。(中村さん)
──サーキュラー・エコノミーや地球環境への配慮というと、国や企業のレベルで取り組むことというイメージがありますが、私たちが今日からできることはありますか?
まずは、できるだけ服をゴミとして捨てないことですね。ゴミとして捨てられた服が燃やされてしまったとしたら、それだけでCO2が排出されるということに気付いてない人が意外と多いかもしれません。
僕たちの工場でポリエステル樹脂を製造する際、石油から製造する場合に比べると、CO₂の排出を49%抑えることができます。
ですので、服を捨てずに僕たちの回収箱に入れるだけで、燃やされて発生するはずだった温室効果ガスの排出を抑えることができたと思ってもらえたらいいと思います。(中村さん)
また、BRINGを運営するJEPLANグループでは、飲み終わったペットボトルをリサイクルしてペットボトルの原料に再生させる工場も運営しており、PET樹脂製造におけるCO2排出量は、石油から製造する場合と比較すると約47%の削減になるそう。(※)
つまり、「ポリエステル100%の服を回収ボックスに出したからCO2排出量を49%減らせた」という積み重ねを大切にしたいということです。
「2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減」と掲げると、自分ごと化しにくいですが、自分にできることもあるので、それをひとつずつやっていく……。
少なくとも僕たちはそうありたい。毎日の楽しみを制限せずに、着ることや暮らすことの豊かさと両立させながら取り組んでいく方法を、ご提案し続けていけたらと思っています。(中村さん)
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