そこで、さまざまなジャンルで活躍する方々に「10年後も手放さない」思い入れのあるモノを、31×34.5cmという限りのある『ROOMIE BOX』の中に詰め込んでもらいました。
なぜ、「10年後も持っている」と考えるのか―――。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてきます。
三戸なつめさん
1990年2月20日生まれ。奈良県出身。
2015年に中田ヤスタカプロデュースによる『前髪切りすぎた』でアーティストデビュー。
2018年より、本格的に俳優としても活動を開始し、ドラマ&映画「賭ケグルイ」や舞台「鉄コン筋クリート」などに出演。映画「パディントン」では日本語吹き替え声優も務め、2020年に映画「明日、キミのいない世界で」では初のヒロイン役で出演。2020年NHK連続テレビ小説「おちょやん」では実母役に挑戦。今秋に映画「シノノメ色の週末」の公開を控えるなど、今後も多数のドラマや映画の出演を控えており、モデル、タレント、女優として幅広いジャンルで活躍している。
10年後も手放さないモノ
漫画『鉄コン筋クリート』漫画『鉄コン筋クリート』をはじめて読んだのは、小学校低学年の頃です。姉が読んでいて、一緒に読むようになりました。当時は話の筋よりも絵が好きで、アート感覚で見ていた感じです。
主人公は孤児のふたり、クロとシロ。ふたりが地元のやくざたちと喧嘩しながらも自由奔放に、仲良く暮らしていた下町・宝町に、レジャーランド「子どもの城をつくろう」と外国系の闇企業が乗り込んできたことで、街がどんどん変わっていくんです。それをクロとシロが嫌がったことで大きな揉め事へと発展し、殺し合いが繰り広げられることになっていきます。
同じ作品でも、数年後に読み返すとまた全然違ったりすることってあるじゃないですか、感じ方が。
『鉄コン筋クリート』も上京後、ご縁をいただいて舞台でシロ役をさせていただけることになったときに、改めてじっくりと読み返してみたら、子どもの頃と感じ方が全然違っていて。
昔はとにかくシロが大好きで、今も一番好きで共感できるキャラクターなんですけど、大人になるにつれて、主人公以外のキャラクターにも感情移入するようになりました。
例えば、ほんのちょっとしか登場しない朱美という女性キャラクターが最後に言う「私は絶対男なんて産まないわ」というセリフがあるんですけど、小さいころはまったく意味が分からなくて。
でも30代になって読み返してみると、朱美がそう言った背景について考えたり、この人の未来はどうなっていくんだろうと想像したりして、自分の着眼点が変化していることに気づかされました。
また、話の後半にイタチというキャラクターが出てくるんですけど、小さい頃は「イタチはイタチだ。悪者だー!」と思っていたのが、大人になって読み返してみると、目には見えない自分の心の中にいる悪者がイタチだと受け取る私がいて。
だから誰の心にも多分イタチっているんだろうなって思えるようになりました。実際、悪に振り切ったら振り切ったできっと楽なんだろうけど、それは違うよって止めるシロの善があったりもして……。
いまでも、なんか自分の性格が悪くなってると思ったときなどに読み返すと「いま、私はイタチや……」と思うことで、自分の悪いところを受け止められたりします。
同時に一番好きで、そもそもの思考回路が自分に似てるなと感じるシロの子どもっぽさや純粋無垢な言葉に触れることで、「やっぱりこんなふうに自分のなかの正義を大切にして、自分に正直に、ありのままの自分で生きていきたい」という気持ちに戻ることができたりもしますね。
出演した『鉄コン筋クリート』の舞台でも、演じているようで演じていないというか、まわりの俳優さんがみんな私をシロだと思って接してくれるので「何をしてもいい!」みたいな安心感があって。無理に役づくりなどしなくても、自分の中のシロを100%出せた貴重な経験をさせてもらえました。
うまく言葉にはできないけれど、成長していくクロとシロの姿や、その他の登場人物の言葉や立ち居振る舞い、ストーリーを通して、生きていく上で大切なことを「そうだよな、だよな!」と改めて感じさせてくれるのが『鉄コン筋クリート』だから。
10年、20年後もずっと持っていたいなと思います。
写ルンですいま話してて思ったんですが、これまでずっとそばにあって10年後も持っていたいと思うものが、もう2つありました。
ひとつが「写ルンです」です。
今日は、たまりにたまった「写ルンです」たちを仕事の帰りに現像に出そうと思って、たまたま持ってきていました!
「期限が2019年のものとかもあって、ちゃんと現像できなかったらどうしよう(笑)」(三戸さん)
「写ルンです」をはじめて使ったのはいつなのかなぁ、覚えていないですね。気づいたら当たり前にあった感じです。
お姉ちゃんと年が離れていることもあって、小さい頃からひとりで遊ぶことが多かったんです。そういうときに「写ルンです」で自撮りをして遊んでいて、現像したらほとんど白飛びしてる、みたいな(笑)。
気づけばずーっと撮っていて、いまでもプライベートで遊びに行くときには持っていくことが多いです。
例えば、地元の一番仲の良い子たちと毎年沖縄に行くんですが、そのときは必ず「写ルンです」を2個持って行って、ちょうど使いきる感じ。キレイすぎるよりも、ちょっとボケてる方が好きで、人物写真が多いかも。
三戸さんが沖縄へ行ったときに「写ルンです」で撮影した写真たち
撮った写真はデータに保存して、ふとしたときに見返しては「あ~やっぱええ写真やな」「このとき、しょうもないことでいっぱい笑ったな~」「楽しかったな~~」と沖縄の思い出に浸っています。
いまでも自撮りしたら、手前の人がパアー!と白飛びしていて、奥の人は真っ黒! みたいなことはしょっちゅうで。室内で撮るのは難しいですね(笑)。
スマートフォンでももちろん撮りますが、「写ルンです」で撮った写真の方がよく見返します。
クマのぬいぐるみ作・絵を手がけた絵本「ムム」のモデルになったぬいぐるみ撮影:三戸さん
もうひとつが、5歳のときにお母さんが仕事で海外に行ったときにお土産で買ってきてくれたクマのぬいぐるみです。
年季が入っていて、リボンももうボロンボロン(笑)!
話していて思い出したんですけど、私って昔から、あるものがなくなったり変わったりすると悲しくなっちゃうんですよね。
奈良の鴻ノ池にあったレトロな遊園地(ドリームランド)がなくなったときもすごく悲しかったなぁ。あそこの木製コースターがめっちゃ好きで……。あとは、通ってた小学校が改装されたときも結構悲しかった。「めっちゃキレイになっちゃった……」みたいな。
なんだろうな、なんか悲しいんですよね。あったものがなくなるのって。
だから『鉄コン筋クリート』で描かれていた、街が変わっていくことを悲しむ登場人物たちにも感情移入しちゃったのかもしれません。
毎日、新しい情報やモノは次から次へと目に入ってくるし、それも嫌いじゃないんですけど、やっぱり安心できるのは昔から当たり前にそばにあるものだったりしますね。安心するし、子どもに帰れるというか、自分の本質みたいなものに帰れる感じがします。
三戸さんの10年後
お仕事をつづけていたいし、役者業やお洋服のプロデュース業など、いまやっていることは継続していたいです。
プライベートでいうと、私、結婚願望があんまりなくて。「ひとりで素敵なおうちに住みたい」みたいな思いがあります。
これまでに3回引っ越してるんですが、3回とも「この部屋、なんか違うな」って(笑)。あんまりおしゃれな部屋にできなくて……。
以前に、シングル女性専用のマンション「One Chair」に住む女性たちの物語が描かれた『わたしの部屋には椅子が一脚』という漫画を読んだのですが、タイトル通り、そのマンションには、自分が座るための椅子を一脚だけ置いた女性たちが暮らしていて。
ソファとか含めて、椅子って部屋に何脚かあることが多いじゃないですか。けど、その女性たちの部屋には一脚の椅子しかなくって。
あ、なんか素敵と思って。
自分のためだけの椅子、いいじゃん! と。
なので、いつかそういう椅子に巡り会って、自分が心から気に入ったお部屋にその椅子を置けたらいいなぁって思ってます。買うことができたら連絡しますね(笑)。
Information安東雅美役で出演する映画『シノノメ色の週末』2021年秋に公開予定。
ブラウス 9,900円(税込)、ワンピース 19,800円(税込)、パンツ 13,200円(税込)/すべて カロリナ グレイサー 、その他すべてスタイリスト私物
Photographed by Kayoko Yamamoto Hair&Makeup by YOUCA Styled by Natsuki Takano Special thanks to nephew
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