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建築家が自由につくるマンションリノベ部屋。“消費”ではなく“生産”の場となる家とは?(渋谷区)|みんなの部屋

2021/03/02 14:00 投稿

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渋谷駅を中心に再開発がすすみ、日々変化しつづけている街・渋谷区。今回の舞台となるのは、そんな渋谷の中心地からは少しはずれた、富ヶ谷の閑静な住宅街。

東大のキャンパスにほど近い趣あるマンションの一室に、「ヨヨギノイエ」と名付けられた日高さんのお住まいはありました。

お名前(職業):日高海渡さん(建築家)
場所:東京都渋谷区
広さ:2LDK 102.78㎡
工事費:1300万円
築年数:50年
住宅の形態:マンション

 

ドアを開けるとすぐに広がるのは、外観からは想像できない開放的な2LDKの住まい。

建築家である日高さんが、祖父母から引き継いだ住まいを自身で設計し、リノベーション。歴史を継承しながらも新たに生まれ変わった空間には、通常の住居では見られないさまざまなアイデアに溢れています。

住まいを消費の空間ではなく、生産の空間にしていきたいと話す日高さんに、こだわりの部屋と、「家開き」によって生まれる住まいの可能性について話を伺いました。

お気に入りの場所

光も人も集うオフィスリビングのデイベッド

日高さんの住まいは、20mにわたって大きな南向きの窓がついた、光がたっぷり降りそそぐ間取り。

この採光を活かして、窓毎に空間の役割が分けられています。

「学生時代に窓の研究をしていて、世界中の窓を集めていました。そこでは窓単体ではなくて、入ってくる光による時の刻みかたやそこにいる人の佇まいまでを含めて、窓が創り出す居場所として定義していたんです。

その経験から自分自身がこの家を設計する際も、窓と家具や用途をセットで考えるようになりました」

東西に伸びる住まいの中心に位置するのが、オフィスリビングエリア。

「ここでは眠りや団欒を意識した窓として、窓際に造りつけのモルタル仕上げのデイベッドを制作し、そこにマットレスを設置しています。

夏は明るい色で薄手のレースなど、冬は濃い色で毛布など、季節に応じて色味や布の種類を変えながらクッションやテキスタイルを飾っています」

日高さんが食事会で家に人を招いた際も、気づくとダイニングキッチンではなく、このリビングに人が流れているのだそう。

「家の中心にある場所だということもあり、友人を招いた時は大体ここでテーブルを囲むことになりますね。日中は陽の光がベッドを照らすので、ひとりのときもよくここで日光浴をしています」

お仕事も、1日の半分はこのスペースで行っているそう。

窓が大きな分、1日の流れが感じられていいですね。

ストーリーのある民芸品を集めたオープンストレージ

オフィスリビングから一段上がった先に、民芸品などのコレクションを飾るための空間がありました。

この空間をつくったのは、スリランカの建築家であるジェフリーバワの自邸を見て「好きなものに囲まれる空間をつくってみたい」と思ったから。

「倉庫(ストレージ)なんですが、丸見え(オープン)なのでオープンストレージと呼んでいます。

この部屋は床、壁、天井すべて真っ白で仕上げていて、照明もつけていません。飾られる民芸品やテキスタイルの質感や色味だけで空間をつくりたいと思い、極力シンプルで何もない空間づくりを意図しました」

共有部では1番奥にあるオープンストレージは床座。ダイニングの椅子座から高さを落としていったことも、より落ち着く空間につながっているのだそう。

「中央にはちゃぶ台があるので、ここでお酒を飲めたりもします。ちゃぶ台に座ると目線に民芸品が並んで、好きなものに囲まれている雰囲気をより楽しめますね」

家に入ってくる人が安心するダイニングキッチン

玄関から入ってすぐのダイニングキッチンは、外部からの人が安心して入れる空間を意識されての設計に。

「家をつくるときの一番のテーマが、『人を呼びやすい家』だったんです。

そのため、玄関を入ったらまず廊下があって、扉を潜るとLDKがあるような家ではなく、玄関入ったらすぐダイニングテーブルが見えて、友人がご飯を食べている姿が見えるような、フレンドリーな家づくりをしたいと考えていました」

住居をオフィスとしても使っている日高さん。生活をするための住まいとしての玄関は、リビングの端にある寝室のドアだといいます。

そのためプライベートな寝室以外はほぼ一繋がりでできていて、廊下のない開放的な空間に。

「オフィスリビングの奥がプライベート空間であることを認識させるため、床を一段上げ、素材もモルタルから塗り床に切り替えています。

はじめて来た人にはよく、本当に住んでいるか疑われるのですが、『家を開くこと』のいいモデルケースとして理解していただけることにも繋がっているのかなと思っています」

この部屋に決めた理由

ご家族から引き継いだ思い入れある住まい

もともとこの部屋は、ご家族が購入した場所。ただ、購入された直後に住むことはなく、ずっと貸し出されていたそう。

「祖父母が購入した後に祖父が亡くなってしまい、しばらくは家賃収入のために貸し出していたんです。

その後自分が独立して2〜3年経った頃に、住んでいた方が出ることになり、この住まいが事務所兼住居としての候補にあがりました」

家族の思い入れのある住まいではあるものの、最初は100㎡の住まいに戸惑いがあったそう。

「ひとり暮らしをするには広すぎる住まいだと思いました。

ただ当時、事務所兼住居として使用していた賃貸の住まいでは、住空間のためにつくられた空間で仕事をすることに不便さを感じることもあって。この広さがあれば、仕事と住まい両方の、理想の空間がつくれると思ったんです」

壁や天井を剥がした際に出てきた「墨出し」と呼ばれる文字や線の痕跡は、あえてそのままに。

「築50年近い建物は何度かリフォームを経ている場合が多くて、ここも複数回行われていたようです。

実際に手掛ける際もすべて新しくしたわけではなく、これまでの住まいの背景も生かしながら、その続きを設計するような感覚で進めていきました」

残念なところ

人が集まる場所と遠いキッチン

キッチンは広く、料理をするには十分な空間が用意されています。

ただ住み始めの頃は家での食事会を今ほど頻繁に行うつもりではなかったため、ホームパーティーの頻度が増えるにつれて気になることが出てきたそう。

「人が集まるとしてもダイニングキッチンに収まる範囲の人数を想定していたのですが、会を追うごとに人が増えて収まらなくなったり、居心地のよさからリビングに人が流れたりすることが増えてきて。

そうなるとキッチンからの距離が遠くなるため、どうしても料理する人と食事をする人で分かれてしまうんです」

少し落ち着くために離れている方がいいという方もいるものの、次つくるのであれば距離を近づけて会話が生まれるようにしたいそう。

ただそんな悩みも、多くの人が集まるという、理想の空間を実現できている証でもありますね。

プライベートな空間との距離感

同じく人が集まる空間として気になったのが、トイレとリビングの近さ。

「元々の間取りはトイレが廊下を介して居室と繋がっていたのですが、廊下を撤去したことで、トイレの扉がオフィスリビングに面することになってしまいました。

リビングに人が集まることが増えた分、余計にその距離感の近さが気になってしまいましたね」

また、日高さんの住まいは、寝室以外のスペースはオフィスという認識でカーテンはついていません。

「窓前の植物の緑が森の中のような感じで癒されつつも、外からは中の人の存在がすぐ分かるので、居留守は使えないですね(笑)」

一方で、寝室以外のすべてが見えるわけではないとのこと。

「寝室と浴室のスペースだけ用意した小さな廊下は、もともとプライベート空間の入り口として理解をしてもらうためにつくったものでした。

それが住みはじめると、このスペースは窓の外から見えないことに気づき、入浴後の移動などをするにもつくってよかったと実感しています」

再認識した断熱材の重要性

今の住まいを設計されたのは、日高さんが20代後半の頃。そのため自身でも若気の至りといえるようなポイントがあるそう。

「学生時代に散々学んでいたことでしたが、断熱材は重要でした。オフィスだし耐えられるかなと思い、オフィスリビング部分は断熱材を取って様子を見ようとコンクリート現しにしたのですが、自分が想像していたより遥かに寒くて暑い家になってしまいました。

建築学で学んだことはちゃんと実践するべきだと反省しています(笑)」

お気に入りのアイテム

青の色合いが美しいインドネシアのバティック

子どもの頃は、ご両親の仕事の都合で海外生活が長かったと話す日高さん。

現地の暮らしにもあったラグやカバーなどのファブリック類は、住まいのアイテムには欠かせないものになっています。

「ダイニングに飾っているのは、インドネシアの骨董屋で購入した古いバティック。青色がとても綺麗で、家のテキスタイルの中で一番気に入っています。

今でも建築の仕事等で海外へ行った際には、現地のマーケットに足を運んだり、その土地でいいものが見つかると交渉したりして、日本に持ち帰ることが多いですね」

オープンストレージにあるクッションも、海外渡航の際に手に入れたもの。

現地の方に紹介された集落へ徒歩5時間かけて赴き、その住まいで目にとまり、住んでいる方に交渉して購入されたんだとか。

「日本でもインテリアは購入しますが、海外で購入すると安いし、後でストーリーを語れるのでいいですね」

住まいになじみやすいアームライト

リビングのソファ前にあったのが、周りの色合い鮮やかなファブリック類とは真逆の、真っ白なMUJIのアームライトでした。

「照明って選ぶのが難しいと思うのですが、MUJIのアームライトはデザインのクセもなく、機能的にもいろんな場面で使えるのでおすすめです。

また普段家具を移動することが多いので、クランプ型はいろいろな場所に設置できて便利ですね」

インテリア全体のバランスを整えるMUJIのアイテム類

アームライトと同様に、MUJIの製品は他のスペースにも。クッションカバーや毛布に器類などもそのうちのひとつ。

これには住まい全体のコーディネートに対する考えがありました。

「デザインの主張が強い民芸品と、それをベースで支えるシンプルな雑貨類の組み合わせは意識しています。それもあって、家にはMUJIの商品が多いですね。

民芸品やテキスタイルは癖の強いものが多いので、MUJIの主張のないデザインで機能的にカバーしてあげて、民芸品のデザインがより映えるようにしています」

暮らしのアイデア

人を招きやすい空間づくり

「リノベーションをするに当たって考えたのは、人を招きやすい空間づくりでした」と語る日高さんですが、実はこの住まいとは別に、もうひとつオフィスを持っているそう。

この空間では、自身がつくる空間をより理解してもらうために招いて話をすることが多いといいます。

「事務所としても活用するため、人の住まいに入るという感覚を極力無くすことができればと考えていました。そうした中で“家開き”という言葉をキーワードに、公私ともに積極的に人を招くことにしたんです」

「家開き」という言葉には、人を招くことによって住まいについて考えたり、綺麗な空間を保つ習慣がついたりすることはもちろん。日高さんの住空間に対する考えも背景にありました。

「昔の住まいには、客間や住居兼店舗の店先で人が交流するような『生産』の仕組みがあったんです。

ただ時代の変化の中で、住居に特化した“人を招きづらい住まい”は、日々を『消費』するためだけの空間になってしまっているのではと感じています」

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「住まいの中で、住空間に少しだけゆとりをもたせ、プライベートな空間と人を招くための空間づくりを分けて設計をすることと、住み手が開く勇気を持つこと。

その2つで住まいに人との交流が生まれ、持続可能な住空間に変わっていけると思うんです」

日高さん自身、こうした家開きのなかで新しい出会いや可能性が生まれているそう。

「先日、僕自身ファンだった崎山蒼志さんの『花火』のMVにスタジオとして使っていただく機会がありました。

ハウススタジオとしての住まいの利用はもちろん、アーティストやクリエイターの方が入って自分とは違う使い方をする中で、新たな視点が入ることがとても楽しいし、刺激になりましたね」

これからの暮らし

部屋の主役になるものをつくりたい

自身で自らの住まいをつくられた日高さんだからこそ、住まいを磨き上げるのも自身で。

オフィスリビングとダイニングキッチンとの間には、壁の断面を利用して鏡を貼りつけ、姿見として活用。

加えてダイニングキッチンには、自身でつくりたいインテリアがあるそう。

「これまでなかなか手をつけられていませんでしたが、リビングのデイベットのように、空間の主役になる照明をつくりたいなと思っています。

これだけは既製品ではなく、自分が納得できるものを時間をかけてでもつくり上げたいですね」

自邸は広げ、ルーツは深める住まいづくり

新たな住空間をつくり続けたいと思う一方で、家族の大切な持ち物である今の住まいに住み続けたいという思いが日高さんにはありました。

「自邸としての住まいづくりとそこでの暮らし方を、提案し続けたいと考えています。

そういう意味では2〜3年のスパンで建てて暮らして、次の住み手に繋げていくことが理想ですね」

「一方で、今の住まいはルーツとして大切に残していきたいという思いがあります。

ゆくゆくは身体も弱くなると思うので、断熱材も入れないといけませんね(笑)。ただ普通に入れるとなると空間が綺麗になり過ぎるので、どういった素材で覆うのかは慎重に。

今の空間のよさを大切にしつつ、生活にあった住まいにしていきたいです」

日高さんに、今後つくっていきたい新しい住まいについて伺うと、「家開きできる住まい」と「物件のポテンシャルを見つけ、活かせる空間づくり」との返答がありました。

固定概念に囚われることなく、インスピレーションを大切に。日高さんが大切にされている他者との生産性のある住まいづくりが、住居の可能性をさらに広げてくれるはず。

次の住まいの扉を開いたとき、どんな景色との出会いがあるのか。期待に胸が膨らみますね。

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