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レトロな東京の下町に現れた、植物園みたいな「長屋の温室」の暮らし(京島)|みんなの部屋

2019/09/28 12:00 投稿

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東京スカイツリーのある押上駅のおとなり、曳舟駅周辺にある墨田区京島。タワーマンションや大型スーパーが立ち並ぶ駅から離れると、風景は一変。

関東大震災や東京大空襲の戦禍を免れた、昭和初期の古い長屋が点在し、下町ならではの味のある街並みが広がります。

この京島で長屋をリノベーションし、2019年4月から観葉植物の販売・貸出・装飾を中心としたアートやプロダクトを発信するブランド『Green thanks supply』をスタートした小川武さん。

「長屋の温室」をテーマにしたショップ兼温室は、小川さんの住まいでもありました。

名前:小川武さん
職業:{Green thanks supply}店長
場所:東京都墨田区
面積:1F 55㎡/2F 27㎡
築年数:不明(2018年〜リノベーション)
住宅の形態:店舗兼住居

お気に入りの場所

薄型シンクのあるトイレ

濃紺のタイルに囲まれた、落ち着いた雰囲気のトイレが小川さんのお気に入りの場所です。

両手を入れるといっぱいになる、超薄型のシンクが目を引きます。

「リノベーションする前は変なシンクがついていたので、このシンクに作り替えました。ドアの右側の壁とツライチにしています。

タイルは『toolbox』で買ったものです。ドアはリクシルですが、NHLという左官材を塗って仕上げています」(小川さん)

※NHLとは、“Natural Hydraulic Lime” の略称で、天然の水硬性石灰のこと。

トイレの窓際には、飾りも。

「この置物は古いパイプをリメイクしたもので、アムステルダムから持ってきました」(小川さん)

光の入る事務スペース

事務仕事をしているこのスペースも、小川さんのお気に入りの場所です。

イームズのチェアと一緒に使っているのは、「con.temporary furniture(コンドットテンポラリーファニチャー)」のデスク。

「『con.temporary furniture』はスイス発祥のブランドで、今はいろいろな国で販売しているんですが、生産国の表記を全て『made in here』としているんです。

その土地でとれる木材を使って地元の工房でつくられている、という意味で、僕が使っているデスクも日本の唐松の合板でできています」(小川さん)

デスク左側にある半透明の波型の壁は何でしょう?

「ポリカーボネート素材を使った採光材で、工場などの屋根に光を取り入れるために使われているものです。ショップと事務スペースを分けたくて、これを選びました。

半透明だからプライベートも守れますし、光も入って明るいんです。植物の影が映るところも気に入っています」(小川さん)

工場の屋根に使われているほどの素材なので、硬くて、軽くて、丈夫なのだそうです。

この物件に決めた理由

ご友人のすすめで、10年ほど前に中野から京島に移り住んだ小川さん。

今は京島3丁目で暮らしていますが、2年前までは京島2丁目にあった平家を借りて住んでいたそうです。

当時サラリーマンだった小川さんですが、会社を辞めて「Green thanks supply」をオープンするに至ったきっかけはあったのでしょうか?

「大学を卒業してからずっと、インテリアプロダクトのメーカーで働いていました。楽しい会社だったのですが、入社してから10年くらい経ったときに、他の仕事もしたいなぁと思い始めるようになっていました。

一方で、もともと父親が観葉植物に関する仕事をしていて、僕も学生時代にアルバイトしていたということもあって、グリーンにも興味はあったんですよ。

観葉植物って、インテリアに必ず関係してくるもので、家具を並べて空間を作るときにはやっぱり植物が欲しくなる。

そういう点では、僕が10年間やってきた仕事や感覚が観葉植物のジャンルでも生かせるんじゃないかと思ったんです」(小川さん)

時を同じくして、小川さんの背中を押すある出来事が起こりました。

「ちょうどその頃、墨田区による道路の拡幅工事の影響で2丁目の平家から立ち退くことになったんです。そこで大家さんから、半壊していて困っている物件があるんだけど、修理して借りないかというお話がありました」(小川さん)

その“困っている物件”というのが、「Green thanks supply」があるこの場所。もともとここには、印刷紙関連の裁断所と倉庫の2軒があったのだそうです。

「大家さんは、薬屋、裁断所、倉庫、ガラス屋の4軒の長屋を横並びで所有しているのですが、その中の裁断所と倉庫だけ何年も借り手がいなかったそうで……。

実際、屋根は抜けているし半壊状態だったので、ネズミや猫の住みかになって困っていたんです。かといって、その2軒だけ壊すわけにもいかないし、貸すにも古すぎて改築にお金もかかるからと悩んでいたんです。

僕も観葉植物の仕事をやろうかなとも思い始めていたので、思い切ってハンドルを切って仕事を辞めました。それが2017年の年末です」(小川さん)

その翌年の2018年はほとんど1年中リノベーション工事に費やしたと話す小川さん。プランニングを始めてから終わるまで1年以上かかった工事は、とても大変だったと言います。

「予算面でも大変で、デザインから工務店の役割まで僕がやって、工事業者が来るたびに全部対応していました。

いやー、なめてました!でも、大変だったけど面白かったですよ」(小川さん)

そして、晴れて2019年4月に『Green thanks supply』はオープンしました。現在、1階はショップ、2階は住居として使っていらっしゃいます。

「テーマは、『長屋の温室』です。

植物園のようにしたくて、『2階の床を抜いて、3メートルくらいのヤシを入れるんだ!』と言っても、『何を言ってるんだろう?』みたいな感じで、父親にも大家さんにも工事業者にも伝わらなかったんですよ。オープンして、やっと理解してもらえました」(小川さん)

暮らしのアイデア

墨汁を混ぜて塗った壁

古い長屋が立ち並ぶ京島3丁目の中で、ひときわ目立っている『Green thanks supply』。

「おもしろいことをしたいと思っていたので、アイデアを持って作りました」と小川さんが言うように、いたるところに工夫やアイデアが散りばめられていました。

「ショップの壁をグレーにしているんですが、これは安価な白い仕上塗材に墨汁を混ぜて塗っています。真っ白だと無機質な印象になってしまうので、それを避けたくて近所のお店で買ってきた墨汁を混ぜたんです。

予算が限られていたので、キッチン周りの壁は僕が、ショップの壁はプロの左官屋さんが塗りました。ラーチ材の木目とか、大工さんの手書きのメモが残っているのが好きなので、ラーチ材を残したところと左官したところがあるんです」(小川さん)

部屋を明るくするために採光を意識

「長屋は暗くなるので採光は意識しました。植物を育てるためにファサードは全部ガラス張りにしたので、そこから入ってくる光を室内に取り込むために、事務スペースと2階の住居スペースの壁はポリカーボネート素材を使った採光材にしています。

本当はこれより安くて軽い波板にしようと思っていたのですが、大阪と熊本の復興が終わっていなかったため材料が手に入らなかったんです。その結果、ポリカーボネート折板の採光材になったのですが、計画した通りにならなかった分、それも面白かったです」(小川さん)

残念なところ

自分で付け替えたコンセント

「ベッド脇のコンセントの位置を変えたくて電気屋さんにお願いしたのですが、今更できないと言われて、穴が空いても良いのでお願いしますと伝え無理を言って替えてもらいました。

もともとコンセントがあった部分には緑の養生テープを貼ったままにしているので、これは残念以外の何者でもないです(笑)。気が向いたら直したいのですが、直し方が思いつかないんです」(小川さん)

お気に入りのアイテム

ヒップホップのカセットテープ

事務スペースとベッドルームには、たくさんのカセットテープがありました。

これは中古もありますが、ほとんど全てが新品。最近では、カセットテープで新作をリリースするアーティストも増えてきたのだとか。

「カセットの手作り感のあるジャケットが好きなんです。CDよりコンパクトで、おもちゃっぽくて、デザインが凝っているのがいいですね。

あと、僕はヒップホップが好きなんですけど、ヒップホップはカセットが一番かっこよく聞こえる気がします。表現できる音域が狭いので、ちょっと高めのラジカセで聞くと高音と低音がより強調されて、好きな音になるんです」(小川さん)

ショップでも事務スペースでも、ラジカセでテープを聞いているという小川さん。特にお気に入りなのは?と聞いてみると、ひとつには絞れないほど、どれも特別なようでした。

植物のシルクスクリーン

「植物のポスターを作って販売しています。写真は僕が撮影して、シルクスクリーンの作家さんにお願いしてプリントしてもらっています」(小川さん)

全部で7種類あるモノトーンのシルクスクリーンは、潔さと渋さが共存していて素敵です。

「ma products」のジュエリー

「ショップでも販売している『ma products』は大阪のジュエリー作家さんのブランドです。

もともと友人なのですが、単純にデザインがいいなと思って取り扱っています。大人の女性が付けられる甘すぎないデザインがかっこいいですし、植物との相性もいいんです」(小川さん)

真鍮やシルバーなどの素材感が生きたシンプルなデザインは、年齢を問わず付けられそうです。

「THE TICK」がクルクル回るフィギュア

「アメリカのギャグ漫画『THE TICK』はダニのヒーローが主人公なんです。このフィギュアは僕が中学生の時に買ったもので、今も飾っています」(小川さん)

顎で絶妙なバランスをとって、クルクル回る『THE TICK』。愉快です。

学生時代に作ったブランコのスツール

2階の住居スペースにあった、ブランコをリメイクしたスツールは小川さんの自作です。

「美大生だったときに溶接して作りました。当時、アスレチックを作るバイトをしていたのですが、古いアスレチックを解体するときに遊具を産業廃棄物として処分するんです。

そのときに出てきた古いブランコを引き取って、スツールにしていました。『座面は生きている、座面はゴミじゃない』というコンセプトで100%再利用してスツールにして、友達にもあげましたね〜。ショップでも丸い座面のブランコのスツールを使っています」(小川さん)

これからの暮らし

2019年4月にお店をオープンしたばかりの小川さん。今後はこのお店を、もっといろいろな人が集まる空間にしていきたいといいます。

「多くのインテリアショップはインテリアがメインで植物もちらほらある、という感じですが、それとは真逆で、植物がメインで生活アイテムやジュエリーもあるショップにしたいと思っています。今後は8月に海外で仕入れてきたアンティークの絨毯や食器なども店頭に並ぶ予定です。

キッチンも貸し出しているので、料理を振る舞いたい方など、ご興味のある方にぜひ使っていただきたいです」(小川さん)

京島は今、味のある街並みに惹かれたアーティストやクリエイターが集まるエリアとしても注目されています。実際に、小川さんのように長屋をリノベーションしたショップを構える人も増えているそうです。

その潮流の中にいる小川さんと、小川さんのブランド「Green thanks supply」は、京島の古き良きものを守りながら街全体を盛り上げていく拠点になっていくのかもしれません。

進化し続ける「Green thanks supply」の最新情報は、ショップのインスタグラムをご覧ください。

Photographed by Natsuki Kuroda

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