特に2年前に引っ越して恋人の真衣さんと住みはじめた横浜の部屋が、みるみる変容していくサマをInstagramで追っていました。
まだ20代前半と思うと末恐ろしい、持ち前のスタイルと感覚。
せっかくならば部屋が完成した、ここぞ、というタイミングで紹介したいと時期を見計らっていたのです。
名前:宮下渉さん、隅田真衣さん職業:アンティーク家具店スタッフ(渉さん)、カフェスタッフ(真衣さん)
場所:神奈川県横浜市
面積:38㎡ 1LDK
家賃:8万円
築年数:築4年
お気に入りの場所
ディスプレイシェルフお気に入りの場所は? と、聞かずしても明らかなれど、念のためたずねると、
「やっぱり、この辺りでしょうか?(笑)」と示されたるは、ディスプレイシェルフ。
部屋のなかでひときわ存在感を放つそれは、なんと自らの手でDIYしたものだといいます。
「アイデアは、鈴木工藝社が手がけていた什器から。
それを見て『これ、自分で超安くつくれるんじゃない?』って。
案の定、材料費2万円弱でつくることができました」(渉さん)
引っ越してすぐにつくったシェルフには、ターンテーブル、レコード、観葉植物、インテリア雑誌、オブジェなどなど、日に日にさまざまなものがディスプレイされていきました。
「好きなものを集めたら、こうなりました」と平然と言う渉さんですが、雑多に見えて、実はそれぞれなんらかの秩序をもって並べられているのがわかります。
このシェルフこそ、まさに部屋全体のスタイルを凝縮したもの。
部屋を見わたすと、こだわって集められたアイテムが特定の原理に基づいて配置されている気がしました。
この部屋に決めた理由
「海の近くに住みたい」という真衣さんの要望を叶えつつ、おたがいの職場に通勤しやすい場所に部屋を借りたふたり。
ふたり暮らしをはじめて、2年が経とうとしています。
「ベッドとキッチンが同じ空間にあると料理のニオイがベッドについてしまうので、1LDKという間取りは譲れませんでした」(渉さん)
引っ越しの時期、ちょうど転職活動で立て込んでいた渉さんは、物件探しにほとんど時間を割けませんでした。唯一希望が叶ったのは、広さと間取りだけ。
「本当は、床や壁をイジれる物件にしたかったんですけど……」(渉さん)
残念なところ
つまり、部屋を改装できないこと、それが最大の残念ポイントでした。
「床も、せめてフローリングがよかった。クッションフロアなので掃除はしやすいんですが、やっぱりニセモノ感が……」と、なんとも悔しそうに漏らす渉さん。
そもそも、内装やインテリアにこだわるようになったきっかけは、なんだったのでしょうか?
「父親が家具職人だったので、“家具を買う”っていう概念すらなかった。
父に『こういうのが欲しい』と言うと、いつもつくってくれていました。
日曜大工の様子を隣で見ていたりもしたので、自然と知識が増えていったんです。
だから実家で暮らしている頃も、自分の部屋の壁に漆喰を塗ったり、テーブルをつくったりしていましたね」(渉さん)
“インテリア”や“DIY”という言葉すら知らない小さな頃から、それらがあたり前に至近距離にあった渉さん。
それだけに、いまの環境がどれほどストレスフルかは想像に難くありません。
「職場でお客さまから家具のオーダーを受けることもあって、そういう環境にいるとどうしても自分用の家具をつくりたい衝動に駆られます。
でも、騒音もダメなので、仕事が終わって家に帰ってきてからでは丸ノコを使うこともできませんね……」(渉さん)
一方の真衣さんは、渉さんに負けず劣らず、働きながら自身の創作活動に精を出しています。
「私は私で、絵を描いたりしています。ほかにも、最近はシルバーアクセサリーづくりにハマっていて」(真衣さん)
お気に入りのアイテム
そんなふたりの部屋にひしめくモノ、モノ、モノ……。
主張の強いアイテムがたくさんあるように見えて、全体としてはスッキリとした印象を受けるのが不思議。
その秘訣は、揃えるインテリアの素材と色を絞ることなのだとか。
「素材は木材と鉄、とある程度統一しています。
プラスチック製のものや、ニセモノが好きじゃなくて。どちらかというと、素材感のあるものがいい。
色は、茶と黒と緑。3色くらいに絞ると散らかりません」(渉さん)
再生して使っている古家具「この椅子は、昭和60年代に日本でつくられたものです。
すごく汚くてボロボロの状態で購入したのを、塗料を剥がして塗り替えて、革も張り替えました」(渉さん)
「この額も、もともと壁の装飾だった1本の板をカットしてつくりました。
職場で同じようにして鏡をつくっていたのを見て『額もできるんじゃない?』って」(渉さん)
「鏡は、店舗で販売する商品として、業者への発注などすべて自分で行ってつくったものなんです」(渉さん)
そのほかにも、渉さんがイチからつくったものや、古くなった既製品にチョイと手を加えて再生したものが。
なかには失敗作もあるそうですが、総じて独特の手つきとスタイルが滲み出ていて、思わず見惚れてしまうのです。
プロダクトは背景から愛する渉さんが愛するデザイナーのひとりが、フランスのジャン・プルーヴェ。
代表作・スタンダードチェアは、木材と金属の素材のコントラストと、秘めたる力強さが美しいプロダクトです。
「同じくフランスのシャルロット・ペリアンも好きです。
登山家という一面も持っていて、そのため代表作のスツールは、高山でヤギを飼育しているおじいちゃんが座る椅子がモチーフになっています」
「また、BRAUNのディーター・ラムスが、スティーブ・ジョブスに多大な影響を与えたという話をもとに、それぞれのプロダクトを眺めてみるのもおもしろい。
そういった、プロダクトの裏に隠れたストーリーや背景に惹かれることが多いんです」(渉さん)
家に置いてある書籍や雑誌は、そのほとんどがインテリア関係。
気になったプロダクトのクレジットからデザイナーを知り、そこから掘り進めるのがなにより楽しいのだとか。
ときには失敗することも……「高円寺の古着屋で買ったスニーカーは『かなりでかいけど、かっこいい60年代のコンバースがあるよ』って言われて買ったものですが、
買って帰ってよくよく見ると、コンバースじゃないことに気づいて……(笑)。
Hender Schemeのエプロンも、丈がすごく短くて膝が汚れるので、本気の作業用としては使えなかった。
どちらも、店員さんが接客上手で、つい即決してしまったものです」(渉さん)
満足のいくものであれば「たとえサイズが合わなくても、壊れていても所有したい」という愛好家然とした一面や、確固たる審美眼を持つ渉さんも、ひとに勧められるとその基準がときに緩むのは、買いもの好きなら誰もが思いあたる節のあることでしょう。
真衣さん作、未完成? の絵画たち部屋のあちこちに飾られた絵のほとんどは、真衣さんによる作品です。
「ほとんどが中途半端な状態なんです(笑)
思い立って描きはじめても、その1日でできあがらないとやる気がなくなっちゃうんですよね……(笑)」(真衣さん)
とは言うものの、素人目にはどのあたりが未完成なのかわからないほどの、完成度の高さ。
そのあたりは、渉さんにも判断が難しいようで……
「これは?」(渉さん)
「中途半端」(真衣さん)
「あっちは?」(渉さん)
「あれはできてる」(真衣さん)
「わかんねーよ!(笑)」(渉さん)
という始末。
唯一パッと見て未完成だとわかったのは、馬の頭が描かれた1枚。
「ここの壁がさびしかったので、取材前にとりあえず掛けておきました」とのこと。
暮らしのアイデア
内装はいじれないけれど、ウラワザを使って……内装をいじれないのが最大の残念ポイントとは言いつつも、寝室のランプは、壁にアンカーボルトを打って取り付けられています。
そこには、あまり大きな声では言えないウラワザを使ってあるのだとか。
「壁紙にコの字にカッターを入れて、霧吹きをすると糊が剥がれます。
その下に石膏ボードがあるので、そこにボルトを打つ。退去時には剥がした部分を糊付けすれば元通り、というわけです。
ウラワザ、というか本当はやっちゃダメなことなので、くれぐれも真似しないようにしてください!」(渉さん)
生活スタイルに合わせてベッドをアレンジちょうどいい高さのシンプルなベッドが気になって、どこのものかきいてみると、無印良品のものでした。
「Instagaramでも『どこの?』ってよく質問されるんです。
本来は脚がついているモデルなんですが、低い位置での生活が好きなので、組み立ての段階で脚は取り付けずにおいたんです」(渉さん)
見慣れたアイテムも、ちょっとした工夫やアイデアでパッと印象が変わる。そのお手本と言えるでしょう。
これからの暮らし
「東京」っていうだけでストレス
「『東京』っていうだけで、ストレスなんです(笑)」(真衣さん)
もうじき更新のタイミング。引っ越しを考えているふたりは、「『東京』という名前がイヤ!」と独特の感性をのぞかせる真衣さんの要望もあって、千葉や埼玉などの東京近郊を候補にしているようです。
今度こそ、内装まで好き放題にイジれる物件を探したいのは、言わずもがな。
また渉さんは、モノづくりの腕にこれからさらに磨きをかけていく所存。
「とりあえず、いまの職場でしっかり経験を積み、いつかは独立したいと思っています。
自分でデザインしたものを、たくさんのひとに使ってもらいたい」(渉さん)
持ち前の感覚を存分に発揮しながら、すてきな空間をつくりあげているふたり。
次の家で“できることが極めて限られたハコ”というリミットが外れたら……と想像すると、今後の部屋づくりが楽しみでなりません。
またしかるべきタイミングで、ふたりのもとを訪れようと固く心に決めるのでした。
photographed by Shuhei fujimoto
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