改札を抜けると、周囲は閑静な住宅街。若者で賑わう下北沢から小田急線でひと駅、世田谷代田には暮らしが静かに息づいている。
ROOMIEのロゴも手がけたデザイナー・金田さんの住まいは、駅から10分ほど歩いた場所に建つマンション。仕事場にもしているこの部屋は、一見するとクリーンで明るい空間だ。しかし細部を見てみると、シンプルなデザイン家具の隙間に、金田さんの好むモノたちがそこかしこに配置されていた。
名前:金田遼平さん職業:グラフィックデザイナー/アートディレクター
場所:東京都世田谷区
面積:約30平米(1K)
家賃:非公開
築年数:築20年
本棚には、金田さんがデザインを担当する雑誌「RiCE」が並んでいる
お気に入りの場所
イケアのデスクが際立つワークスペースイケアで脚と板を購入して組んだデスクは、自宅で仕事をすることも多い金田さんが多くの時間を過ごす場所。グラフィックデザイナーという仕事柄、資料などが溜まりそうだが、すっきり片付いているので気持ちよく仕事ができそう。
デスクの上には友人からもらったというSupremeの健身球が。たまにコロコロと気分転換しているという。
「部屋ではほとんどずっと仕事をしているのですが、あとは断トツで寝ている時間が多いです。睡眠が好きなので、油断しているとうっかり15時間くらい寝ている時もあります(笑)」
モロッコ土産のラグの上カラフルなラグが敷かれたこのくつろぎスペースでは映画を観たり、本やマンガを読んだりしている。棚にはデザイン関係の本に混ざり、宇宙の本や動物の本も見える。
「このラグは、友人がモロッコから大量に持ち帰ってきたものを、譲ってもらいました。なんでも、モロッコ人にしかできない技術で織られているとか」
この部屋に決めた理由
「この部屋の前は、友人と二人で中野の古い一軒家を借りていました。ですが、その家に限界が来て取り壊されることになってしまって……。その時ちょうど今の事務所に所属したタイミングだったので、通勤しやすく、自転車に便利な場所で部屋を探しました。
ちなみに20歳くらいの時にも同じ友人を含めた4~5人で大きな一軒家を借りて住んでいたんですが、実はそこも退去の時に取り壊されて更地に……。なので、今のところ僕とその友人が住んだ家はどれも残ってません。駐車場になったり、未だにビニールシートが敷かれたままだったり(笑)」
古くて広い一軒家から、比較的すっきりとした部屋へ。決め手は何だったのだろうか。
「立地が一番ですね。事務所が三軒茶屋と祐天寺の中間辺りにあるので、まずはそこまで自転車で行ける範囲で……というか早く決めたかったので、数軒で決めてしまいました。住宅街なのでお店が多いエリアではないのですが、友人達がやっている「Salmon & Trout」というレストランや、パン屋の「KAISO」、カレー屋の「ボンナボンナ」など、近場に個性的で美味しいお店が多いのも嬉しいです。プロがお酒を仕入れに来る「信濃屋」も近所なので、よく珍しいウイスキーやワインを買いに行きます。
あとは、禁煙者限定の部屋ということで、家賃が相場より3割くらい下がっていたのもポイントでした」
残念なところ
仕事・居住スペースとしては狭いひとり暮らしにはちょうど良さそうな広さに見えるが、金田さんとしては少し狭いという。
「仕事柄大きい机を置きたいのと、身体が大きいのでベッドも小さいのはちょっとキツいし、本やおもちゃも沢山……としていると、もう部屋がいっぱいに。それにワークスペースと居住スペースが一緒なので、すぐ横になってしまう(笑)。最低限寝室は分けたいですね」
陽が差すと、だいぶ暑い周囲に高い建物がないため、窓からの開放的な景色が気持ちいい。しかしながら、その分、最上階ということもあり夏の陽射しがダイレクトに入ってくるのだという。
お気に入りのアイテム
グレーで統一した、オーダーメイドのロードバイク部屋に入るとすぐ目に入るのが、グレーのロードバイク。先述の「Salmon & Trout」は自転車屋でもあるようで、そのオーナーにフルオーダーでつくってもらったものだ。シックなデザインなので、部屋のインテリアにも馴染んでいる。
「とにかく華奢な、オールグレーの自転車にしたくて。ヴィンテージのデッドストックパーツなどを色んな所から集めてもらいました。サドルを始め、配線やブレーキレバー、バーテープやタイヤのキャップまで細かいところも全部グレーに」
壁にかかったシカの骨部屋の壁でひときわ存在感を放つのは、ひとり暮らし男性の部屋ではあまり見かけることのないシカの骨。反対側の壁にもかかっていて、2つも持っている。
「以前、友人が栃木県の日光にオープンした美容室のデザインをしたのですが、彼の父親が農家で花火師でマタギで……という謎の人らしく(笑)。デザインのお礼として、獲った中でも一際大きいものをこっそり担いで持ってきてくれました」
動物のフィギュアTVの前など至る所に、世界各国や蚤の市などで購入した動物の置物やフィギュアが何体も並んでいる。宇宙人らしい生き物も一緒に。
「動物って昔から好きなんです。自然物で、生まれながらにあの造形はすさまじくないですか? 進化の影響や種族によってもまた全然変わってきて……。絶対にゼロから思いつけないし、もう他のカタチは考えられない。動物は最高のクリエイティブだと思っています」
いちばんのお気に入りはロンドンで購入したシカ。ラムファーでできている、なかなかの高級品だ。このシカは2体持っている……ふと見回すと、他のフィギュアも複数ずつあることが多い。
「1つだけ置いてあるとちょっと意味深なモノに見えてしまいますが、複数並ぶと個々の意味や存在がぼやけて、背景化するというか、空間に馴染んでくるような気がしませんか。……でも、実際はそんなに考えていなくて、単になんとなくです(笑)」
と、フィギュアの買い方にもこだわりがあるようだ。
不思議な形状のコップフラワーベースのようなコップ。「ka na ta」という服のブランドのデザイナーをしている友人からのプレゼント。見かけによらず(?)口当たりも良く、普段はウィスキーを飲んだりしているそうだ。
1930年代のドイツ軍の椅子実際に軍で使われていたというビンテージミリタリーチェア。
「以前、一度フェスに持って行ったんですが、しっかりしている分とてもでかくて重くて……さすがに心が折れました(笑)」
こちらの椅子も友人からのプレゼント。金田さんの部屋には、「友人からもらった」というモノが本当に多い。
髑髏に活けてある盆栽中野で開催されていた「髑髏盆栽展」で購入した髑髏盆栽。髑髏作家・丸岡和吾さんの髑髏鉢と盆栽作家・濱本祐介さんの盆栽がコラボした作品だ。髑髏に活けてある小さな大自然。そのバランスが、不思議な雰囲気を醸し出している。
暮らしのアイディア
壁は収納を兼ねたディスプレイに様々なものが並ぶ壁には、いずれも金田さんの友人で写真家の川島崇志さんや小浪次郎さんらの作品も
収納を兼ねた服や帽子、靴下、シカの角、NASAのワッペンやぬいぐるみ、種子島のチケット……。これだけの物が一同に会しても不思議とごちゃっとして見えないのは、デザイナーだからこそなせる業なのかもしれない。
家具や棚は白で統一壁と同様、棚にもお酒、本、服、小物類などさまざまなモノが収まっているが、壁と棚のラインが余白のような役目をはたすのか、パッと見た印象に統一感がある。
「特に収納のルールはないんですけど……あまり息苦しくなるのはイヤなので、家具や家電は壁と同じで白を選んで、できるだけ存在感が薄れるようにしています」
これからの暮らし
白い背景に自身や友人が手掛けたものや好きなクリエイターの作品が映える、コレクションルームのような部屋。引っ越し時は「とりあえずここに決めてしまった」というが、居心地は良さそう。
「バタバタしていてつい先日更新してしまいましたが、年内には引っ越したいなと思っています。人を招くような家でもないし、完全に作業場としているのですが、モノが多いこともあってやはり手狭で……。閑静で立地もよく、とても好きな街なので、できればこの周辺で居住とワークスペースが分けられる家を見つけられたらいいですね」
デザイン会社に所属しつつ個人での活動も多い金田さん。暮らすだけでなく仕事場でもあるため、物件選びは重要。次に住む部屋からどんなデザインが生まれるのか、今後の活躍も楽しみだ。
Photographed by Yutaro Yamaguchi