千葉県四街道市、JR総武本線の物井駅は、頭の「も」にアクセントをつけて「ものい」と読む。そう教えてくれたのは、自作楽器で民族音楽を演奏する5人組「馬喰町バンド」リーダーの武徹太郎さんだ。
イラストレーターでもある武さんの住まいは、物井駅から車で約10分ほどの、のどかな住宅街にあるご実家。築35年ほどの一軒家に母親と2人で暮らす武さんの部屋は、音楽とアートを生み出す秘密基地のような空間だった。
名前:武徹太郎さん職業:「馬喰町バンド」リーダー、イラストレーター
場所:千葉県四街道市
面積:4LDK
家賃:実家のため無料
築年数:築35年程度 一軒家
2階のアトリエスペース
お気に入りの場所
1階リビングにあるソファレコーディングやツアーがない休日は、このソファーに横たわって過ごすという。
「このソファーがめっちゃ好きで、休日は18時間くらいずっと寝転がってます。寝て起きて、充電機を挿しっぱなしにしてスマホを見て、メッセージが来ていたら返信してまた寝ます」
2階をまるまる使った、自分の部屋2階は部屋が3つ。そのすべてを武さんが使っている。
「実家は全体的に気に入っていますが、特に2階は全部自分の好きなように使えるので最高です」
自分で床を張った寝室日当たりのいい寝室は、居心地がよさそうな空間。寝室の壁には、イラストや好きなポスター、人からもらった手紙が貼ってある。
この部屋に決めた理由
取材中に洗濯をはじめた武さん
辻堂、下北沢、狛江、新小岩など12回の引っ越しを繰り返し、今はご実家で暮らしている武さん。1年半ほど長野県松本市の木工作家のもとで修業していたこともあるそう。この家なら、製作も、バンドメンバーとの練習もできるし、移動は車を使えばいい。
「音楽に熱中しすぎて木工の修業はやめることになって。その後、実家へ戻ってきました。振り返ってみると人生の半分は実家に住んでいます。今はここが落ち着きますね」
残念なところ
作業部屋に母親の荷物が大量に置いてあること10畳以上はある作業部屋には武さんが楽曲制作で使うパソコン、自作の楽器、洋服などのほか、ギャラリーのキュレーターである母親の荷物も。
「この部屋にはポテンシャルがあるんです! でも母親の荷物がたくさん置いてあって、ごちゃっとしているんですよ。それを片付けたら、もっと広く使えるのに……」
物が多くて、図書部屋に入れないこと「本が取りたくても、手前に大きな白鳥の首もあるし、物が多すぎて……。ここを片付けたいなと思ってます」
お気に入りのアイテム
自作した楽器①:六線(ろくせん)ブルースシンガーだった父親の影響で、『ピーター・バラカン DJショー』を見ていて、学生時代はジャズをやっていたという武さん。多摩美術大学で油画を専攻していた頃、本格的に音楽の道へ。現在、自作の楽器で民族音楽を演奏する5人組の「馬喰町バンド」として活動中。武さんの作業部屋には、自作の楽器が所狭しと並んでいる。
「『ピーター・バラカン DJショー』で紹介していた音楽はとても洗練されていて、その中から民族音楽の匂いを感じ取っていました。民族音楽は総合芸術だと思います。今僕が修業しているバリの民族音楽は、自分たちで作った楽器に、美しい装飾がほどこされていて、手を動かすこととアートと音楽とが融合しています。手で作るものが音楽につながっているんです。
三味線とギターを融合した『六線』は、21世紀発の日本の民族楽器を作りたくて、ボディは桶太鼓、構造は三味線、弦は6本のギターをベースにしています。ギターや三味線の構造を研究したり、チューニングしたり。構想から制作まで2〜3ヶ月くらいかかりました。アメリカの音楽が好きな人は、初期のバンジョーに似ているって言います」
自作した楽器②:エレキ六線「シタールと同じさわりになっている『エレキ六線』は、木工の経験を生かし、彫刻刀でうろこ模様を彫りました。楽器に絵を描いたり、模様を彫った瞬間に自分のものになるんです」
自作した楽器③:ガムラン1×1mの鉄の塊をグラインダーで切り出して作ったガムラン。取材前日に友人に引き渡したため部屋にはなかったが、友人たちと一緒に制作し、完成に5日ほどかかったそう。
「ガムランは、絶対に一対で作る楽器で、ふたりで演奏します。バリのフュージョンバンドが、ガムランで西洋音階に寄せた演奏をしているのを見て、自分のバンドで使いたくて作りました。自分で楽器を作るのは大変だけど、こうしなきゃいけないというルールがないので、好きな音楽ができるんです。それに安いですしね」
次に作りたい楽器、ブッダ先輩円空好きな武さんが、次に作る楽器がこのスケッチ。その名も「ブッダ先輩」。
「ステージ上に木彫りの仏像『ブッダ先輩』を置いて、その後ろに僕がいて演奏しているイメージができています。今年中に作りたいですね。いつも、次のライブまでにこの音が欲しいと思ったら、その楽器を作ります」
友人から借りている楽器、グンデルガムランをやっている友人から借りているもので、影絵の伴奏や儀式などで使われる楽器だそう。取材時には「うなぎの骨」という曲を奏でてくれた。師匠のもとで修業をするため、度々バリを訪れているという。
「ガムランの演奏は楽譜がないので、すべて暗記するんです。師匠とどれだけコミュニケーションしたかが演奏に出るのが、おもしろいんですよね」
自作したかぶり物、11面観音「演劇用に作ったもので、バケツを加工して作りました。これをかぶりながら般若心境をループしてラップします」
お”編”路八十八ヶ所 御朱印帳出版社へイラスト集の持ち込みをしている武さん。その時に持参するのが御朱印帳を模して作った「お”編”路八十八ヶ所 御朱印帳」。お遍路時に神社仏閣で御朱印をもらうように、作品の持ち込み先でサインをもらっている。88ヶ所の霊場を巡拝するお遍路同様、88ヶ所を目標に4月から持ち込みを始め、取材の5月時点ではすでに8ヶ所回ったそう。ちなみに、ROOMIE編集部にも来てくれた。
「出版社の持ち込みって、お遍路に似てるなと思ったんです。請願成就=仕事くださいってことですよね。僕はイラストレーターとして絵も描きます。創作するのは豊かな旅の時間ですが、作業はインドア。だからどうやって生身の体を外に出そうと思って考えついたのが、この『お”編”路八十八ヶ所 御朱印帳』なんです(笑)。」
暮らしのアイデア
洋服は手作りする「暮らしのアイデア? たくさんありますよ!」と教えてくれた武さん。履いているモンペは、友達が買ってきてくれたというインドネシアやマレーシアのろうけつ染め布地・バティックで手作りしたもの。シャツは、毎回バリに行くたびに、屋台の職人さんに仕立ててもらっている。
「バリでは、日本円にすると半袖で500円くらい、長袖は650円くらいで作ってくれます。ただの屋台のおっちゃんなのに、ボタンや生地の合わせ方を、ちゃんと考えて作ってくれてスゴイんですよ」
家の地形を利用したワークアウトバスケット部に所属していた学生時代、階段の隙間に体を入れて腹筋を鍛えていたという。「地形を利用するんです(笑)」とのこと。
いらない板で、製本用の定規をDIY「もともと本棚にはまってた棚板に、ちょうどいい溝があるので、製本用の定規に使ってます」
これからの暮らし
すべて自作の楽器
「バリに行くと生活、作ること、音楽が一体化していて、手で作るものすべてが音楽につながっているんです。美大に通っていた頃、同級生たちはアートのアンテナは鋭いけど楽器はできない、逆に音大に通っている人は楽器はできるけどアートの感覚はあまりない。僕も、昔はやみくもに音楽をやって、絵を描いていたけど……最近やっと自分の表現が繋がってきました。音楽は総合芸術で、ささいなことを感じる力が重要になります。そこがもっとフラットだったら、いい音楽ができると思うんです。
それに、昔から付き合いがある人や、新しく出会った人など、協力してくれる人が出てきたのもうれしいですね。
家は、また引越しをするかもしれないです。自力で家を建ててみたいとも思ってますね。端材などを使って自力で家を建てた友達がいるので、僕もいつかそうできたらと。自分の成長に合わせて、家も部屋もどんどん変わっていくのが理想です。まずは母親の荷物を片付けて、広く使うところからですね(笑)」
頭の中にある様々なアイデアがそのまま現れている武さんの部屋は、個性あふれる玉手箱のようだった。そんなアイデアの宝庫である部屋を「断捨離したい」と繰り返し言っていた武さん。不要なものを片付けて広々と使える作業部屋で生み出される音楽やアートはどんなものになるのだろう? 今から楽しみでしょうがない。
Photographed by Yutaro Yamaguchi
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