今から約150年以上前に暮らしていた人びとは、1年の季節を24分割にした「二十四節気」と呼ばれる区分けと、そこからさらに細分化された「七十二候」を暮らしに取り入れていた。72個の季節というと、だいたい5日に1つのペース。そのときの旬の食材を食べ、旬の花木を愛でる生活をし、自然の移り変わりとともに今よりずっと細分化された季節の移ろいを感じていたのだ。
七十二候の「意味」や旬の食材を知ることで、普段よりも敏感に季節の変化を意識できる。季節の移ろいを感じ、取り入れてみて、暮らしに深みをもたせよう。
前回の七十二候:「霜止苗出」田植えの準備が始まる季節
七十二候:牡丹華(ぼたんはなさく)
4月30日~5月4日ごろ
四季:春 二十四節気:穀雨(こくう)
春最後の七十二候「牡丹華」。文字通り、牡丹の花が咲く季節を表している。牡丹の原産国は中国で、日本には奈良時代の頃に持ち込まれたといわれている。
古くより詩歌や絵画、家紋のモチーフとして登場する機会が多く、美しい女性を形容する「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言葉は有名だ。
旬の食材
こごみ先端部の渦巻き状の形が、前かがみになっている人の様子と似ていることからその名が付いたといわれる「こごみ」。
春の山菜のひとつで、くせがなく、天ぷらやごま和えにするとおいしい。
サザエ長崎県でよく獲れる、殻の角が特徴的な巻き貝の一種。年間通じて市場に出回る機会が多いが、旬は春。
バーベキューでも一般的なサザエの壺焼きは、アツアツのサザエに醬油を少し垂らして味わうとたまらない。レジャーシーンでも重宝される、これからの季節にもぴったりな食材だ。
本日の一句
春惜む 命惜むに 異らず高浜虚子
春の終わりの季節を表わす季語はいくつかあるが、「暮の春(くれのはる)」や「行く春(ゆくはる)」と比較しても「春惜む」は直接的な表現で、より惜別の思いが強く感じられる。
高浜虚子は正岡子規の弟子。子規から引き継いだ俳句雑誌「ホトトギス」は俳壇の有力誌として人気を博し、夏目漱石の『坊っちゃん』などもこの雑誌から発表されている。
次回は「蛙始鳴(かえるはじめてなく)」。
illustrated by Kimiaki Yaegashi参考文献:白井明大(2012)『日本の七十二候を楽しむ ―旧暦のある暮らし―』東邦出版.
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