『シアロア』(集英社)です。
■深夜、静かな部屋で1人コミックを読む
コミックを買って家に持ち帰り、部屋ですぐ開いて読むのも幸せですが、少し時間を置くのも悪くありません。忙しかったり疲れていて、そのコミックを読む気分にココロが整っていないときには、そのまましばらく放置して、時間を待つのもマンガ読みの楽しみです。
いつでもすぐ手に取れるところに1冊を置いておき、「今日は読もうか」と自分に問いかけ、「いやもうちょっと先に取っておこう」なんてもう数日先送りするのは、オトナのマンガ読みの特権だと思います。これが高校生だと、友人と同じ話題で盛り上がるために、買ってすぐ読む必要があるからです。
そしてある日、「あなたにとって、読むべき時間」が訪れます。深夜、寝付けないとき、まだ外は真っ暗で、遠くの明かりも少なくなった頃合い、部屋の中にも部屋の外にもまったく音がしない瞬間がやってきて、あなたは居間のソファーで1人静かにコミックの最初のページをめくるのです。
ネットだけで活動する謎のバンドと、そのリスナーが曲に心動かされる様子を描く連作短編集『シアロア』は、そんな風に読んでみることをオススメしたい1冊です。
■音楽はいつも、若者を揺り動かす
筆者はEpicSONY全盛期に洗礼を受けた世代なので、大江千里、渡辺美里、TM Networkあたりの音源を中高生の頃は浴びるように聞き、25年たってもまだ、その頃の曲たちを口ずさみ、また元気がないときに力をもらう存在としてあり続けています。世代によってミスチルであったりスピッツであったりアジカンであったりしますが、若い頃に耳にした音楽は一生の財産です。
ソニーのウォークマンのCMのように、音楽はいつも若者を揺り動かします。好きな人へ告白をする力をくれたり、失恋をして辛い夜を切り抜ける力となったり、友人関係に悩んでいる自分に答えをくれたり、受験勉強に追われる圧迫感から気分を解放してくれたりします。
ネットだけで活動する謎のバンド「シアロア」も、その曲を好きな中高生に力を与え、またそれがシアロアをひとつ上のステージへ導いていきます。
音楽のコミックといえば『BECK』か『けいおん!』かもしれませんが、この1冊の短編集も、音楽コミックのひとつとして一読してみてはいかがでしょうか。静寂感と中高生のときに感じたあの冷たい肌感覚が、絵柄からよく伝わってきて、いい1冊だと思います。
ちなみに、作者のふたり(春川三咲&田口囁一)は「感傷ベクトル」というバンドを実際に組んでおり、連作短編集「シアロア」の各話と連動した曲を制作し、「シアロア」というアルバムを発売しています。コミックを読んでみて、ココロが震えた人は、CDもぜひ買ってみてください。
■「僕は友達が少ない」コミカライズもおすすめ
また、この作者たちは先日アニメ化もされたライトノベル『僕は友達が少ない』のオリジナルコミカライズもしていて、いわゆる肉ルート(星奈と小鷹とが親密になるエピソード)を描いた全2巻コミックも発売されています。こちらもなかなかの切れ味で原作を処理していて、オススメします。
[感傷ベクトル -sentimental vector-]
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