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「ども、ありがとうございました! またいい記事が書けそうです」
「どういたしまして」
今日は新聞部の浦辺が取材に来ていた。チーム一丸となって戦った関東高校将棋リーグ戦を取り上げてくれるとあって、質問に答える紗津姫はいつにもまして穏やかでニコニコしていた。しかし依恋は不満顔だ。
「どうせまた、メインは紗津姫さんなんでしょ? あたしだって活躍したのに」
「例によって先輩たちの意向もあるんでねえ」
「要するに、あたしと紗津姫さんは同等じゃないって思われてるわけでしょ?」
「ストレートに言えば、そういうことなのかな。去年のミスコンのこと聞いたんだけどさ、よほど衝撃的だったみたいだぜ。得票数もダントツで」
依恋は誰もが認める美少女だ。上級生の間でも噂になっていると聞く。しかしそれでも、紗津姫の知名度とインパクトには及ばないということなのだろう。
「ま、その評価が逆転する日は近いわ。もうミスコンにはエントリーしたんだけど、実行委員の人たち、すごく期待の眼差しだったわよ」
「いやはや、たいした自信だねえ。で、神薙先輩は今年もミスコン、出るんですか?」
浦辺は来是の顔を窺ってから言う。
「……検討中といったところですね」
「去年は知らないうちに友達がエントリーしていたとか聞きましたけど」
「ええ、今年はそんなことはしないようにと釘を刺しています」
苦笑いする紗津姫。まだしばらくは検討中のまま動きそうにない。
だから少しずつ小技を絡め、揺さぶりをかける――。
「ところで先輩! ブログのアクセス数がすごいことになってますよ」
「そうなんですか?」
「マジです。昨日は一万アクセスくらいありましたから」
「へえ、そんなに?」
「快挙じゃないですか!」
具体的な数字を聞いて、依恋と金子も驚いていた。
――事は狙いどおりに進んでいた。開設からまだ数日だが、「将棋アンテナ 棒銀さん」からブログの存在を知った紗津姫ファンが匿名掲示板で話題にし、さらにその様子が複数のまとめサイトに転載され、アクセス数が急増したのだ。レスの内容はおおまかに「美しい」「でかい」の二種類である。
紗津姫には匿名掲示板のことは教えたくないので、こうした経緯については説明しない。ただ注目されているという事実さえあればいい。来是はそう考えて、携帯の画面を見せる。
「ほら、応援コメントも書き込まれてますよ」
<いい写真ですねー。これからも更新楽しみにしてます!>
<アマ女流二冠を目指して頑張ってください!>
<こんな先輩に教わりたかった……。>
「まあ……」
絶賛の嵐に照れくさそうな紗津姫。浦辺がこっそり耳打ちする。
「なるほど、これがお前の作戦か」
まあなと微笑みを返す。
と、また依恋が不満そうにする。
「あたしのことは書かれてないの?」
「そうみたいだな」
依恋には教えるつもりはないが、匿名掲示板では「この子も可愛い!」「でかい!」とかなり話題になっている。表立ってそうしたことを書きに来る人はいないというだけのことだ。
彼女は決して引き立て役などではなかった。紗津姫と堂々と比肩する魅力の持ち主。あらためてそう思い知る……。
「来是、今日はあたしの写真を十枚くらい載せなさい!」
「依恋ちゃん、わがままを言ってはダメですよ。今までどおり、一枚ずつで。春張くん、今日はどんな写真を撮りますか?」
「え? ああ……先輩の好きなようにしていいですけど」
「では、将棋とチェスの二面指しというのはどうでしょう? 斉藤先生からチェス盤をいただきましたし」
紗津姫の笑顔は軽やかな音が鳴るようだった。
これまでは来是に言われるがまま撮られていた。しかし今、彼女は積極的に提案している。
来是は内心ガッツポーズを決めた。確実に手ごたえありだ。
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