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     ☆

 晴れて合流した一同は、海の家で昼食を取ることになった。
 焼きそば、味噌田楽、焼きトウモロコシ、アメリカンドッグなどなど、大味ながら美味い料理の数々。爽やかな波音を聞きながらのランチは和気藹々としたものになるはずだったが――先刻のトラブルの反省会がスタートしてしまった。
「まったくもう、あんたの浅はかな作戦のせいで、余計な面倒になったのよ」
「上手くいくと思ったんだよ……」
 だが、いくら言い訳したところで後の祭り。依恋の指摘どおり、あの結果を見れば浅はかな作戦だったと断じざるを得ないだろう。
「すいません先輩。さっさとパトロールの人を呼べばよかったんだ」
「気にしないでください。悪いのはあの人たちなんですから」
「紗津姫ちゃん、人がよすぎだわ。あんなハレンチな演技までするハメになったのに」
 出水の言葉に、来是はあの極上の感触を否応なく思い出す。
 いまだ成長中という、間もなく三桁の大台に到達するであろう紗津姫のふくよかなバスト。それが自分の頭にあんなにも密着して、温かさと柔らかさとセクシーな香りを伝えていた。
 演技をするなら、もっとやりようがあったはずだ。しかし彼女は、何も迷う素振りを見せずに、すでに一線を越えた恋人のように振る舞った――。
「でもでも、春張くんの行動はとても男らしいと思います!」
「うむ、なかなかできることじゃないぞ」
 金子と関根はあのやりとりを見ていなかったから、気楽なことを言っている。
「まあ、紗津姫ちゃんが魅力的すぎるのが一番の原因ということね。そこは親友として誇らしいわ」
「あんたが紗津姫さんを勝手に連れ出したのも、原因のひとつじゃないの?」
「あら、そっちだって一目散に彼を連れて波とたわむれていたくせに」
「そ、それは関係ないでしょ!」
 出水と依恋が一触即発になりそうなのを、紗津姫が笑顔でたしなめた。
「もうこの話は終わりにしましょう。食べ終わったら、今度こそまとまって行動しましょうね」
 食事を済ませると、全員で斉藤先生のところへ戻った。ずっと荷物番をしてもらうのも申し訳ないので、ここらでお役目を解放してあげようということになった。
「先生、ここはあたしたちが見てるから、ご飯行ってきていいわよ。どうせならビールでも飲んでゆっくりしてれば?」
「そうか、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
 斉藤先生は財布を持って、いそいそと海の家へ向かった。
「じゃ、しばらくあたしと来是が荷物番してるから、紗津姫さんたちは楽しんできて」
「俺もかよ?」
「そのほうがいいですね。依恋ちゃんだけだと、ナンパの魔の手が忍び寄ってくるに違いありませんから」
「だな。春張くん、しっかりガードしてやれ」
「ひとりでも合気道で返り討ちにできると思いますけど……」
「何言ってんですか! 女の子にそんな力を使わせる状況を、そもそも避けるべきでしょうが!」
 金子の妙な迫力に来是はたじろぎ、コクコクと頷くほかなかった。
 紗津姫たち四人の背中を見送りながら、来是と依恋はビーチパラソルの下に座り込む。足を思い切り伸ばして、はあと溜息ひとつ。
「結局、全員一緒に遊べないな……」
「先生が戻るまでの辛抱よ」
「でもお前、ビールでも飲んでゆっくりしてればとか言っちゃったじゃないか。しばらく戻ってこないんじゃないのか」
「かもしれないわね。でも大丈夫よ。あっちにも合気道の使い手がいるし」
「依恋まであんなことができるとは、知らなかったなあ」
「何年か前、護身用に習ったことがあったのよ。動きを忘れてなかったのは、あたしの才能のなせる業ね。……それよりさ」
 依恋は自分の荷物から、チューブ状の容器を取り出した。そして、どこか蠱惑的な微笑みを振りまく。
「日焼け止めクリーム、塗ってくれない? あんまり焼きすぎたくないから」
「……自分で塗れるだろ、そんなの」
「背中には手が届かないわ」
「そりゃそうだけど」
「じゃ、お願いね」
 依恋は来是の真正面に、うつぶせになって寝転がった。おもむろにビキニのトップを抑える紐を解く。
 はらりと紐が地面に落ち、依恋の綺麗な背中は完全な無防備になった。これだけでも目のやり場に困るが、さらに豊かに実った胸が横から覗いていた。
「は、外す必要ないだろ?」
「こうしないと、まんべんなく塗れないでしょ。さ、早くして」
 そうだ、さっさと塗ってしまえばいい。というか目をつぶってしまえば、いちいちうろたえなくて済むはずだ。
 来是はクリームを手に取ると、静かにまぶたを閉じた。
 おそるおそる両手の平を背中にくっつけて、クリームを伸ばしていく。
 信じられないほど柔軟性に富んだ肉付きをしている。来是は思わず快感を覚えてしまった。先ほどの紗津姫もそうだったが、どうして女の子はこんなにも柔らかくて、気持ちのいい体をしているのだろう……。
「ひゃあん?」
 考え事をしていたせいで、うっかり手の平がお尻を触ってしまった。来是は慌てて目を開け、手も離す。
 依恋はうつぶせのまま振り向いて、頬を赤くしながら唇をとがらせる。
「エッチ」
「わ、悪い。目を閉じてたから」
「……なあに、あたしの肌がまぶしすぎて、直視できないってこと?」
 来是は何も答えられない。沈黙は肯定と受け取ったのか、依恋は少し嬉しそうな、誘惑するような笑みに変わる。
「背中の次は足もやって」
「そこは自分でできるだろ?」
「あたしの太もも、触ってみたくないの? 二度とないかもしれないチャンスよ」
 押されっぱなしは男として面白くなかった。来是はせめて意地悪しようと試みる。
「そんじゃあすごくいやらしく触るぞ?」
「ええ、いいわよ」
「冗談だよ! 本気にするな」
「あたしこそ冗談よ」
 結局ペースを明け渡してもらえないまま、来是はおとなしくクリームを塗り続けるしかなかった。