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「はじめに・料金体系について」で書いたとおり、本ブロマガの連載は都度課金制にしており、物語の途中までは無料で読めるようになっています。
 で、課金して読める部分の掲載はまだ先のことになるのですが、チャンネルの開設にあたって有料記事が最低1本必要ということなので、本稿を書くことになった次第です。(本稿は2013年6月18日をもって無料記事にしました)
 また「個人クリエイターがニコニコチャンネルでいかにマネタイズできるか」についても焦点を当てています。企業や著名人しか開設できないと思われていそうなニコニコチャンネルを、無名の一作家・ライターにすぎない私がどうやって開設できたのか? 知りたい方はぜひお読みください。


1.『俺の棒銀と女王の穴熊』はなぜ生まれたか、を語る前に
 そもそも将棋をテーマにした小説が少ないということから話を始めましょう。
 最近では小説すばる新人賞を受賞した『サラの柔らかな香車』、小説現代長編新人賞を受賞した『盤上のアルファ』、貴志祐介氏のSF『ダークゾーン』(厳密には将棋ではないですが)などがあり、時代をさかのぼれば真剣師を主人公にした夢枕獏氏の『風果つる街』、内村康夫氏のミステリー『王将たちの謝肉祭』などが挙げられます。探せばあるものだとは思いますが、それにしたってやはり少ないと言わざるを得ません。
 ましてや、ライトノベルで将棋を扱った作品などほぼ皆無。ほぼ、というのは富士見ファンタジア文庫から2005年に出版された『MA棋してる!』という作品が確認できるからです。しかしこれは魔法少女ものに将棋を融合させたという、まあ普通の将棋小説とは言いがたく。
 一方、ノンフィクションに目を向ければ、優れた作品はたくさんあります。団鬼六氏の『真剣師 小池重明』大崎善生氏の『聖の青春』『将棋の子』、瀬川晶司五段の自伝『泣き虫しょったんの奇跡』などなど。その他、棋士の生涯や人物像にスポットを当てた読み物はさまざまあり、私もそれなりの数を読んでいますがハズレを引いた試しがありません。
 生半可なフィクションが勝てないほどの魅力を、現実の棋士が持っている。これが将棋小説が少ない理由のひとつだということはすでに指摘されています。

【囲碁・将棋の小説続々 「勝負」に焦点、悲喜照らす】
 http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201102280053.html
 振り返ると、川端康成が実在した囲碁名人の引退対局を描いた小説『名人』など、囲碁将棋小説の伝統はあった。ただ、日本将棋連盟の広報課は「実在の人物がモデルの『名人』のような小説でなければ、ミステリー小説がほとんどだと思う」と話す。

(中略)

 囲碁将棋の愛好者で文芸評論家の西上心太さんは、もう一つのハードルを指摘する。「現実の棋士に魅力がありすぎ、それに勝てるフィクションがなかった」。将棋の名人に挑み続けながら29歳で死去した村山聖(さとし)さんを描く『聖の青春』など、実在の棋士のキャラクターが小説以上に強いのだ。
 このことを踏まえると、漫画の世界に将棋を扱った名作・人気作が多くあることには納得がいきます。『月下の棋士』『3月のライオン』『ハチワンダイバー』『しおんの王』など、いずれも漫画ならではの、小説ではちょっと不可能な、独創的なキャラクターで魅せています。現実の棋士と同等のインパクトがあるわけです。
 ともかく将棋小説は数少なく、将棋ファンの間で話題になるような作品は皆無と言っていい状況です。

 ならば自分で書いてしまえ。

 この考えに行き着くのは、私としては自然なことだったのだと思います。
 私が将棋を覚えたのは、多くの将棋ファンと同じく、子供の頃に父親に習ったのがきっかけです。とはいえせいぜい駒の動かし方を教わった程度で、定跡だの手筋だのはまるで知りませんでした。
 本格的に上達してみたいと思ったのは、30歳を過ぎてからです。どうしてまたそんな気持ちになったのか……強烈な動機があったわけではありません。いい歳になったので落ち着いた趣味のひとつでも持ちたいとか、そんな理由なんだと思います。
 ところが将棋は落ち着いているどころか、めちゃくちゃ熱かった。
 こんなにも刺激的な頭脳ゲームが他にあるだろうかと認識するまでに、たいして時間はかかりませんでした。何冊もの定跡本や詰将棋本を買いそろえ、大山康晴、升田幸三、木村義雄、阪田三吉といった伝説の棋士たちの自伝・評論本を読みあさり、果ては江戸時代の棋士の棋譜を中古で手に入れて並べたり。もちろん名人戦棋譜速報と将棋連盟モバイルへの課金も抜かりなく、ニコニコでタイトル戦の生中継があればかじりついて見ています。
 将棋熱はとどまることを知らず、小説家として本格的に世に出たいという夢も重なり、『俺の棒銀と女王の穴熊』は書かれることになったのです。


2.発表の場を求めて試行錯誤
 この小説は漫画も含めてあまり例がないと思われる、純粋なアマチュアの趣味としての将棋、学生の部活としての将棋をテーマにしたものです。
 プロや奨励会の厳しい世界、あるいは退廃した真剣師の世界……将棋作品といえば多くがこれです。将棋好きの息子を持つ母親の視点で描いた漫画『ひらけ駒!』も、息子が研修会に入るという展開になりました。しかしもっとユルくてほんわかした物語があってもいいじゃないか。この意見に賛同してくれる将棋ファンは少なくないと確信しています。
 そしてライトノベルらしく、ラブコメ要素も取り入れています。ヒロインは優しい先輩と強気な幼馴染(どちらも巨乳)。何よりキャラクターを重視した、将棋をよく知らない人でもきっと楽しめる作品に仕上げたつもりです。
 しかしながら、どこのレーベルとコネがあるわけでもないので、普通に新人賞に出すことになりました。
 結果は落選でした。ならばと某作家エージェント会社に企画概要を見てもらったら「うちでは難しい」とバッサリ。
 やはり将棋がテーマのライトノベルなんてものはどこも欲しがらないのか。そう落ち込んだところで……閃いたのです。
 現在もっとも将棋と親和性が高く、故・米長邦雄永世棋聖も将棋界にとって大事になるだろうと明言したメディア。そう、ニコニコがあるじゃないかと。
 私が目をつけたのはブロマガでした。ニコニコでは今年になってから、企業・著名人しか運営できなかったブロマガを一般ユーザー向けにも開放して、誰もが好きなように文章コンテンツを発表できるようにしました。
 しかしこの一般ユーザー向けバージョンは、課金には対応していませんでした(将来的には課金対応するかもとは言われていますが)。この小説で収入を得ることを目標にする以上、それでは意味がありません。
 さてどうしたものか……悩みながらあらためて調べてみると、ニコニコチャンネルを開設することで有料ブロマガを発表できるとありました。原則的に個人の申請はお断りだが、内容によってはOKだと。
 内容によっては!
 私はこの時点で自信がありました。すぐに以下の文章とともにチャンネル開設の申請をしたのです。
 おそらく史上初となる、将棋をテーマにした青春ラブコメライトノベル『俺の棒銀と女王の穴熊』をブロマガ上で連載します。
 タイトル戦の中継や電王戦の企画など、現在もっとも将棋と親和性の高いメディアであるニコニコでの連載であれば、将棋ファンユーザーの注目も集まりやすく、商用コンテンツとして堪えうるものだと考えています。

(以下略)
「審査結果:可」と返信があったのは申請当日のことでした。


3.個人クリエイターにとってのニコニコチャンネルとマネタイズ
 かくして当チャンネルは開設に至りました。
 周りはみんな有名人です。ひょっとしたらニコニコチャンネルの運営者の中で、私が一番知名度が低い人間であるかもしれません。そんな中でどこまでやれるかは、もうやってみなきゃわからないですね。
 さて、私と同じようにニコニコチャンネルのブロマガで連載小説をしているという人は、あまり見当たりません。というか、個人クリエイターの作品発表の場としては、ニコニコチャンネルはほとんど選択肢に入っていないのではと思います。そりゃ、見てもらうだけなら自分のサイトに載せればいいわけですし、有料販売したいと思ったら、同人誌委託やダウンロード販売という手段がありますから。
 この連載企画が審査を通過したのは、やはり将棋がテーマであることが大きいのだと思います。再三書きますが、ニコニコは本当に将棋と親和性が高い。審査チームもそれを認識した上で、これならOKと判断してくださったのだと思います。だから他にどこにでもあるようなライトノベルだったら、きっと無理だったでしょう。
 これをご覧の中には、自分もニコニコチャンネルを開設してみたいと思う方がいるかもしれません。よい企画さえあれば個人でも開設できる、そしてプロとしてのクリエイター活動ができることは、私が証明することができました。
 どんな企画なら審査を通るだろうかというのはわかりませんが、大事なのは見せたいターゲットがはっきりしていて、オリジナリティがあることでしょう(すごく月並みですが)。幸い、小説の新人賞のようにレーベルカラーを考える必要はありません。このニコニコは、本当の意味でなんでもありです。「こいつは面白い。オリジナリティがある」と自分が思ったなら、チャレンジしてみてください。
 あとは、どれほどの収入になるのかですが……。
 こればかりは自分の努力次第。前向きな報告ができるように、はりきって運営していきたいと思います。