記録に残る長いこう着状態の後、ドル・円相場は1カ月で6円近く上昇。
2008年9月の「リーマンショック」時の106円台を上抜け107円台に乗せてきました。円が売られる要因も多々ありますが、主な背景はドル高と言えるでしょう。
米国の量的緩和政策終了後の将来の利上げ期待、一方で量的緩和に舵をきった欧州中銀の金融政策によるユーロ安、米ドル高基調に加えて、利上げ期待により 買われていた英国ポンドが売られたのも、米ドル高に拍車をかけた格好です。スコットランド独立投票を18日に控え、独立賛成派が半数を超したと伝えられる とポンド売りが顕著になりました。
8月末から直近までの米ドル相場は対主要通貨に対して全面高でした。対ドルで最も売られた通貨はブラジル・レアルの約4%、続いてノルウエイ・クローネ(3.2%)、日本円(2.84%)と続きます。ちなみに、ドル高基調の中で強さを見せたのは中国人民元でした。
ドル高の主な背景は、米国が行ってきた量的緩和政策の終了と、その後の正常化への「出口戦略」です。16日&17日に行われている連邦公開市場委員会(FOMC)で話し合われ、最終合意をするのではないか、とされています。
出口政策、特にマーケットの関心は「将来の利上げがいつなのか?」ですが、委員会終了後(日本時間18日未明)に出される声明文と、その後のイエレン議 長の記者会見では、QE3の停止を10月に控えていることもあり、敢えてサプライズ要素は盛り込まれるとは考えにくく、イエレン議長も慎重に発言するので はないかと思います。最大関心事である利上げ時期に関して、より具体的な情報を得られるとしたら、QE3終了後の年末のFOMCあたりかもしれません。他 方、声明文以外でFOMC参加者による経済と金利水準の見通しには注目しておきたいところです。
米国の利上げ時期はさておき、実際に量的緩和による資金供給は停止となり、今後は利上げ方向にあるというコンセンサスに加えて、他の主要国の事情が逆 (欧州、日本)または阻害要因発生(英国)もあり、為替市場におけるドル高基調は当面変わらないものと思います。とは言え、年内110円予想の声も増え、 一方通行な見方が支配的になったときには、少し疑問を持って、ズームアウトして対象の周りも見ることも忘れないようにしておきたいものです。
一方、米国債券市場では10年債が地政学的リスクや欧州債の異常な金利低下による米国への資金逃避により一時2.3%台をつけましたが、先週末には 2.6%まで利回りが戻ってきました。中央銀行の政策金利の予想を反映するとされる2年債は直近0.53%と1ヶ月前から0.10%程度の上昇となりまし た。債券の利回りを見る限りでは、利上げ期待が順当に利回りに反映されていないようです。債券利回りには、先行きの金利水準見通しと需給関係が反映されま す。米債需要が強いことが利回り上昇を抑えているのかもしれませんが、今後の金融政策の見取り図が具体的に見えてきたときに、米債の利回りは上方修正され ていく可能性が高いと思います。
さて、ドラギ総裁は8月末にジャクソンホールでコメントした通り、欧州中央銀行は量的緩和に踏み切りました。市場の予想以上に思い切った内容であったた め、ユーロは対ドルで一時1.28台までつける場面がありました。一方、債券利回りは政策発表前にはドイツ10年債で0.88%という異例の低利回りをつ けましたが、その後1%台に戻しています。ユーロ圏の長期債はやや過剰に買われ過ぎていた反動が一時的に出ていますが、2年債は例えばドイツ債利回りがマ イナス0.065%で変わりない状況です。
期待インフレ率を示す5年物のドイツ債とインフレ連動債の差は、8月中旬に0.3%台をつけ、ドラギ総裁を量的緩和実施へと駆り立てたとされています。 実施後の同レートは0.68%まで反発した後、直近では0.65%。期待インフレ率が上がってこなければ、更なる緩和政策もあるのではないかと思います。 18日に実施される融資対象の長期オペ(TLTRO)で応札が予想に反して小さい場合には、更なる緩和政策を期待する向きが増えると考えられます。今のと ころ、ユーロ相場の安定までには道のりが遠いように思います。ユーロ危機収束の最終章かもしれません。
最後にドル・円相場です。ドル高基調という背景もあり107円台まで猛スピードで上昇してきましたが、日本サイドにも円安を支えていると思われる材料が多く見られます。
財務省が発表する対外証券投資の統計では、8月には銀行等の信託部門からの資金が1兆円以上海外の株・債券に投資されており、公的年金部門が海外投資増額期待が民間の年金運用姿勢に影響しているのではないかと言われています。
一方で、日銀・黒田総裁は必要なら更なる緩和も厭わないようなコメントを出されていますが、前提として消費税増税実施による財政健全化に言及しています。こちらは安易に期待しない方がよさそうです。
どちらにしても、米国との金融政策の現在位置と近未来図の差を考えれば、多少のスピード調整はあるにせよ、ドル円相場の上昇基調に当面変化はないと考えます。
今週は、米国の金融政策決定会合FOMC、欧州中銀の長期オペ実施、スコットランドの独立投票、週末にはG20が予定されていますが、予定外、想定外の 事象が起こったときに大きく動くのがマーケットですので、柔軟に動けるように、余裕をもった資金管理で対応していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
*9月17日午前13時執筆
本号の情報は9月16日のニューヨーク市場終値レベルを基本的に引用、記載内容および拙見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
2008年9月の「リーマンショック」時の106円台を上抜け107円台に乗せてきました。円が売られる要因も多々ありますが、主な背景はドル高と言えるでしょう。
米国の量的緩和政策終了後の将来の利上げ期待、一方で量的緩和に舵をきった欧州中銀の金融政策によるユーロ安、米ドル高基調に加えて、利上げ期待により 買われていた英国ポンドが売られたのも、米ドル高に拍車をかけた格好です。スコットランド独立投票を18日に控え、独立賛成派が半数を超したと伝えられる とポンド売りが顕著になりました。
8月末から直近までの米ドル相場は対主要通貨に対して全面高でした。対ドルで最も売られた通貨はブラジル・レアルの約4%、続いてノルウエイ・クローネ(3.2%)、日本円(2.84%)と続きます。ちなみに、ドル高基調の中で強さを見せたのは中国人民元でした。
ドル高の主な背景は、米国が行ってきた量的緩和政策の終了と、その後の正常化への「出口戦略」です。16日&17日に行われている連邦公開市場委員会(FOMC)で話し合われ、最終合意をするのではないか、とされています。
出口政策、特にマーケットの関心は「将来の利上げがいつなのか?」ですが、委員会終了後(日本時間18日未明)に出される声明文と、その後のイエレン議 長の記者会見では、QE3の停止を10月に控えていることもあり、敢えてサプライズ要素は盛り込まれるとは考えにくく、イエレン議長も慎重に発言するので はないかと思います。最大関心事である利上げ時期に関して、より具体的な情報を得られるとしたら、QE3終了後の年末のFOMCあたりかもしれません。他 方、声明文以外でFOMC参加者による経済と金利水準の見通しには注目しておきたいところです。
米国の利上げ時期はさておき、実際に量的緩和による資金供給は停止となり、今後は利上げ方向にあるというコンセンサスに加えて、他の主要国の事情が逆 (欧州、日本)または阻害要因発生(英国)もあり、為替市場におけるドル高基調は当面変わらないものと思います。とは言え、年内110円予想の声も増え、 一方通行な見方が支配的になったときには、少し疑問を持って、ズームアウトして対象の周りも見ることも忘れないようにしておきたいものです。
一方、米国債券市場では10年債が地政学的リスクや欧州債の異常な金利低下による米国への資金逃避により一時2.3%台をつけましたが、先週末には 2.6%まで利回りが戻ってきました。中央銀行の政策金利の予想を反映するとされる2年債は直近0.53%と1ヶ月前から0.10%程度の上昇となりまし た。債券の利回りを見る限りでは、利上げ期待が順当に利回りに反映されていないようです。債券利回りには、先行きの金利水準見通しと需給関係が反映されま す。米債需要が強いことが利回り上昇を抑えているのかもしれませんが、今後の金融政策の見取り図が具体的に見えてきたときに、米債の利回りは上方修正され ていく可能性が高いと思います。
さて、ドラギ総裁は8月末にジャクソンホールでコメントした通り、欧州中央銀行は量的緩和に踏み切りました。市場の予想以上に思い切った内容であったた め、ユーロは対ドルで一時1.28台までつける場面がありました。一方、債券利回りは政策発表前にはドイツ10年債で0.88%という異例の低利回りをつ けましたが、その後1%台に戻しています。ユーロ圏の長期債はやや過剰に買われ過ぎていた反動が一時的に出ていますが、2年債は例えばドイツ債利回りがマ イナス0.065%で変わりない状況です。
期待インフレ率を示す5年物のドイツ債とインフレ連動債の差は、8月中旬に0.3%台をつけ、ドラギ総裁を量的緩和実施へと駆り立てたとされています。 実施後の同レートは0.68%まで反発した後、直近では0.65%。期待インフレ率が上がってこなければ、更なる緩和政策もあるのではないかと思います。 18日に実施される融資対象の長期オペ(TLTRO)で応札が予想に反して小さい場合には、更なる緩和政策を期待する向きが増えると考えられます。今のと ころ、ユーロ相場の安定までには道のりが遠いように思います。ユーロ危機収束の最終章かもしれません。
最後にドル・円相場です。ドル高基調という背景もあり107円台まで猛スピードで上昇してきましたが、日本サイドにも円安を支えていると思われる材料が多く見られます。
財務省が発表する対外証券投資の統計では、8月には銀行等の信託部門からの資金が1兆円以上海外の株・債券に投資されており、公的年金部門が海外投資増額期待が民間の年金運用姿勢に影響しているのではないかと言われています。
一方で、日銀・黒田総裁は必要なら更なる緩和も厭わないようなコメントを出されていますが、前提として消費税増税実施による財政健全化に言及しています。こちらは安易に期待しない方がよさそうです。
どちらにしても、米国との金融政策の現在位置と近未来図の差を考えれば、多少のスピード調整はあるにせよ、ドル円相場の上昇基調に当面変化はないと考えます。
今週は、米国の金融政策決定会合FOMC、欧州中銀の長期オペ実施、スコットランドの独立投票、週末にはG20が予定されていますが、予定外、想定外の 事象が起こったときに大きく動くのがマーケットですので、柔軟に動けるように、余裕をもった資金管理で対応していきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
*9月17日午前13時執筆
本号の情報は9月16日のニューヨーク市場終値レベルを基本的に引用、記載内容および拙見解は参考情報として記しています。
式町 みどり拝
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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