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日本の中小モノづくり企業の復活

2013/12/11 17:06 投稿

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日本は世界トップレベルのモノづくり国家。多くの中小企業が様々なモノづくりに取り組んでいて世界中に輸出されています。

 3600社もの企業が上場する日本の株式市場で最大の時価総額の企業はトヨタ(7203)ですが、これもモノづくり企業の代表的企業と言えます。トヨタ は独自の看板方式による自動車生産体制を構築している点で凄いということですが、実際には車を支える部品製造自体が凄いので世界でもトップクラスの良いク ルマが完成し世界市場で活躍できているとも言えます。

 ゲームやアニメなど日本のソフト産業が世界中で活躍しているのとは、対照的に旧来のモノづくり企業が地道に産業を支えていることを忘れてはなりません。
 2000年代前半に勃興したSNSというバーチャルネットワーク上の産業がゲーム業界を変えてしまい、任天堂のような旧来のゲーム業界にとって代わる勢 いがあります。こうした生産性のない(ゲームでの遊びによる課金)新サービスが脚光を浴びており、グリー、DeNA、ガンホー、ミクシィといったソーシャ ルゲーム企業がいきなりジャパニーズドリームのような世界を演出しています。

 これに対して日本経済の根幹をなしてきたモノづくり企業はどうか。

 こつこつと研究開発を続け、着実にグローバルな活動を行い安定した業績を上げるだけで大きく評価されることのないモノづくり企業を改めて見直される可能性がないか先日訪問した自動車部品の老舗企業で探ってみよう。


【埼玉に本拠を置く自動車部品メーカー】

 設立80周年を来年12月に迎えるピストンリングメーカー日本ピストンリング(6461・略称NPR)が地味ながら着実な展開を続けている。

 日本のモータリゼーションの発展を内から支え、内燃機関部品の専門メーカーとして貢献してきたNPR。日本のみならず世界の自動車メーカーの有力パート ナーとして世界中で活躍する企業に成長してきた同社の時価総額は157億円。時価総額21兆円を超えるトヨタを支える重要部品を製造する企業の一つとして はいささか時価総額規模は小さい。今期の予想売上高500億円に対して経常利益は23億円としているが、円安メリットで本来はもっと収益の拡大が見込まれ てしかるべきだが、製品の絞り込みを続けているほか、新社長の下に構造改革を推進している点で同業他社に比べ穏健な業績見通しとなっている。
 また、インドネシアで一過性の税金還付請求訴訟費用3億円発生したことも見かけの業績伸び悩みにつながっている。

 こうしたことが株価の頭を抑えている。過去1年において、およそ160円から220円が株価の変動レンジとなっており、5月の高値221円を抜けない展開が見られる。9月の安値152円は今年の安値で、アベノミクス相場に乗れないまま推移している。

 大規模なピストンリングメーカーは世界に5社あり、それら5社で生産合計の9割を占めている。そのうちの3社(TPR、リケン)が同社も含め日本にあ り、残りの2社がドイツと米国にあるとされる。ドイツのマーレーはリケンと提携しており、ピストンリングに止まらずピストンなど総合エンジン部品メーカー としての立ち位置を持ち世界中に拠点を持っている。また米フェデラルモーグルはTPRと提携しており、マーレーと同様に自動車部品全般を手掛け、中国へも 進出している。
 これに対して同社は2007年にピストンのグローバルサプライヤードイツ、コルベンシュミット社と提携した。

 同社の場合、トヨタ向けの売上構成比は10%に過ぎない。ピストンリングでも有力だが、バルブシートではシェアナンバーワンの位置にあり、アウディなど の海外メーカー向けにピストンリングだけではなくバルブシートの売上が決定するなど、非日系メーカー向けが堅調に推移している点が注目される。

 今期の設備投資は69億円と前期の39億円に対して30億円の増加を見込んでいたが、約9億円の未達となる見通し。
 このうち海外は中国合弁企業の工場の増強を中心に28億円を見込んでいるが、多少ずれ込む見込み。国内も3工場の更新設備に加え増産設備や開発設備を見 込んでいたが、翌期にずれ込むと見ている。来期の設備投資は24億円に減少する見込みであったが、期ずれ分9億円があって33億円程度となる見通し。
 第5次中期計画は年商520億円、経常利益は総資産経常利益率6%としており、36億円以上が見込まれるものの、為替面や材料費の上昇などを見込んで多少修正を行うと見られる。いずれにしても今期の予想経常利益23億円に対しては大幅な増益が期待される。
 来年12月には設立80周年を迎える予定の同社だが、業績の拡大とともに何らかの記念配当を実施する可能性も高い。

【トライポロジー技術】

 金属を焼いて固める焼結に代表される材料技術、PVDなどの表面処理技術、加工技術等、エンジンパーツの技術開発において世界初、業界初の製品を数多く 世に送り出してきた同社の研究開発はトライポロジーをコア技術としている。その根幹をなすのは半世紀以上にわたり培われた材料とメカニズムの解析に関わる 固有技術で、これまではもっぱら自動車業界のエンジン向けに応用してきた訳だが、同社の技術は今後様々な分野に応用される可能性がある。

 **トライポロジーとは

 2つの物体が互いに滑りあうような相対運動を行った場合の相互作用を及ぼしあう接触面、及びそれに関連する実際問題についての科学技術の1分野。
 トライポロジーの目的としては、1)摩擦係数の制御、2)摩擦面における摩耗や表面損傷の防止、3)摩擦面に起因する騒音や振動への影響低減にある。


 自動車がガソリンやディーゼルではなく電気で動く時代の到来は同社にとっても気になること。未来の自動車の姿が変わることで同社の自動車エンジン向けを 中心とした事業にも影響が出てくることは想像に難くなく、それに対しての対応を水面下ではきちんと進めている必要がある。

 技術の棚卸を行うと同社では表現しているが、蓄積された技術をどのように応用していくかが今後の同社の成長を占うポイントでもある。

 焼結技術を活かしたモーターコアの開発に加えて、医療部品などへの展開が見えつつある点は同社の評価を大いに見直すチャンスとなるだろう。スチールピストンリングからチタン材料、更にはチタン、タンタル材料では毒性の低い生体親和性の高い医療材料の開発が進展している。


【アベノミクスに乗る可能性】

 同社はアベノミクスで打ち出されている医療機器分野へ異業種ながら参入する構えである。手始めに歯の治療に使うインプラント(人工歯根)を試作したほか、血管内部の治療に使うステントなど順次製品を増やす方針である。
 同社の売り上げの9割程度は自動車関連。エンジンを構成する主力のピストンリングは車の電動化に伴い長期的には市場の縮小が見込まれる。部品の材料開発 や加工技術のノウハウを強みに、今後の拡販を目指す考えである。同社が試作した製品には、自社開発のチタンとタンタルを含有した形状記憶合金を応用。ゴム のように弾性が強く加工しやすいのが特徴。現在は同社の固有技術である新材料を医療業界で使用できると考え埼玉大学など外部との連携などを取りながら試験 研究を進めている。素材としての材料供給であれば、薬事法は不要なため、現時点では、薬事法は取得していない。
 今期においては、歯科領域に限定せず、医療向けの新材料を製造するための開発設備の導入を推進している。

【評価】

 時価188円は時価総額157億円という水準である。過去80年もの間に蓄積された技術が図り知れないものの、モノづくり企業の地道な活動への評価は低 い。2012年の経常利益33億円を来期に接近する可能性があるが、そうした収益性の向上が具体化してくれば時価総額の水準は更に高まる公算が大きい。 PBRもまだ0.6倍台で割安に放置されている。
 自動車エンジンの基幹部品を支える製品を製造するモノづくり企業として絶えずM&Aの陰がちらついており、株価の変動も起こりやすい点に注目しておきたい。同業他社とともに常にグローバルな視点から評価を高めやすい点にも留意したい。

(炎)

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。)

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