これまで何回か富裕層の海外移住についてお届けしてきました。
今回の記事はその続編として、そもそも海外移住に人気が集まる理由についてのおさらいと、移住したい場合の税制についてまとめてみたいと思います。
【拡大する富裕層の海外移住】
前回の記事にて、簡単に統計データに触れ、実際に海外移住は増加傾向にあるというお話をお伝えさせて頂きました。
概要のみ繰り返しますと下記のようになります。
・1990年には20万人強だった邦人の海外永住者数は、2011年には30万人以上になっている
・近年は増加のペースも上がってきており、2009年-2010年の対前年比増加率は1%強だったのが、2011年は前年比で3%の増加
・また、在外邦人数では45万人いる北米が最も多いが、アジアも33万人で2位
また、ここ数年有名な所でも、HOYAの鈴木CEOがシンガポールへ、ベネッセの福武会長がニュージーランドへ、サンスターの金田会長がスイスへ、バルスの髙島社長が香港へと、ビックネームの移住が相次ぎました。
確かに、海外への移住はトレンドであるといえそうです。
【国内高級住宅地が沈没?】
実は上記のような富裕層の海外移住によって、自治体の税収にも影響が出てきていると言われています。
例えば富裕層人口が多いといわれている東京都港区は、歳入の約6割を個人の納める特別区民税が占めている自治体です。そしてその特別区民税のうち、更に 6割超の税額を負担しているのが、所得1000万円以上の人達でした。そして、リーマンショックなどの影響もあったのでしょうが、同区からは、富裕層の流 出が進んでいると言われ、2010年度は前年度に比較し11%も税収が減じてしまったそうです。
これは、この年の東京都23区の中で、最も大きな落ち込みとなりました。
また、2013年度の税制改正案に相続・所得税増税が盛り込まれ、2015年には実施される見通しです。今後も富裕層による海外への移住は活発化し、まずは自治体の税収減などの形で社会への影響が広がっていくのかもしれません。
【海外移住を志す人の理由-リタイア後の生活、教育環境、起業-】
富裕層の海外移住というと、高額といわれる日本の相続・所得税を回避してのものであると言われることが多いです。しかし海外移住には、それだけではないメリットも多く存在します。
1.リタイア後の生活の充実
リタイア後の生活を海外で過ごしたいと希望される方は多いようです。特に物価の安い東南アジアの新興国は生活の充実という意味で魅力的であり、例えばマレーシアなどは、夫婦2人で月20万円程度あれば充分な暮らしが出来ると言われています。
この金額であれば、厚生年金の満額受給でも届く範囲ですね。
また東南アジアの国々では、その国で就労しないことや一定以上の収入・貯蓄があることを条件に、退職者ビザの発給にも積極的です。
一方、依然として退職後の移住先として人気の高いニュージーランドやオーストラリアなどでは、退職者ビザの発給の条件は厳しいです。例えばニュージーラ ンドの場合、日本円にして1億円近い資産を持ち、ニュージーランド内に6000万円近い投資をすることなどが求められます。
2.子女や自分自身のための教育環境の充実
前回お伝えした内容です。
特に米国やカナダ、それにオーストラリアやニュージーランドなどの英語圏は、子女の留学先として高い人気を誇っています。また、英連邦加盟国のマレーシアでも、準公用語として英語がビジネスの場でも使われており、近年留学先としても人気を高めています。
3.成長する市場での起業目的
雇用を生む可能性のある起業家は、基本的にどこの国でも歓迎される傾向にあります。国によって起業家向けのビザの種類や呼称は異なりますが、退職者ビザ程には資産条件が厳しくありません。
ただし、起業の場合は、金銭面以上にビジネスの内実や事業計画が重視されます。例えば人気の高い米国やオーストラリアなどでは、起業ビザの申請時に事業計画書の提出も求められます。
また、通常のビザですと3~4年で更新期が来てしまいますが、ビジネスが立ち枯れていた場合ビザの更新がなされない可能性もあるので注意が必要でしょう。
【海外居住者への課税の基本】
最後に簡単にですが、海外税制の基本をまとめます。
まず、所得税や相続・贈与税等は、税法上の「居住者」と「非居住者」どちらに分類されるかで、納税する国が変わることが基本となります。
例えば、日本の「居住者」と認定されれば、所得が生じた場所が国の内外であるかを問わず、その所得に対して日本に所得税を納める義務があります。
一方、「非居住者」と認定された場合も、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)には日本へ所得税を納める義務があります。しかし、海外での事業や投資から生じた所得に対しては、日本の所得税がかかりません。
もちろんその場合も、居住国への所得税の納税義務は発生します。しかし、居住国の税率が日本より低い場合は、各国へ納める税の総額は少なくなります。
では、その「居住者」と「非居住者」の区分けなのですが、実は明確な基準は存在しません。海外の場合は(イギリスやフランス、マレーシアなど)、1年間 の半分以上(=183日以上)の滞在日数が有るか無いかで居住者か否かが変わる「183日ルール」がある場合も多いです。しかし日本では、滞在日数以外に 家族の状況や勤務先等も併せて判定されるため複雑化しています。
(ちなみに外国(A国)の居住者となるかどうかは、A国の法令によって決まることになります。A国で居住者と判定され、日本でも居住者と判定される場合、 二重課税を防止するため、A国と日本間の租税条約にて居住者の判定方法を定めています。どちらの国の居住者となるかを判定するにあたっては、日本とA国と の租税条約によって異なります。また、必要に応じ、両国当局による相互協議が行われることもあります。)
また、相続税については少々厳しく、日本国籍を有する人は、「相続人」「被相続人」両方が5年以上継続して日本を離れた場合にのみ、国外に保有する財産については日本の相続税は課税されません(贈与税の場合も同じ)。そ
れ以外の国内財産や、「相続人」「被相続人」の一方が日本に居住をしている場合は海外財産も日本の相続税(贈与税)の課税対象になります。
(※詳しくは税理士など税務の専門家にご相談ください。内容を保障するものではありません。)
移住を決意しても、70歳を過ぎてくると、色々な面で不自由を感じることがあります。結局日本に帰国してしまうことも多いようです。
そのため、相続税のキャピタルフライトを狙って海外移住を試みたけれども、結局失敗してしまったという方もいらっしゃるようであり、検討をされている方は本当にそこまでの覚悟ができるのかもう一度振返ってみても良いかもしれません。
以上、今回の記事となりました。
また次回、宜しくお願い致します。
冨田和成
株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO
冨田和成プロフィール
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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