1)過去5年間の増収率が過去10年間よりも高い。成長が加速している。
売上と費用との関係が良化し基本的に利益率は長期的みれば改善傾向だ。
2)ただし2022年は鬼門だった。コロナ特需の終焉と半導体不況により利益率が大きく悪化。
1996年から2022年までのNVIDIAの売上と費用の変化率のそれぞれの平均は過去26年では増収率平均34%で費用の増加率の平均は31%と年率で3%もの利益率改善傾向がみられる。しかし近年10年では増収率平均は18%となり費用の増加率の平均は17%であり、年率の利益率改善効果は1%となっている。
さらに直近5年でみれば費用の増加率が勝るようになり、利益率が悪化傾向にある。
10年平均よりも5年平均の方が増加率において高いというところに関しては、同社の成長性は引き続き高いということが推察される。22年の費用の大幅増加は経営判断の結果であり、先行投資や既存事業の拡大のための費用増加と推察される。引き合いの強さから増強を急いだが、業界同様、ダブル発注の影響が実はあり、在庫調整の局面になっているのではないか。
いずれにしても、今後10年を見るにあたり、15%程度の売上成長性が確保できて、先行投資をすでにしている状況から費用の増加率は増収率を下回ることが想定できる。費用の増加率を13%から12%と推察してみると、2033年の同社の純益は7.7倍になる計算となる。それは売上の15%連続複利成長の10年は4.4倍であり、純利率が40%まで改善することで利益率が1.7倍になるためである。
同社の実績PERは23年10月17日現在、116倍であり極めて高位だ。だが、10年後のEPSでは予想PERは15倍程度に下がる。これを安いと思えるか。10年の間にテクノロジーが変化するかもしれないと考える人もいるだろう。30倍でも高すぎると感じる人も多いであろう(今期の想定PERは30倍まで下がる)。
あるいは歴史的見れば安いと感じる人もいるであろう。
スケールメリットというものは、シェアが高い企業には有利に働くはずであり、先行投資によるキャパシティをしっかり把握すれば、もう少し精緻な費用の想定ができるはずである。わたしは売上増加率から2.5%を引いたものを費用増加率に採用したが、もう少しよくなるかもしれない(悪くはならないだろう)。
今期想定は売上倍増。生成AI向けのグラフィック演算チップが成長を牽引する。データセンターへの投資は高水準が続く。
株価を見ていると、過去は1年先予想PER50倍が定位置であった同社の直近の想定PERはおよそ30倍となっている。
短期では地政学リスクが高まっている。
米国政府が中国向けの同社のチップの出荷を制限するというアナウンスが昨夜出ていた。株価はこのニュースを受けて水曜日は5%近く下落した。
四半期業績はモメンタムが回復。
8末に出たQ2は売上が前期比倍増。特にデータセンター向けは売上の過半を占めるが2.7倍近くに。ゲーム向けは2割増。ガイダンスが強く、Q3はQQ(前四半期比較)で2割増。YY(前年四半期比較)では2.7倍に急伸する見通し。データセンター(売上の56%)。ゲーム(売上の33%)。
この2分野で売上の9割を占める。残りはVR関連や車載。
プレゼンテーションは展望明るく、GH200 Grace Hopper Super ChipがGPUとアームArmベースのCPUと一体化したもので、パフォーマンスに優れ、巨大AI産業(主にGAFA等)に受け入れられるとの想定。
ソフトバンクと同社は5-6GのAIプラットフォームとコラボレーションをすると発表されている。車載関連ではMediaTekとのプラットフォームが面白そうだ。スマホも5Gがあまりミリ波の方に進んでいないのでパッとしないがきたるべき6Gの時代には誰でもスパコンが使えるような世界観であろう。
同社への需要を喚起するフィールドがQ2プレゼンスライド37ページにある。
非常に興味深くみた。一日に5億コールがあるというコールセンターのチャットGPT適用。
1日に30億分の分量に達するミーティングの議事録化のニーズ。
10億台に達するスマートシティの監視カメラ。
クレカの詐欺対策、世の中の在庫処分の無駄、医療分野、製造分野における画像応用、自動運転、などなど。
需要面を支える重要なスライドが35ページ。
従来のコンピューティングは高電力消費であった。これがカーボンゼロを目指す時代とマッチングしない。ハードの上にソフトを置く従来のやり方は柔軟性に乏しい。ソフトをベースにしてハードを最適化することで低消費電力となる。アーキテクチャーの変換にあり、インテル型のマルチコア戦略の市場を同社が奪っていると見なすことができるだろう(インテルは5年前よりも売上を減らしている。利益は数分に1になってしまった)。
NVIDIAの直近Q2のプレゼン資料で30ページは非常に面白い。
演算の加速によりどれほどのパフォーマンスの改善が見込まれるのかを解説している。
演算子の数ではなく(チップ面積)、演算子のつなぎ方(アルゴリズム)がパフォーマンスなのだという。
https://s201.q4cdn.com/141608511/files/doc_financials/2024/q2/nvda-f2q24-investor-presentation-final-1.pdf
この意味は重い。
なぜならば、マルチコア(演算子の数)戦略ではパフォーマンスを上げることはできないという首切り宣言を受けたようなものだ。並列処理においてもアルゴリズムの最適化が求められる新たな時代に突入したという感じを受ける。
同社はフォーカスがベクトル演算に定め、リアルタイム処理がお金になる分野(自動運転や細胞観察)においてトップランナーとなっている。その手法は、アプリケーションをまずは分解して、演算子の合計数をどこまで減らせるのかを検討する。つまり、アルゴリズムを最適化する。特に直列数は計算時間に直結するので直列演算の数を減らすことに注力する。
工夫は、それをAIでやってしまえる点にある。だから莫大なRDがかかり、その莫大なRDとスピードが参入障壁の正体になっている。顧客のやりたいことを知ることから始まる。
だからバイオ研究者も社員として必要になる。
顧客にAIを提供するために、自社はもっと進んだAIを作り出し、アプリケーションをしらみつぶしにライブラリー化している。最終的には量子コンの世界に突入していくが、量子コンの世界も最後は資金力の勝負になるだろう。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。万が一、事実と異なる内容により、読者の皆様が損失を被っても筆者および発行者は一切の責任を負いません。また、内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織/団体の見解ではありません。)
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