有料メルマガ・石川臨太郎の「生涯パートナー銘柄の研究」の過去配信ライブラリ「銘柄研究」「コラム」のうち、コラムの一部を掲載いたします。
自立した投資家、石川臨太郎のコンテンツをお楽しみ下さい。
なお、内容は執筆当時の背景に基づいており、現在の状況と必ずしも一致しないことを予めご了承下さい。
=コラム「利益が大きく上がっているときの利益確定の有効性」=
(有料メルマガ第220回・2013/3/26配信号)
※注 2013年3月現在の内容ですので留意下さい。
【前略】
私が株式投資を始めたころに教えを受けた、70歳くらいの老投資家さんがいます。繊維会社の会長で、糸相場で鍛えた相場の達人でした。慶応大学と早稲田大学を卒業した二人の息子の(社長と副社長)3人で、同じ情報を得ながら一緒に株式投資を行っていました。
3人で同じ資金で株式投資をして、どの位増やせるかをゲームのように競ったことがありました。最初の投資元金は2000万円だったと記憶しています。1年ちょっとくらいの間に会長は資金を5000万円近くに増やしましたが、二人の息子たちは2500万円と3000万円くらいまでしか増やせませんでした。
会長に、なぜ息子たちより大きく資産を増やせたのか、その理由を息子たちの前で聞いてみました。会長の答えは『ある程度儲かったら一部は利喰いして利益をポケットに入れておくこと。相場では必ずといってよいほど波乱が起きる。儲かっているときに、その一部を現金に換えて貯めて置かないで、全てを株に投資したままでいると、相場で波乱が起きたときに、ここ一番の勝負どころで恐怖に負けて踏ん張ることが出来ない。しかし着実に利益を現金化して蓄えていると、勝負どころで踏ん張って波乱を乗り切り、利益を増やすことが出来る。相場で利益を上げ続けることは、欲をかきすぎないで適切な利喰いで一部を現金化しておくことだ。』と教えてくれました。
息子たちは『ほんと、じっちゃん(=会長)はコツコツ細かく利喰いをしているよね。分かってはいるけれど、俺たちにはあんなコマねずみみたいなことは出来ないんだよね…。悔しいけれど』と同意していました。
息子たちは、目の前でコツコツ利益の一部を現金に換えていく会長を見ていても、つい欲望に負けて同じことが出来ずに、波乱が起きたときには利益の蓄積がないので踏ん張りが利かないで、恐怖に負けて損切りをして利益を失ってしまっていたのでした。
そんなことを思い出したことと、去年の11月中旬から信じられないほど投資環境が良くなって、私も株式で運用している資産が一気に増え出しました。
妻からは「ここ数年間はいつも最初のころは『今年は儲かってるぞ~』と大口をたたいても、絵に買いた餅ばかりで、実際に株で稼いだ現実の利益(キャッシュに換えた利益)を見たことがない。去年も一昨年も3月くらいまで絶好調と叫んでいながら、東日本大震災やユーロ危機などで、増えたはずの絵に描いた資産増加が消えうせてしまった。動いて消えてしまう幻の利益なんてもういりませんから、儲かったというならその一部でも現金に換えて私にちょうだい。」とキツイ一発をかまされました。
そう言われたときは、まだキプロス問題が起こっていなかったので、私の相場感は『いまは圧倒的に株に資金を投資し続けるべき時期だ』というというものでした。「いつ買うの」「いまでしょう」という感じです。
そのとき、相場名人の老投資家の言葉を思い出しました。投資環境だけ見ていると、去年までがウソのような春爛漫のポカポカ陽気です。『不安と感じることがまったく無い。それが不安材料だ…』ということも相場にはあります。こんなときには、思いもかけなかったリスクが天から降ってくるか、地から湧いて出て、相場の大きな波乱要因になってしまうことが、長い相場経験から考えると、時には起きたことも思い出しました。東日本大震災と原発事故が起きたときのことを思い出せば理解しやすくなると思います。
あまりにも投資環境が良すぎるので、自分の投資のリスク管理を行なっているのが『冷静な自分』なのか『欲に浮かされた感情的な自分』なのか、客観的に自分で把握できなくなっているリスクも感じるようになりました。
そこで、『冷静な自分が相場の管理をしている』ことを確認する手段として、今年増えた資産の3分の一だけでも利益確定して渡すと妻に約束しました。自分が自分の相場観に反しても、その利益のキャッシュ化という方針を実行できるかどうかで自己判断をすることにしました。妻はかなり疑っていましたが、約束したことで自分を追い込みました。
このほかにも、いくつかのこまかい理由(=理屈)を述べると、今年の運用益の好調を感謝して、農民が秋に豊穣を感謝して神に最高の収穫物を捧げるというのと同じこととか、これから災いが起きることが無いように神に供物をささげて願い祈るというような意味あいも合わせて考えました。
自分の『強気すぎる買い意欲』を抑えるために、『冷静さを持ち続けるため』に、あえてキャッシュを増やすという意味もありますし、運用資金を減らしても利益は増える可能性のほうが高いので、少ない投下資金で大きく利益を上げられれば、そのほうが、何か不測の悪い事態が発生したときには冷静な良い判断が出来る。自分のあてにならない相場観とは逆に動く訓練にもなる、というキャッシュ化の効用も考えました。
実際にキャッシュ化が完了したときに、キプロス問題が発生しました。本当に油断は大敵だと感じました。
老投資家の言ったとおりで、利益を現金化してポケットに入れていたので、キプロス問題を知っても冷静に判断して投資行動を取ることができました。つまり、あわてて日本株が大きく下げている日に、少ない利益で利喰いをするような投資行動をしないで、状況を見極めることにして、投資行動は起こさないということが出来ました。
日本の株式市場では、欧米の株式市場以上にキプロス問題の進展しだいで株価が大きく下げたり大きく上げることが交互に起きてきています。この原稿を書いているの前日の3月22日には、日本の株式は大きく下げました。しかし、その夜はキプロス問題の震源地に近いユーロ諸国の株式市場も、あまり下げずにイタリアなどは上げ、米国の株式市場も上昇して終わりました。
2012年(去年)の11月から日本の株式市場は大きく上げて来ていますが、それでも今の日本の多くの企業の株価は、冷静に考えればバブルでは無いと私は確信しています。
日本には、100億円の現金と100億円の設備を持っている上に、毎年5億円の純利益を上げている企業の時価総額(株価×発行済株式総数)が50億しかないような、割安な企業がたくさん有りました。
その企業の株価が数週間で急上昇して、50億から70億になると『今の株価はバブルだ』と叫び出す投資家が出てきたり、そんなことを言う評論家をマスコミなどがテレビや雑誌に担ぎ出してきます。
過去にも書いてきたことですが、株価というのは企業の『実質価値』に投資家の需給という光がさしてできた『影』ですから、需要が供給より大きくなる光が強い状態になれば、あたりまえのことですが影(株価)は大きくなります。
いまの日本の状況は、アベノミクスや円安により急に日本株を買いたいという需要が増えて、やっと影(株価)が大きくなってきた初期の状態にもかかわらず、いままでの小さな影(株価)しか見慣れていなかったので『バブルだ~』としか言えない評論家や投資家がでてくるのは、しょうがないことかもしれません。
太陽の光(需要)を隠す雲(たとえばキプロス問題)がでると光が遮られて、影が小さくなることも、『株価』が『投資家の需給という光』の作った『影』だということから考えれば当然のことで、影を作っている大元の『企業の実質価値』が存在し、臆病ながら買い気が山のように大きな需要(太陽)が存在している限り、雲(キプロス問題などのような不安材料)が投資家の前から薄くなり、光がさすようになれば、影(株価)は直ぐにも大きく戻ります。
そのことを把握しながら、冷静に投資判断をすることが、これからも繰り返し起こる波乱を乗り超えて運用成績を確保する大事なことになると考えています。
多くの投資家が、株式市場で毎日変動する株価が影であることを考えないで投資しています。多くの投資家は『株価』とは『企業の価値そのもの』だと勘違いしているようにも見えます。株価が企業の価値そのものだというのは大きな勘違いだと、くどいくらい強調したいと思います。
企業の本質的価値が毎日変動し、半年で倍になったり二分の一になったりするようなことは、常識で考えてもありえないと思います。たとえば、誰かが本気で、ある企業を買収しようとすれば、株価は吹き上がってしまうと思います。TOBが発表されたら直ぐ株価は上がりますから、これもわかりやすいことだと思います。
もう一度整理をします。私は株価というのは『企業の本質的価値』の影だと考えています。そしてその影を作る光というのは投資家の需給だと思っています。
そう考えると株価が毎日変動するのも、短期間に何倍にもなったり、何分の一にもなったりする理由がよく分かります。いま含み益の大きな土地を大量に持っている土地持ち企業の株価が急上昇していますが、これも企業の資産価値(特に土地の簿価ではなく時価だけで計算したもの)が時価総額の5倍もある企業なら、株価が急に上がって時価総額が直近の3倍(株価が3倍)になっても、まだ実質の資産価値と比べて安いので、バブルではでは無いと思います。
ただ、注意しないといけないのは、株価は影なので、光が射す方向が別の企業のほうに移って、その企業にあたる光が弱くなると影が小さくなってしまう(株価が下げる)ことも起こることです。だから、光がこれから強く射すと思える企業を、光が射す前に見つけ出しておくことも、運用成績を上げるには必要で大事なことです。
『どの企業にこれから需要の光がさしてくるかな…』と考えるのが投資家の大事な仕事です。本命の企業を外してしまうこともありますが、投資家の買い意欲である需要(光の基)が強いので、少し的を外しても、それなりに影が大きくなるので安心なことは安心です。
また繰り返しになりますが、利益が大きく増えてきたら、一部を利喰いして利益を現金で蓄えて置くと、波乱が起きたときに冷静な判断を行い易いことも覚えておいて損のないことだと思います。
これからもキプロス問題や、米国の財政問題や、尖閣列島など日本と近隣諸国との軋轢など、相場を揺さぶる波乱は起きてくると思います。波乱に耐えられる、本当に資産価値と事業力(利益を上げ続ける収益力)も持っている企業を、研究銘柄として取り上げて行きたいと考えています。しかし、株価の上昇がはやすぎて、過去のコラムに書いた研究銘柄候補の株価が上がりすぎ、研究銘柄として取り上げにくくなってしまうことも良く起こるこのごろです。
少し株価は上げているけれど、まだまだ割安だと思える企業も研究銘柄として取り上げていくしかないと感じています。
【後略】
経済的独立ワクワク!サポーター 石川臨太郎
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