「アナリストよ、
歴史家のように記述し、
科学者のように分析し、
芸術家のように共感し、
哲学者のように思考せよ。」


 2015年に東大生と京大生を相手にアナリスト業務について講演したことがありました。その講演内容をメモってくれた東大生のA君がいました。
 8年前のものですが、懐かしく想い紹介します。


■14■DDMの2つの基底は互いに独立ではない


 バリエーションの理解の上で重要なことは、DDMの2つの基底(r-g)とNは、独立ではないことだ。つまり、一方、たとえば、(r-g)が株価を高めるように動くときに、もう一方、配当継続期間Nは短期化する場合と長期化する場合とに分かれる。この2つの基底はお互いに影響を与えている。
 正に相関する場合と負に相関する場合とがある。


■15■基底同士が負の相関 理論株価には「差」しかない


 財務操作全般は、これら2つがトレードオフの関係になる。
 つまり、負の相関となる。配当成長率を高めれば、配当原資は減少し、配当存続期間は短期化する。配当を長期化しようとすれば成長率が犠牲になる。
 いかなる財務操作も2つの基底(r-gとN)は負の相関となるため、自社株買いやROE財務戦略、増配要求など、スチュワードシップでの投資家と会社の対話、アクティビストのやっているほとんどの増配や自社株買いといった要求は株価理論的にはあまり意味をなさない。
 違いは、配当を投資家サイドで運用した方がよいか企業が内部留保を事業に用いた方がよいかの「差」に過ぎない。
 違いを比べるとき、比べるもの同士の間で「差」をとるが、そもそも「差」とは取るにたらないものであり、差の議論は大して重大なものではない。本質的ではない。


■16■基底同士が正の相関 理論株価は指数関数的に動く


 より本質的なものは何か。
 経営や投資家が重視するのは、負の相関に終わる財務戦略ではなく、2つの基底を正の相関に導く魅力ある商品である。企業にそういう商品があるかないかの有無である。
 社会の潜在的な需要に企業は向き合い、新商品が開発される。その商品が圧倒的な支持を持って世の中に受け入れられるとき、DDMの二つの基底は正の相関として動く。商品が売れる。利益となり配当原資が増える。すなわち、配当成長率が高まる。
 同時に、時代の風を受けて売上が伸び、企業は飛躍する。利益の積み上げにより、財務内容が堅牢になり、企業の存続年数は長期化する。

 言葉を換えれば、社会の切実なニーズ、その価値がお金に変えられないものを社会に提供するならば、その期間、企業は継続する。社会の切実なニーズを満たす商品はそのニーズを満たす間は売れる。これら2つの基底が株価を同時に高める方向に同時に動くとき、株価は指数関数的に増大する。
 それは、財務操作が「差」の議論に過ぎず本質的ではないことと比べるなら、こちらは「積」の議論であり、「積」の力とは複利の力であり、100倍の100倍が1万倍になる例のごとく、圧倒的に本質的である。
 社会の要請に完璧な回答が用意できた企業は、それまでとは全く違った株価水準のステージに切り上がる。
 アナリストの仕事は社会の切実なニーズを解決するための商品を評価し、その商品を有する企業を選ぶことである。それがアクティブに企業を選ぶ(アクティブ運用)ということだ。


■17■事業の基盤である組織をどう評価するか。よい製品をつくる主体を見極める


 注意を一点。
 よい商品をつくるのは経営者ではない。
 一般には、個人、特に正社員(たち)が商品をつくるのである。
 時代の風を掴むには、社員間の自由な精神と社員間の強い団結力が必要だ。
 求心力のある経営者、そして、やる気に満ちた社員たち。よい商品を世に出すためには、社員間の英知を結集する必要がある。その意味では、世の中の見ることの中には、商品をつくる土壌分析として、社員の在り方や組織運営の在り方をよく見なければならない。
 企業組織をよく見ること。アナリストがよい目でその組織を見つめることが肝心だ。社員たちが生き生きと楽しそうにしているか。それぞれの能力を遺憾なく発揮しているかどうか。
 昨今、話題になる「ブラック企業」群はアナリストにとって「買い」にならないはずだ。


(つづく)


(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)


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