「アナリストよ、
歴史家のように記述し、
科学者のように分析し、
芸術家のように共感し、
哲学者のように思考せよ。」
2015年に東大生と京大生を相手にアナリスト業務について講演したことがありました。その講演内容をメモってくれた東大生のA君がいました。
8年前のものですが、懐かしく想い紹介します。
■12■株価の理論
さて、準備体操の説明が終わった。ようやく、株の理論のことを述べよう。
まず、バリエーションに触れよう。アナリストが最初に習う理論は、配当割引モデル(DDM)である。
DDM:P=d0*∫[t=0 to t=N]exp{(g-r)t}dt
DDMは、r-gを一組にしたもの、だからr-gをひとつの説明要因と見なせる。後は配当の継続期間によって説明される。
この継続期間をNとする。r-gやNの2つだけを決めれば、DDMによって、理論株価が算出できる。
■13■DDMの普及を阻害するもの
残念なことに、DDMが運用の現場で普及していない。
その理由は、概ね以下のようなものだろう。
時間軸を止めて、t年後の収益や資産であれば予想できる。
だから、t年後の収益や資産と株価を単純に比較すれば、どの株も一斉に比較できる。全銘柄を一斉に比較できるのだ。さぞや山頂からの壮観な眺めであろう。これがPERやPBRと呼ばれる簡易的な株価評価だ。
簡易的ではあるが運用の現場で大いに普及した。DDMよりも便利なものだといえよう。巨大なユニバースに一律に順序が入いるメリットだ。
PERやPBRなどの指標をうまく使い分けるという発想が現場で重視されている。いわゆるユニバースの網羅性によるPER序列は平均への回帰の信仰からであろう。
PERやPBRは株価の「安い」「高い」の「議論の」土台となる。
だが、「安い」「高い」の「理論の」土台にはならない。
PERやPBRはすべての銘柄について算出できる。
だから平均PERや平均PBRが算出できて、銘柄間の比較可能になる。
銘柄間の比較することが運用ならば、それでよい。
だが、PERは理論的ではない。
PERやPBRでの評価プロセスを仕事と思いこんでいる若手アナリストは多い。本来、比べてはならないもの同士を比べて、平均より低いものはいずれ平均へ回帰すると無意識のうちに仮定しているのである。
実際、平均へは回帰しない例外は多数ある。
特定の企業へ雪崩を打つように富の集中が起こるケースは随分あるだろう。
時価総額の上位の顔ぶれを見ればわかるだろう。
そのような富の集中という現象と平均への回帰の現象とは正反対の現象である。多くのアナリストは、アクティブ運用者が目指すべき方向性とかけ離れた正反対の事象を信じているのである。
悪い企業が平均に戻るだけならば株価は数倍になるかもしれない。だが、よい企業に富の集中が起これば数百倍、数千倍という株価になる。
アナリストは常に理論的に正しくあるべきだ。
株の需給を当てることや金融政策でFRB議長が何をいうかを予想するのは運用の仕事の中では傍流にすぎない。優先順位が低い事柄である。
配当割引モデルは理論的である。
PERやPBRといった簡易的な投資指標は理論ではないから不十分である。
PERやPBRは、時間軸を止めたもので、単年度の収益や資産額と株価を単純に比較しただけのものだ。時間を止めることで、すべての銘柄が同一に比較できるという長所がある一方で、企業固有の成長率や存続期間が反映されないという決定的な短所がある。
DDMを用いて、r-gやNについてある程度の目安を考えてみよう。
有限期間の配当を想定し、それに一定の要求利回りを与えてみよう。
その視点では、必ず、公共性の高い事業や社会的な必要性の高い事業、あるいは、自然環境保護や保全に貢献するものや人の命を守る事業などが存続時間において長くなるだろう。
一方、派遣業界やカジノ関連など、法律一本で消滅するかもしれない業界の存続時間については、高い確信が得られないということになる。
両者のバリエーションには、著しい格差が生じるのは道理であろう。
企業がどれだけ存続するか、あるいは、その存続期間における配当の成長性はどうなるのか、それらが運用会社においてアナリストが議論すべきことである。
DDM適用作業について説明しよう。
DDMの説明要因はr-gとNの2つしかない。
アナリストの観察結果によって社会的な様々な要因をr-gとNという2つの要素に振り分けていく。そして、最終的に2つの要素についてそれなりの推定を行えるぐらいの十分な証拠を集める。
証拠を集めたら、DDMを走らせてr-gとNという二つの基底で計算する。
複雑な社会要因を徐々に落とし込み、絞り込むことによって、最終的にこの2つの要素r-gとNとで説明する。
(つづく)
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
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