久しぶりにインタビュー記事をお届けします。
今回は世田谷でイタリアンレストラン「エノテカオルチャ」を経営するオーナーシェフ、富田泰正さんに登場していただきます。
外資系の大手IT企業を59歳で退職後、ご夫婦でイタリアに1年間留学。
ずっとやってみたかったイタリア料理を学び、エノテカオルチャをオープンされました。
その他にもジャズ、太極拳、落語と多彩な趣味を楽しまれている富田さんは、まさに幸せなお金の使い方を実践されているように思えます。
60代、70代に向けてどんな準備をしたことが、自分らしい人生を楽しむ今につながっているのでしょうか。そして、人生における幸せなお金の使い方とは?いっしょに考えてみましょう。
●シリコンバレーのエグゼクティブから感じた自由な生き方と「ファイナンシャル インデペンデンス」
小屋「富田さんと初めてお会いしたのは、外資系の大手IT企業をリタイアされた直後でしたよね。退職金の運用について相談に来てくださったんですが、すでにしっかりとご自身で調べて準備をし、運用されていましたので、いくつか簡単なアドバイスをさせていただいただけでした。その後、奥様のご実家の相続についてコンサルティングさせていただき、お付き合いは10年近くになります。今回の対談で、「幸せなお金の使い方」というテーマを考えたとき、すぐに思い浮かんだのが富田さんだったんです。」
富田「そうなんですか。」
小屋「退職金の相談を受けたとき、富田さんは外資系のエグゼクティブの人たちのリタイア後の人生の楽しみ方を見ていて、自分も同じように自由に生きていきたい、とおっしゃっていたのが印象に残っていました。そして、退職後の富田さんはまさに人生を全力で楽しまれているように見えます。退職後の人生についてどのように考え、準備されてきたのかをお聞きしたいんです。」
富田「なるほど。私は外資系企業に約20年勤めました。アメリカで働く人たちと付き合っていると、日本では考えられないライフスタイルを間近に感じるんですね。たとえば、シリコンバレーのエグゼクティブにはオフィスまでクルマで1時間ほどの丘陵地帯に邸宅と大きな牧場を持ち、馬や牛を飼い、家族と暮らしている人もいました。また、私のいた会社の創業期からのメンバーは、ストックオプションで財をなし、飛行機の免許を取り、セスナを所有し、オフィスに用があるときは隣の州の自宅から飛んでくるんですよ。通信機器業界ではずっと以前からリモートワークが当たり前でしたから。そんな生き方に触れる機会がすぐそばにあって、好きなことのためにお金を使って生きていくのはいいなぁと思っていたんですね。」
小屋「スケールが大きいですね。それで、富田さんの場合は、59歳で退職後にご夫婦で1年ほどイタリアに留学されました。現地で料理を学び、帰国後しばらくしてこちらのお店「エノテカオルチャ」をオープンしたんですよね。
その経緯はこれから詳しくお聞きしたいんですが、まずこうした思い切った選択をしたいと思っても、多くの人はなかなかその一歩が踏み出せません。実際、私のクライアントさんも資産は十分にあるにもかかわらず、心理的なお金のブロックのようなものでやりたい気持ちを押しとどめてしまう方が多いです。その点、富田さんは、お金の心配や不安がなかったのでしょうか?」
富田「アメリカでは、「ファイナンシャル インデペンデンス」という言葉をよく耳にしていました。このぐらいあれば、もうお金のことであくせくしたり不安になったりしない、そのぐらいの資産を築き上げた状態ですね。だから、仕事をしながら自分もそういう状態になれればいいなという意識は常に持っていました。私は外資系の企業を何社か転職しているんですが、そのときも「転職したらこれくらい給料が増えそうだ。そしたら、これくらいは貯金ができるかな」と、必ずシミュレーションしていました。」
小屋「常に資産の状態を意識されていたんですね。」
富田「そうですね。この店を始めるときも、毎月どのくらいの収入があって、どのくらい支出があるのか、皆目見当もつかなかったんですけど、それでもまぁ、自分なりに「客単価はこう」「稼働率はこう」「ロスはこう」と計算していました。もちろん、実際に開業してみたら、なんの役にも立たない数字だったんですけどね(笑)。それでもシミュレーションしてみることが大事なのは、損をしてもこれくらいだろうとわかることです。」
小屋「最大のリスクがわかる。」
富田「そのリスクなら受け止められるとわかれば、動き出すことができるじゃないですか。とはいえ、この店はほとんど一人でやっているわけですから、ローリスク、ローリターン。目的はやっていて自分が楽しめることでしたから。お金ができた人がレストランをやるとなると、普通はいい立地に店を構えて、シェフを雇って……となりますけど、それはハイリスク、ハイリターンですし、そもそも私のやりたいこととは違うので。だから、すごく思い切った選択をしたという感覚でもないんですよ。」
●59歳でイタリア留学。料理学校で学び、レストランで働く
小屋「富田さんは退職後、イタリアに留学するわけですが。いろいろな行き先があるなかで、イタリアを選んだのはどうしてだったんですか?」
富田「20代の後半、会社の仕事でニューヨークに駐在しました。家内も海外生活を楽しんでいて、帰国後はずっと日本での勤務だったんですが、海外旅行にはよく行っていったんですね。特にイタリアは家内も私も好きで、2年に1回ペースで旅していました。会社を辞めるとなったとき、「もう1回、海外に住んでみたいね」「イタリアに1年住んでみようか」という話をしてみたら、家内も二つ返事でした。」
小屋「イタリア料理のお店を開くのはいつ頃からイメージされていたんですか?」
富田「具体的に「いつ」ということはないんですが、旅行でイタリアに行ったときに家内と2人で料理教室に通ってみたり、シチリアのワイナリーを訪ねたり、貴族の方がやっている農園で料理を教わったりしていたんですね。それで、「リタイアしてからやることの1つとして料理があるのかな」という話を家内や友達ともしていて、1年留学する前に一度、フィレンツェへ下見に行ったんです。数ヶ月で料理人としての基礎を教えてくれる料理学校、卒業後に実地で働きながら経験を積める料理店を見学し、住むところの下調べをして。これなら挑戦してみていいかなと留学を決めました。」
小屋「富田さんが料理学校に通っている間、奥様はどう過ごされていたんですか?」
富田「家内はちょうど日本で美大を卒業したばかりだったんですね。」
小屋「社会人入学で?」
富田「そうですね。基礎デザインを学んでいました。それで、美大の先生に「1年、イタリアに行くんです」と伝えたら、「フィレンツェに滞在するなら、昔からある伝統的な製本の技法を学ぶとおもしろいと思うよ」とアドバイスされたそうなんです。」
小屋「じゃあ、富田さんは料理、奥様は伝統工芸を学んだわけですね。」
富田「結局、フィレンツェでは適当な学校がなくて、家内はミラノまで通っていました。フィレンツェとミラノ間は特急で1時間半。東京と名古屋みたいな距離感です。」
小屋「富田さんが通われていた料理学校の生徒は、若い人が中心なんですか?」
富田「そうです。私は圧倒的に年上の新入生でしたね。」
小屋「ちなみに、授業はイタリア語ですよね?」
富田「そうですね。私は20年前に初めてイタリア行ったとき、2週間語学学校に通ったんですよ。その間にほんのちょっぴりはね、覚えて帰ってきて。イタリア語は面白いなぁと思って、それからは日本で、仕事帰りに語学学校に行ってゆっくり学び続けてはいたんですね。だから、基礎的なベースはありました。もちろん、流暢に話せるわけではありませんよ。」
小屋「料理学校ではどんなことを学ばれたんですか?」
富田「数ヶ月でプロとしての料理の基本を丁寧に教えてくれます。その料理学校はフィレンツェのたくさんのレストランのオーナーやシェフとつながりがあって、卒業後、ほとんどの生徒は紹介で働きに行きます。私もワインのクラスの講師に来てくれていた、あるレストランのオーナーに「行きたいんですけど?」と聞いたら、「いいよー」と。すごく軽いノリでOKが出て。4ヶ月間、働かせてもらいました。」
小屋「そこでお店をやるノウハウを学んだ感じですか?」
富田「厨房にも立たせてもらい、パスタやピザの調理はもちろん、食材の仕入れ、保存の仕方、メニューの作り方など、すごく勉強になりました。年齢を気にせず、自由にやらせてもらえたのは大きかったですね。店舗の運営面でも、もろもろの費用がどのくらいかかるのか、オペレーションはどうやっているのかなどを知ることができて、具体的にお店をやっていくイメージが持てました。」
(つづく)
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
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