「PBR1倍割れは経営の怠慢である」という主張に同意しかねる経営者は多いと思います。
PBRは簿価ベースのBPS(一株純資産)と株価との対比ですので、簿価がどうなっているのかは企業ごとに違うわけですから。1990年に起業した会社はデフレで資産価値が棄損しているでしょうし、1900年に起業しそのまま土地を洗い替えしていないような会社ならば実質的な資産価値は簿価を超えるでしょう。
同時に、そうしたことと無関係に「PBR1倍割れはけしからん」と言わざるをえない東証の立場もよくわかるのです。
東証も苦しいのです。
なぜならば彼らはインデックスの付加価値の底上げをしたいわけですね。
1年ちょっと前にプライム市場をつくったものの、東証1部とあまり顔ぶれが変わらなかった。
中途半端な市場を新しく作ってしまっただけだったのではないか?
そのような外部の批判にさらされたのです。
そこで東証は上場先にPBR1倍を上回る政策を要請したわけです。
現金が余っている企業は、まずはROE(1株利益÷BPS)を向上させようとする。
ROEとPBRとは相関が高いのです。
まずは配当を増やし、自社株買いをしてBPSが増えないようにする。
できればBPSは減らしてROEを高めたい。
それができる企業にはそれをしてもらいたい。
だが、財務戦略だけでは限界があるのです。
より本質的には事業の収益性を高める必要があるのです。
上場企業の中には、不採算事業を祖業だからといって長年続けてきた企業も多数あります。
こうした不採算事業についていよいよ決断のときがきた。
各社のシェアの低い不採算事業をもっともシェアの高い企業へ寄せ集めることはできないものか。投資家はそう考えています。
こうした思い切った事業譲渡が生じ始めると市場が活性化するでしょう。
さて、資産価値とは何でしょう。
実は同じ資産内容でも事業内容が違うと資産価値は変わってくるのです。
同じプレス機でプレスをするのでも、A社は宇宙や防衛関連向けで付加価値が高い。B社は自動車関連向けなら付加価値は低くなってしまうという。
材料を溶かす炉についても同様。
同じ炉でも、C社は光学部品で付加価値が高いが、D社は住宅向けガラスで価値が低い。
以上の例は、たとえ簿価は同じでも、時価はまったく違うことを示唆しています。
半導体製造装置はかつて、状況のよいときと悪いときでは値段に3倍ぐらいの差がついていました。だから不況のときに設備投資ができる体力がある方がよいし、不況のときに設備投資を決断できる経営者は少ない。だからそういう経営には高い評価は与えられます。
簿価ベースのPBRの1倍というのは時価ベースの価値とは違うわけですね。
そうであっても、時価ベースの価値は株価に影響を与えます。
その時価ベースの価値は事業の成長性や収益性に依存します。
大本は事業の収益性と成長性。それが改善されると株価は自然に上がります。
結局のところ、今回の東証改革は、収益改善や不採算事業の縮小というところへたどり着くはずなわけで、日本株全体にとっての追い風になるのは間違いないのではないか考えています。
当面、バリュー投資家にとって、活躍の機会が多い相場が続くのではないかと思います。
(NPO法人イノベーターズ・フォーラム理事 山本 潤)
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