億近読者のみなさんこんにちは。金融教育論を提供しております遠藤です。
今回はスキルのお話です。
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」では5年で1兆円の人への投資が掲げられています。構造的な賃上げを図ろうという試みです。これは理にかなった政策です。スキルが上がれば、仕事の量or質、あるいは両方が上がるため、当然収入が増えることが想像できるからです。
例えば1人で10人のお客さんをさばいていた人材が、ITのスキルを身につけ1,000人の顧客の対応ができるようになったとしたら、給与は上がってしかるべきです。もし、収益が上がっているのに会社が賃上げをケチケチし
ていたら、そのITスキルを身につけた従業員が可哀想でなりません。
たまたまその年の業績が良かっただけなら賞与で還元するのが筋ですが、業務の構造変化によって収益増になったのであれば、もう過去の構造(1人で10人対応の体制)には戻らないので、安心して賃上げができるはずです。
もちろん、スキルを上げていない他の人材の賃上げまでする必要はありません。ベアのように全体を上げようとするから、尖った人材への還元が十分にできず、理不尽が不満を巻き起こすのです。
このように結果によっての差をつけないと「頑張らない方が得」という思考になります。もらえる給与に個人ごとの大差がないなら、「努力」という「支出」を削減することが合理的だからです。50万円もらって、100の仕事をするなら、40万円でいいから仕事量を50に減らした方が得なのです。
私は「賃上げ」という言葉にいつも違和感を感じていました。経営者の立場で考えるなら、「従業員のやっている仕事が同じなのに賃上げなんてできるわけがないじゃないか」と思っていたからです。
しかし、労働者の立場なら、たとえ同じ仕事の繰り返しであったとしても、会社にいわれた仕事を文句もいわずに継続しているのだから、「信頼」というプレミアムを加味して、年に1度、多少の賃上げをしてほしいと考えると思い
ます。
経営者は信頼プレミアム程度の定期昇給は、やったほうがいいということです。極論、時給が年に10円上がるだけでも少しは承認欲求が満たされます。
ただ、信頼プレミアムの昇給だけでは、インフレに対応できませんし、
生活水準を上げられません。家族増にも追いつきません。
だから、しっかりと階段をかけ上がるような賃上げを目指すなら、リスキリングが必要だということです。仕事が高度化すれば、賃上げが期待できます。
今日本で徐々に進んでいる「ジョブ型」の雇用はリスキリングと相性が良いです。逆に「総合職」的なざっくりとした雇用はリスキリングに不向きです。
例えば、ある社員が語学力を身につけたとしても、必ず語学が生かせる部署で働けるとは限りません。会社にその業務の席がなければ配置できないからです。
以前、英語ができる社員を、だれでもできる事務部署に配置した途端、一瞬で辞めてしまったという事例を聞いたことがあります。これでは社員も会社もアンハッピーです。
ジョブ型であれば、「自分は英語ができる社員である」という看板を引っ提げて、英語が生かせる仕事探しができます。ジョブ型ですから、一生その会社に勤めるわけではないという前提で、ある意味気楽に職を探せます。
昇給を祈る必要はなく、スキルを上げて勤め先を移ることでステップアップができます。尖った人材はどんどん尖れます。自己責任度合いが強いですが、その分結果を受け入れやすいでしょう。
会社側も、人材のスキルと自社の業務内容をパズルのピースのように合わせる形で合理的な採用ができます。総合職に求めるようなオールマイティーを探す必要はありません。
今回のお話を子供の金融教育に関連づけます。
実はリスキリングの考え方と会社のBS、PLの考え方は似ています。
会社は収益を上げるためにBSに「仕入れ」をします。流動資産、固定資産、どちらも収益のために仕入れています。社長の趣味ではありません。
人は学生時代は収益を生み出す必要がないので、ひたすら「仕入れ」に集中できます。これは、リスキリングではなく、スキリングです。
会社でいえば、ベンチャーキャピタルに当面の運転資金を入れてもらった状態と似ています。収益度外視で研究開発を進められる状態ということです。
いつかは稼ぎ始めなければいけない点も似ています。学生時代にBSに固定資産をたくさん仕入れられた人は、社会人になってから稼げるでしょう。しかも、人の固定資産に固定資産税はかかりません。BSに固定資産は詰め放題で
す。
保護者というベンチャーキャピタルがどんどん投資をしてくれる学生時代に、スキリングをしないなんてもったいないです。
私たち大人は子供たちにいいます。
「将来のために勉強しておけ」と。
ただ、この言葉は心に響きません。「うるせぇ」と言われることもあります。一見回り道に見えますが、株式投資の勉強をして、BSの仕組みを知ることが、学ぶ意味を腹落ち理解する近道かもしれません。
(遠藤)
[遠藤 功二氏 プロフィール]
日本FP協会認定CFP
1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
MBA(経営学修士)
大学時代に借金に追われた経験からFPの資格を取得し、金融機関に就職。
証券会社と外資系銀行で延べ1,000人以上の顧客を資産運用アドバイザーとして担当した経験上、日本には金融教育が足りていないことを確信する。
自己責任が求められる社会で、子供たちが自立して生きていけるよう、お金の教育講座を実施している。子育て世代の親たちと子供たちに、金融の知識を届けるため教育特化のFPとして奔走中。
子育て世代のための金融教育サービスFP君
web:https://fpkun.com
メッセージ:koji.endo@fpkun.com
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