産業新潮
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7月号連載記事


■その24 日本型経営は「人間社会の進歩の結果」

●アナログはデジタルの進化形である。


 例えば読者が「アナログ人間」とだれかに言われたとしよう。それをほめ言葉だと受け取るケースはほとんど無いであろう。大概の場合、「あなたはデジタルが分からない旧式の人間だ」と侮辱されたと思うに違いない。

 つまり、現在の世の中では、デジタルがアナログよりもすぐれており、アナログがデジタルに進化していくように思われているということだ。しかし、それはまったくの間違いであり。正反対なのだ。

 生物進化の一つの完成形と考えられる読者の体を使って確かめてみたい。

1.読者の両腕を左右に広げる。
2.前を向いたまま左右の手の指先を、それぞれ目の端でとらえる努力をする。

 すると、ほぼ手を180度広げた状態でも、左右それぞれの目の端で指先を見ることができるはずである。

 つまり、人間の「物理的(デジタル)視野」は、左右180度もあり、眼球にはその情景がすべて写っているのだ。

 しかし、この文章を読んでいる読者の視野はせいぜい数十度の範囲に限られる。なぜかと言えば、パソコンで180度の範囲から入ってくる4kなどよりもはるかに高精細な動画を処理するとどうなるかを考えればすぐにわかる。
 デジタル処理が追いつかずに、パソコンがフリーズするはずだ。
 だから、人間の脳は。視覚細胞からやってくる一種のデジタルである、明暗・色彩などの情報を、脳内で再構成するときに、(デジタル情報を取捨選択する)アナログ的手法で処理するよう進化したのである。


●デジタルとアナログは使い分けるべき

 錯視効果を使ったトリックアートを見かけることがよくある。同じ背の高さの人物なのに背景の壁の色や模様の違いなどによって、身長が異なるように見えたり、同じ長さの横線なのに、端につける「矢」の向きによって長さが異なったりするように見える現象だ。
 この錯視は人間の目の不完全性のようにとりあげられるが、前述の莫大な情報処理を避けるために、定型化されたことは脳が「推測」するために起こる現象である。この「推測」のおかげですべてのデジタル情報を処理することから解放されるのだ。

 手品も、「人間が興味を持つものに視野を集中し、関心を持たないものは目に映っていても見えない」現象を利用している。確かに、手品のトリックの種明かしにアナログ的な脳の機能は不便だが、180度の視野の動画をすべてデジタル処理していたら、人類は「高度な思考」を行うことなど到底できず、入ってくる動画の処理に追われる原始的生物のままであったはずだ。


●信頼はデジタル化できない

 読者が使っているパソコンやスマホは、他の端末やホストコンピューターなどと接続されているが、お互いを「信頼」しているであろうか?
 少なくとも現在はそんなことはあり得ない。情報端末は、人間がつくったコンピュータプログラムによって、人間が命令した通りに動く。ハッキングで所有者の意志とは無関係に動くときもあるが、その時もハッキングするのは人間である。

 欧米流のオープンな経営には良い面もあるが、欠点も少なくない。例えば、オープンにすれば、好ましからざる「侵入者」が入り込む可能性も高まる。

 特に米国では、その傾向が強く、「侵入者」に対しての防御としての「契約書」が重要となる。場合によっては電話帳ほどの厚さになるから、その契約書を作成・チェックするための弁護士が繁栄する。また、万が一の場合、裁判を起こす時も、長い年月がかかり巨額な費用を弁護士に支払う必要がある。

 つまり、オープンなデジタル戦略をとることによって、実は膨大な無駄が生じているのである。

 それに対して「日本型経営」は、相互の信頼によって、握手一つで物事を合理的に進めることができる極めて生産性が高い手段だ。ただし、「握手一つで取引できる」信頼関係の構築・維持には、長い年月と多くの労力が必要となる。

 どちらにも一長一短があるが、現在の日本の経営は、欧米流・デジタル型に傾きすぎているから、日本流・アナログ型経営にもっと注目すべきである。


<続く>

続きは「産業新潮」
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7月号をご参照ください。


(大原 浩)


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