今年は既に12の銘柄がIPOを果たしている。2月は昨年と同じ7銘柄だったが、3月は既に5銘柄が上場してきた。3月のIPOは昨年の13銘柄に対して3銘柄の上場承認取り消しもあり8銘柄と減少する。
需給悪が続くこの時期に上場できる企業はある意味凄いのかも知れないが、昨年末以降の需給悪の中で短期投資家は敢えてIPO銘柄を投資対象とはしたがらないのがネックでもある。
IPO銘柄の魅力は安い公開価格で手に入れてその何倍にもなろうかという初値で売ることがまず最初の魅力。また初値で投資してその後短期で株価が上昇しリターンを上げることができる好需給を背景にしたセカンダリー投資が2番目の魅力となる。
かつてのソフトバンクやファーストリテイリングなどと同様にIPO後の企業成長を楽しめる可能性のある意気軒高な経営者との出会いが投資家にとっては魅力でもある。
未来のことは誰しもわからないが、企業の成長スタンスを理解しリスクマネーを投じる幅広い投資家が存在してこそ日本の株式市場は健全な姿を維持することになる。つまり株価の低迷局面こそ本来の投資家の真骨頂が発揮されることになる訳で現在はそうした局面にあると言えそうだ。
IPO銘柄投資にはリスクを伴う。一定の審査を経てIPOにこぎつけた企業とは言え、過去が良くても未来に存続できるのか、成長ができるのかは見通すことはなかなかできない。目先の利益成長を犠牲にして先行投資を行う場合は評価の基盤となる利益が削られてしまい短期投資家には物足らないと感じら
れる場合も多い。先行投資がどの程度未来の利益につながるのかは経営者の裁量に委ねられるためで投資家にその真意は伝わらない。
IPOが契機となり飛躍的な成長につながるケースも多い筈だが投資家はその中長期の成長に期待して投資することになる。ただ、果たしてどのぐらい長期投資家がIPO市場に集っているのかは分からない。むしろ株価の短期上
昇に期待して集まっていることが実態だろう。
IPO銘柄投資への高いリスクを覚悟しながらも投資家が短期的な株価の変動につながらず多くのIPO銘柄の上場後の株価低迷が目につく中で投資家の気迷い状態が継続している。
今年の12銘柄のうち初値が公開価格を上回ったのは8銘柄。これを多いと見るか少ないと見るかは投資家各位の見方にもよるが、一方で下回ったのは4銘柄でこれは過去の経験から多いと判断される。ただ、この程度は現在の需給の下では許容される水準かも知れません。
また時価が公開価格を下回っているのが5銘柄。更に時価が初値を下回っているのが8銘柄となっており、これまでのところIPO銘柄投資によりリターンを上げるのは難しい状況にある。
それでも株価の変動を狙っての短期資金は流入しやすく大きく調整した後に反転上昇するケースも見られ、今後の展開に注目されているIPO銘柄ファンの方も多いのかも知れません。
かつてのようなPER30倍から50倍という評価ではなくIPO後に既にPERが10倍前後まで落ちている銘柄もあり、企業の内容や成長期待度により投資家の評価は異なるが明らかに割安感が出てきたという印象の銘柄もあり、主力銘柄に関心が集まる中でリスクマネーがどこかのタイミングでIPO銘柄に戻ることも想定しておきたい。
IPOした企業の関係者からは上場後の株価低迷について様々な意見が飛び
っていると見られるが、ある企業の関係者からは上場して株価は低迷しているが、あの時期に上場しておいて良かったとのポジティブなコメントを頂いた。このところはIPOを取りやめする企業も多く、今後の成長が明確になれば株価はまた評価されるとの意見だった。
企業は株価の低迷、とりわけ公開価格を割れたままの状況を放置するとは思えず、何らかの施策、IR対応で評価を高めると株価の低迷時に投資した投資家には意外なリターンがもたらされることになる。
こうしたIPO銘柄への考え方を前提に直近の12銘柄を吟味してみると良いだろう。
本日はその中で3月2日にIPOを果たしたパソナ系のビーウィズ(9216)についてチェックしてみたい。
●ビーウィズ(9216・東証1部・3月2日IPO)
【ビジネス内容】
自社開発のクラウド型PBX「Omnia LINK」等のデジタル技術を活用したコンタクトセンター・BPOサービスの提供、および各種AI・DXソリューションの開発・販売。
IPO前にパソナが92%の株式を保有。
幹事証券はみずほ証券。
2017年以降の業績は順調拡大(当期利益は2017年の53百万円⇒2018年6億75百万円⇒2019年6億91百万円⇒2020年9億28百万円⇒2021年16億55百万円と順調な伸び)。
パソナとの親子上場。
同社の公開価格は下限価格の1400円で決定し東証1部上場で公開株数が609.5万株と多かったため上場前から消化が危ぶまれた。結果として初値は1320円と公開価格を5.7%下回ることとなった。
その後、3月4日に安値1225円をつけたが、これをボトムにこのところは小幅反転上昇の動きにある。
(時価1338円)
公開株数がやや多すぎた結果でもあるが、短期投資家の見切り売りで上場後株価は調整を余儀なくされたが、徐々に見直しの動きとなってきた。
同社のビジネスは以下の通り。
ストック型で長期取引先からの継続的な収益が見込まれるコンタクトセンターやBPO市場が堅調に推移していると見込まれる中で今5月期の売上高が前期比12.6%増の324億73百万円、営業利益は同20.1%増の25億60百万円、経常利益も同17.5%増の25億45百万円EPS122円(予想配当金42.76円)を見込んでいる。
11月中間期までの業績としては売上高157億90百万円(進捗率48.6%)、経常利益12億98百万円(同51%)、EPS66.3円を達成。4月4日からはプライム市場への移行を予定している。
ROEは前々期が34%、前期は45.8%と高水準。今期は約40%と高水準が続く見通し。つまり少ない資本で効率よく利益を稼ぐ力を持つ企業と言える。ROE10%以下の企業が圧倒的に多い中で、異色の高ROE東証1部(プライム市場)銘柄として本来なら注目されても良い筈だが、なかなか評価は高まってこない。
親会社のパソナグループ(2168・東証1部・時価2427円)の株価は1000円割れから昨年11月高値3860円まで急騰した後、直近安値まで39%の下落が見られたが、このところ、ようやく反転しつつある。同社に限らずグループ企業の株式を公開させる動きもあり、4月12日には持ち分法会社のサークレイス(5029)のIPOを予定するなど積極的な動きが見られる。
同社はこの親会社であるパソナグループ(今期予想PER10.3倍・時価総額1011億円)に準じた評価がなされているとも言える。同社の時価は親会社と同じPER11倍の水準。配当利回りは3.2%の水準でパソナグループの1.2%と比べると高い。
この点は唯一ポジティブだが、基調としては今後もパソナグループと連動した展開が想定される。
(炎)
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