産業新潮
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8月号連載記事


■その15 「信用」が富の源泉である

●交換は人類を豊かにした


 「人類とサルの違いは何か?」という疑問を子供の頃から持っていたが、いまだにその回答を明確に得ることができないでいる。

 巷では、「サルが人間に進化した」ということがよく言われるがこれはまったくの間違いである。正確には、「人類とサルの祖先が同じで、途中で進化の道筋が分かれた」のだ。
 脊椎動物である両生類から哺乳類が分岐したと考えられる2億年ほど前に比べれば、ヒトや類人猿が「旧世界ザル(オナガザル上科)」から分岐したのは3000万~2500万年前とされているから、最近のことである。

 しかし、このような生物学的な考察よりも、人類を人類たらしめているのはその「文化」「文明」である。

 今のところ、人類最古の遺跡はトルコ(アナトリア南東部)のギョベクリ・テペで、紀元前1万年から建設が始まったと推定される。上下エジプトが統一されて王国が誕生した紀元前3000年頃のはるか前である。

 一体、この人類の歴史で「交換」がいつ始ったのかは定かではないが、サルなどの動物は、簡単な交換を行うのでかなり昔にさかのぼることは間違いないであろう。また、動物の「交換行為」は、ノミをとってくれた相手のノミをとってあげるなどの極めて限定時なものだが、人類の交換行為は複雑・多岐にわたる。


●わらしべ長者

 「交換」が富を生むことは「わらしべ長者」の物語ですぐにわかる。
 「今昔物語集」「宇治拾遺物語」に原型が見られるが、観音様に願掛したことから1本の藁しべを授かった男が,アブを捕らえて藁しべにしばり,旅をするうちにこれを順次高価な物と交換,ついに長者になる昔話である。
 ブータン、朝鮮、英国を始め、世界中に似たような話があるから「交換」の威力はグローバルに知れ渡っているといえよう。


●人類は交換に時差を設けることによってさらに発展した

 欧州の大航海時代に、交易でひと財産築いた人々が多かったが、このような交易は「貨幣による支払い先送り効果」によって後押しされた。

 もちろん、交易そのものは、古代より物々交換でも行われていた。その場合は、船で他国まで出かけ、現地で、例えばアンフォラという巨大なワイン壺と手の込んだ装飾品を目の前で交換するスタイルである。この取引に時差は無い。

 しかし、大航海時代には、船そのものや積み荷を調達するために資金を出資する投資家(資本家)が不可欠であった。無事戻ってくれば多額の利益を得ることができるが、難破したりすれば、すべてが文字通り海の藻屑と消え去ってしまうので、資本を持った人々が資金を出し合いそのリスクを分散したのだ。

 そして、その資本家たちは、資金を提供したその場で何かをお返しをしてもらうわけでは無い。もし見返りを得ることができたとしても数カ月、数年先の話であり、場合によっては何も受け取れないかもしれない、しかし、このような「交換の先送り」が社会的に受け入れられたからこそ、人類の経済、さらには文明が発展したのだ。

 交換の先送りはもちろん「投資」に限らず、貨幣を媒介とした取引全般で日常的に行われている。

 例えば、山の村に住む人々が鹿の肉の大きな塊を担いで海の村にやってきたとする。海の村では、鹿の肉は大変な御馳走だから村人たちはぜひとも手に入れたい。ところが、ここのところ悪天候がつづき漁に出られなかったので、手持ちの魚は干したものが三匹だけだ。これでは、シカ肉の塊のごく一部としか交換できない。もちろん、山の村の人々も、せっかく運んできた鹿肉を持って帰ることはしたくない。

 そこで、海の村の村長が「豊漁の時に魚を30匹届ける」という約束をすることを申し出る。山の村の村長がこの申し出を「信用」すれば取引が成立するが、「信用できない」場合は破談となる。

 貨幣論では、「貨幣が交換を円滑化」する側面ばかりが強調されるが、実は「貨幣の本質は信用」にあるのである。

 要するに、子安貝、石、紙きれ、電子マネー等などが通用するのは「現在自分が受け取るべきものが、将来別の形で自分に与えられる」と信用するからであって、目に見える貨幣そのものが何か価値を持つわけでは無い。
 よく言われるように、1万円札の製造コストは20円ほどにしか過ぎない。


<続く>

続きは「産業新潮」
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8月号をご参照ください。


(大原 浩)


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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)