産業新潮
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3月号連載記事
■その10 ドラッカーはすぐれた【傍観者】である
●傍観者の時代
経営者やビジネスマンで、ピータ―・F・ドラッカーの名前を知らないものはいないだろう。大学教授でもあったが、若いころ『経済人の終わり』というナチス・ドイツやヒットラーを批判する本(英国の宰相ウィンストン・チャーチルにも称賛された)を発行したため、母国オーストリアから離れざるをえなくなり、その後ファンド・マネージャーや記者などを経験しながら、最終的に米国でコンサルタントとして活躍する。
大きな転機は、GM中興の祖と呼ばれるアルフレッド・スローンからのコンサルティング依頼を受けたときだ。当時はまだ「マネジメント」という概念がほとんどなく(ドラッカーが確立したといえる)、手探り状態だったのだが、「生きて活動している企業」と最初に格闘した上で理論を確立したのがドラッカーのすぐれた点である。「机上の役に立たない空論の上にさらに砂上の楼閣を組み立てる」一般の経済学者とは比べ物にならない。
だから、ドラッカーの現場での実践の中核である「マネジメント」等の著作が代表作としてあげられるのも当然である。しかし、私は最重要著作として
「傍観者の時代」をあげたい。
ドラッカーの自伝的要素が強い著作だが、彼がどのようにビジネスや社会を「観察」・分析し、理論構築をしていったのかが手にとるようにわかる。
私は、ドラッカーのいう「傍観者」というのはやや謙遜した表現で、「観察者」というのが正しい表現だと考える。「研究者」と言い換えても良いが、この場合の「研究者」とは、紙と鉛筆だけで仕事をする理論物理学者や、実験室に閉じこもって顕微鏡を見つめる学者を意味しない。例えば動物の生態を日々の接触を含めて観察する動物学者や、ファーブルのように野原を駆け巡って昆虫の生態に迫る人々である。
●人間は数式では表せない
最近はスーパーコンピュータの精度が上がり、気象データの解析も進化しているので、天気予報もそれなりに当たるようになった。「下駄を蹴り上げたほうがましだ」といわれた時代から比べれば隔世の感がある。そのため、市場や経済をコンピュータで予測しようとする試みが活発化しているが、その試みは成功しないはずである。
理由は簡単だ。「天候は天気予報を見ないが、人間は市場(経済)予測を見て行動する」からである。
台風や津波は気象庁をはじめとする予測機関がどのような予想をしようと、それに影響されることは無い。だから、「複雑系」ではあるにしても、予測が不可能とは言い切れない。
しかし、人間の経済・社会活動には「予測」に対応することも含まれる。だから、予想をしたことが、新たに人間の社会・経済活動に影響し、さらにそれを基にした予想が影響を与えるという無限連鎖が続く。
例えば、明日雨が降るでしょうという予想は、雨が降る確率に影響を与えないが、その日の傘を買う人々の行動には影響を与えるだろう。また、A社の株価が下がるでしょうという予想が、A社の株価をさらに下げるかもしれない。
結局、「予想が結果に影響を与える」から、計算式による予想は意味を失う
のである。これは、まるで「観測が結果に影響を与える=観測するまで物質の
存在が確定しない」素粒子の世界のようである・・・
<続く>
続きは「産業新潮」
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3月号をご参照ください。
(大原 浩)
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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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