今回も、老子の第80章を題材に、投資の本質へ迫ってみます。

※AFPBBニューズブログ「大原浩の金融・経済地動説」の2008年2月8日の日記、(<老子と投資>その1)http://www.actiblog.com/ohara/52816 を先にご覧になることをお勧めします。

80、少国寡民、什伯(じゅうはく)の器有るも而(しか)も用いざらしめ、民をして死を重んじて而(しか)して遠くうつざらしめれば、舟輿(しゅうよ)有りと雖(いえど)も、これに乗るところ無く、甲兵有りと雖(いえど)も、これを陳(つら)ぬる所、無からん。

○理想的な国とは人間の数が少なく、人々が余分なたくらみをしないところである。
○ベネチア、シンガポールなどがそれに近い国だろう。

 何事も、図体が大きければいいというわけではありません。規模の拡大は、質が伴ってこそ意味があるものです。

 例えば、関連会社従業員の家族まで含めれば数十万人、数百万人を養わなければならない電機メーカー…儲かっているうちは規模のメリットを享受することができるかもしれませんが、規模が大きいということは、削減することが難しい「固定費」が多いのだとも言えます。

 「赤字」に直面したとき、規模の大きさは耐え難い苦痛に変化します。莫大な金額が収益を生まない「固定費」として垂れ流されるのはもちろんのこと、事業の方向転換をするときにも図体の大きさはマイナスです。

 小規模な企業であればネズミのように一瞬にして進路を変えることができますが、象にとっては簡単なことではありません。

 日本の技術の粋を集めた「戦艦大和」は、巨大な船体が爆撃機の格好の標的となり、素晴らしい能力を発揮する間も無く撃沈されました。

 たしかに、企業投資においては、「安定性」のためある程度の企業規模が必要です。しかし、一番大事なのは「利益」であって、充分な利益を生まない規模はむしろマイナスです。

 日本の隣の人口13億人を超える国は、これまでその規模の大きさが評価されてきましたが、驚異的な成長が鈍化した今、むしろ規模の大きさはマイナス要因です。

 経済成長率などを見る限り、それほど深刻では無いとの意見もありますが、「レーザー照射」、「餃子事件」などに関する発言を見る限り、この国の政府が発表することに真実が少ないことは明らかです。

 実際、比較的数字の操作が少ないとされる、「電力使用量」の統計では、今年に入ってからかなりの落ち込みが見られます。

 隣国でビジネスを行う友人は「現地に来れば、この国が大丈夫なことがわかりますよ」といいます。もちろん、現地の生の情報は重要でしょうし、それを無視するわけではありません。

 しかし例えば、5年前、10年前に大手電機メーカーの従業員の方々が、自社における現在の危機を予想していたでしょうか?

 彼らが、象の細胞の一部だとしたら、象がこれからどこに行こうとしているのかわかるはずがありません。むしろ、当事者では無いハンターの方が、象の動きを的確に予想できるはずです。

 13億人の人口を抱える国でも一緒です。現地に行って、一部を見ても全体の動きはわかりませんし、大部分の人々は国の将来がどうなるかわからないで生活しているのです。

 この国の将来を予想するには、離れた場所から全体を見渡すことが大事です。そして、全体を見渡す限り、半島情勢も含めて、きわめて厳しい状況に追い込まれているのは明白です。

 また、少数精鋭こそが発展のカギです。かつてのベネチア、現代のシンガポール。シンガポールの場合は、特に優れたリーダー(客家のリー・クワンユー)に恵まれたこともありますが、規模が小さいからこそ、一人当たりGDPでは、日本を追い抜くとても豊かな国になりました。

 もちろん、優れたリーダーや国家の将来に対する国民の信頼が厚く、共産党の幹部のように「汚職で蓄財したら、さっさと海外に亡命しよう」などと微塵も思わなかったことも、シンガポールの発展に貢献しました。

(OH)

*ブログ「大原浩の金融・経済地動説」http://www.actiblog.com/ohara/

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