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セラミックス:日本が誇る職人芸の世界6

2020/06/03 12:31 投稿

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【ディーゼルエンジン用パティキュレートフィルター:DPF】


 エンジンの排ガス規制が進む状況下、2000年に入り東京都の石原都知事によるディーゼルエンジンのススが問題との提言もあり、日本の規制強化が進み出し、海外に於いてもPM対策が取られるようになった。

 対策としてはススであるパティキュレートを特殊なフィルターを通して捕獲・燃焼させる仕組み。
 ガソリン車に搭載される触媒用フィルター(ハニカム)では入口から入った排ガスは内部の触媒金属で酸化または還元され、ガスはそのまま通り抜け排出される。だがディーゼル用フィルターでは捕獲が必要なため、一つの穴から入った排ガスは内部の壁を通過し隣り合わせの穴を通して排出される仕組みだ。

 フィルターは一つ一つの穴を交互に目封じた構造で、パティキュレートは壁に残り、ガスは壁を通り抜ける一種の濾過作用で、通過出来ないパティキュレートはある程度溜まった段階で、燃料を噴射(増量)させ熱い排気ガスを吹きかけることで燃焼させる仕組み。

 通常走行に於けるガソリン車両の排気温度600~900度Cと比較して、ディーゼル車両は100~700度Cと低い。一般にDPF単体の場合は500~600度C、DPFに触媒を搭載した場合で300度C以上の排ガス温度がないとPMは燃焼せず、渋滞時のアイドリングやトラックの様に高速道を一定速度でゆっくり走行する時には排ガス温度がPM燃焼温度まで上昇しない。
 つまり排ガスをクリーンにするため仕方なく燃費を犠牲にさせている訳だ。どの程度悪化させているかは定かでなかったが、SMBC証券会社で開催された元技術者によるセミナーでは10%程度の悪化と発言されていた。

 一つの穴の貫通せず片面が目封じとなっている構造上、ガソリン車用ハニカム(フィルター)より圧力損失が大きく、PM堆積が一定水準を超えると排ガスが通過し難くなりエンジンは停止する。

 こうしたディーゼル車両の特性を考慮し2つの材料が検討され、SiCとハニカム同様にコージェライトが選択された。
 SiCは高温に強いためPMの堆積限界が高く一気にまとめて燃焼させることが可能で燃費面では有利だが、排ガスに対する抵抗が高く、熱膨張率も高いため大型のフィルターには使えない。そこで考え出されたのが構造を何分割した状態で製造して接着するやり方だ。
 トラックよりより短い距離で加減速を繰り返し、熱負荷の大きい乗用車にはSiCを使い、一定速度で長距離走行が多く熱負荷の少ないトラックには主にコージェライトが用いられるようになった。


[SiC-DPF]

 SiCは炭素と珪素の化合物で、天然物としては存在せず宇宙から飛来する隕石に一部含まれている程度。
 19世紀以来、工業的な製法は黒鉛の粉の上下に珪石、コークスを重ね、電極に電圧をかけて黒鉛が発熱することでSiCに。耐熱性、熱安定性、熱伝導率とも高いのが特徴。極めて高い安定な化合物だが、難焼結材料であり単独で焼結するには2,000度C以上の高温焼成が必要。
 大気中では850度C以上で酸化が始まるため非酸化性雰囲気で焼成する必要がある。

 SiCの基本的な結晶構造はSi原子(珪素)またはC原子(炭素原子)が作る正四面体構造を頂点としてC面(底面)となり、C面の層が六方晶のC軸方向の積み重なる構造。
 積み重ねにより200種類以上の結晶構造を持つSiCは、それぞれに優れた物性を持つ。
 工業材料として焼結体や単結晶に用いられる代表的なSiCは2H、30、4H、6H、15Rなど(Hは六方晶、Cは立方晶、Rは菱面体晶)。2H、3C、4Hの3形態を比較した場合、4Hは高温安定、2Hは低温安定など性質が異なる。
 SiCでは3C構造をβ型、六方晶・菱面体晶をα型と呼ぶ。β型の結晶構造はダイヤモンドの置換型の閃亜鉛鉱型構造であり、α型は閃亜鉛鉱型構造と同質形のウルツ鉱型構造と似た構造。


 SiC-DPFトップシャアのイビデンは長年培ってきたカーボンカーバイトの技術を応用し.独白開発の易焼結性β-SiC粉末を完成させ、低融点の添加物を含まないSiCのみの構造体であり、耐熱性、高熱伝導率で放熱性に有利だ。

 日本ガイシはガソリン車用ハニカムの応用からコージェライト製で先行したが、難焼結性のSiCでは2,000度C以上で高温焼成ではコスト高となるため、Si金属とSiCの複合材を作り上げ焼成温度1,300度Cで可能なDPFで参入した。

 SiCは熱膨張率が高く、急激な温度変化では膨張・収縮が大きく、本来の性質は耐熱衝撃性に弱く、そのままDPFに応用した場合はPMの堆積で一気に燃料増量して燃焼させてしまうと熱膨張でクラックが入る可能性がある。
 そこで上述した様に、フィルターをいくつかに分割したユニットにして接着することで、熱膨張をSiCの限界範疇に抑制している。

 2000年にフランスのプジョーが2.2リッターディーゼルエンジンでDPFを世界で初めて搭載(新車として)イビデン製DPFが使われた。
 SiC-DPFの製造方法はガソリン用のハニカムとほぼ同様であるが、イビデン製では原料粒径の異なるSiC粉末を用い、日本ガイシ製ではSi金属粉末とSiC粉末を水と有機バインダーを加えて混練している。
 双方とも押し出し後目封じを行いイビデン製では約2,000度C、日本ガイシ製では約1,300度Cで焼成する。


 以上の内容は国立科学博物館技術の系統化調査報告からのものです。
 なぜ当時のプジョー(PSA)は初参入のイビデン製を採用したのでしょうか?
 何よりPLを恐れる自動車業界ですから。


 この解を記載した証券会社のレポートを見たことがありません。
 きっとみずほ証券の山田幹也アナリストが一番詳しいかと思います。


(イノベーションリサーチ 山田順一)


(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。また、当該情報は執筆時点での取材及び調査に基づいております。配信時点と状況が変化している可能性があります。)

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