※このコラムは、2004年3月16日に掲載されたものです。
 当時の経済的背景に基づいていますので、ご留意の上お読み下さい。




 設備投資をしなければ、売上が増えない企業の場合、設備投資を前提にして、市場の拡大に対応しなければなりません。

 市場の拡大が見込まれても、設備投資ができない企業は、シェアは低下して、市場から退出してしまうでしょう。

 半導体市況が悪いとき、韓国の三星電子や台湾のTSMCが積極的に投資を行ったことで、業界の勢力地図は大きく変わりました。

 半導体や液晶では、日本勢のシェアは激減し、アジア勢のシェアが激増してしまいました。


 三星電子のように効率の高いよいタイミングで設備投資をすると、売上増に結びつき、利益が増えるというシナリオが描きやすいのです。

 しかし、日本の総合電機のように、業界が横並びで、みんな一斉に投資をすると、業界としては生産能力過剰となり、期待した収益が上げられなくなります。


 設備投資をすれば、従業員のやる気は落ちないで、元気になるといった効用もあります。また、技術レベルが高い場合は、他社への委託をやめて内作にすることで、技術の流出も防げます。
 しかし、日本の総合電機は、台湾や韓国に積極的に技術を供与して、安く作らせることを優先させてしまったため、肝心のノウハウが委託先に流出してしまいました。


 一方で、設備投資は、借り入れの場合は、財務内容を悪化させますし、エクイティファイナンスをすれば、株数を増加させ、1株当たりの利益を薄めるという結果になります。


設備投資の利点と欠点:
○ 売上増加や収益増加につながる
○ 自社製造にこだわれば、請負業者への技術流出を防ぐことができる
○ 設備投資はプロジェクトであり、基本的に楽しいものだ。従業員や研究員のやる気が上がる
× 供給過剰で減益となるリスク
× 借入でまかなうと財務内容が悪化してしまう
× 公募増資などのエクイティファイナンスで株数が増加して希薄化が生じる


■設備投資の評価■

 設備投資の効率を比較することで、企業の収益力を計ることができます。
収益力とは、差別化や競争力の反映です。
また、収益の見通しは、株価には重要な要素です。
需要が見込まれるとき、設備投資の効率が高ければ、収益の拡大に結びつきます。


■リスクの多様性とリスクの評価■

 設備投資の効率が高いところは、リスクも小さい。
しかし、設備投資の効率が高いところは、みながやりたがる事業でしょうから、新規の参入のリスクが高いといえます。

リターンはリスクの裏返しです。リターンが高いと、それに見合ったリスクが発生します。
リスクは多数の種類があります。
たとえば、投資効率を優先させると、利益率は確保できます。一方で、そのような事業の機会は少ないため、売上の増加を犠牲にすることになります。
シェア拡大を諦めるわけですから、シェア低下のリスクを犯していることになります。


 投資効率が高いということは、利益率が高いということであり、顧客から見れば、値段が高いということになります。
顧客は、高い値段のものを、代替できないか、そういうチャンスを常々狙っています。
日本企業の製品は高いから、安い中国製に切り替える。
純正品は高いから、模倣品に切り替える。
そういうリスクを代替リスクと呼びます。


投資効率を高めると、リスクが発生します。
1)リスク 売上成長力を犠牲(シェアが低下するリスク)
2)リスク 製品が代替されるリスク
3)リスク 新規参入のリスク
ということになります。


 逆に、投資効率がよくないものを敢行してしまうとどうなるでしょうか。
供給過剰になれば、価格下落のリスクで、事業が赤字になるリスクを負うことになります。
撤退の障壁が生じてしまう。


■投資家としてのチェック・ポイント■

 投資効率がよい。定義は、たとえば、「投資のリターンが10%以上ある」と定義するのはどうでしょうか。

たとえば、聖書はどうでしょうか。ビジネスとしてみるのは不遜かもしれませんが、聖書の値段は大きさにもよりますが、買うと3000円程度します。

 1000冊刷っても、500冊刷っても、印刷コストはあまり変わりません。
版のコストが高いからです。
印刷コストは2000部で80万円程度としましょう。

編集コストが低く、著作権が消滅しています。
つまり、固定費が80万円。
変動コストは、インターネットでの直販にすれば、HPがすでにある場合、物流と梱包のコストだけになります。
在庫保管が自宅の押し入れでよければ、コストはかかりません。。
宛名書きは結構大変そうですね。

流通コストは、一冊あたり400円程度でしょうか。
送料を顧客に負担していただくと、聖書のビジネスは、限界利益率が100%となります。

ブレイク・イーブンは、267冊。
一生かけて、販売できます。
100年間で、2000冊売り切るとしましょう。
年間20冊のペースです。

総収入は600万円。
コストは80万円。
今後100年間のリターンは、年率で2%となります。
複雑になりますので、金利の前提はゼロとおきました。


ビジネスモデルとしては、どうでしょうか。

●限界利益率は高い。変動費ゼロ。
●100年後も売れる内容である。
●初期投資が大きい。80万円もかかります。
●回収期間が長い。13年かかります。


すべての事業は、上記のような計算が成り立ちます。
どんな事業も、事業計画を立てることができます。
どんな事業でも、投資効率を計算することができます。

 しかし、その前提条件をちょっといじるだけで、投資効率は、大きく変わります。そこが欠点です。


ビジネスモデルとは、限界利益率を何%に設定するかということです。
上記のケースでは、限界利益率を87%に設定することで、郵送無料のビジネスとなります。
顧客負担が軽くなるため、販売部数はそうしなかった場合に比べて増加するでしょう。
しかし、利益が犠牲になります。
総売上が減ります。


上記と同じだけの投資効率を実現するためには、100年かけて売っていては駄目です。
92.9年以内で売り切ることができるのであれば、送料を負担した方がよいということがわかります。

いや、10年で2000部ぐらい売れるだろうという方がいたら、すごいですね。

投資利回りは20%を超えてきます。
いや、自分なら1年で2000冊ぐらい売れそうだという方、天才ですね。
投資利回りは750%。

80万の投資で600万のリターン。


100年間安泰なビジネスを組み、1年で回収。これがビジネスとしては最高なんですけどね。
ゆっくりと100年かけて売るようなシステムをつくるのが経営者の仕事かもしれませんね。


山本 潤
スロー・インベストメント
~ゆっくり考え ゆったり投資~


このコンテンツは、特定の銘柄を推奨するものではありません。アイデアというものは、単なる思い付きの部分も多く、投資判断を導くには未成熟・不十分・不正確なものです。ここで紹介しているようなレベルのアイデアでは、投資の役には立ちません。内容についても、関係者との立ち話が中心なので、わたしの取り間違いや聞き違いも含まれているかもしれません。内容の正確さを保証するものではありません。