産業新潮
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9月号連載記事
■その12 機先を制する
●機先を制するというのは先に始めることではない
私が若いころは、他人よりも早くスタートする=「先陣を切る」というのは、有利なような気がして、とにかく他人よりも先に新しいこと始めたいという気持ちにあふれていました。多くの若者にも同じような傾向があるでしょう。
もちろん、若者がチャレンジしてリスクを負わなければ、世の中は発展しませんし、軍隊でも「先陣を切る」兵隊がいなければ戦いができません。その意味で「先陣を切る」人々が世の中に貢献しているのは確かですし、成功したときに多額の褒賞や名誉を得ることができるのも当然でしょう。
しかし「先陣を切る」ことが個々の人々にとって有利であるかどうかは全く別の問題です。例えば軍隊で先陣を切る人々は、敵の反撃にあって死ぬ確率が高い(ハイリスク)わけです。ですから、先陣を切ることが勇者の証とされ誉め讃えられるわけですし、成功したベンチャー経営者が賞賛されるのは、一から事業を始める=ビジネスの先陣を切る場合の成功確率が極めて低い(俗に千三つといわれる)ため、そのような危険なことに挑戦する勇気に人々が感心するからです。
そもそも、孫子は「戦わずして勝つべし」と明言しているわけですから、戦うのは最終手段であり、わざわざ先陣を切って戦いを始める必要など必要ありません。
●機先を制するのは老獪な戦術であるべきである
したがって、「機先を制する」のは、戦いが避けられなくなったときの「必勝戦術」の一つなのです。
孫子は次のように述べています。
「戦いの中では、将軍が主君の命令を受けてから、軍隊を編成し敵と対峙するまでに機先を制することが最も難しい。
例えば、敵より遅く出発しても、のろのろとゆっくりしているように見せかけ、敵の前にニンジン(利益)をちらつかせてぐずぐずさせ、先に到着することも可能である」
つまり、単純に「先陣を切る」という手法をとらずに、孫子らしい老獪なやり方によって機先を制するわけです。
さらに孫子は、続けてこのようにも述べています。
「もし、全軍が我先に機先を制そうとばらばらに行動したら、部隊の統制がとれなくなって、かえって敵よりも遅れる。また、個人の功名を望んで焦れば、重要だが重い物資を運ぶ部隊は置いていかれ、結果として食糧不足などで敗北する。
100キロ先からこのような争いをすれば、疲労困憊した部隊は全滅するだろうし、50キロ先からであれば、その半分を失い、30キロ先からであればその三分の一を失うであろう」
要するに、個々の兵士が先陣を切って功名を上げようとするエネルギーを、知略によってコントロールできなければ、機先を制するどころか烏合の衆となり、大敗北を喫するというわけです。
(続く・・・)
続きは「産業新潮」
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9月号をご参照ください。
(大原 浩)
★2018年4月に大蔵省(財務省)OBの有地浩氏と「人間経済科学研究所」
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