書評:武士道
新渡戸稲造 著、ちくま新書
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本書において、武士道と騎士道が比較されているが、確かになるほどと思う部分がある。
特に、両者とも封建制度における「御恩と奉公」という一種の「社会契約」(文書によらない社会慣習法)に基づいて成立している点に注目したい。
武士も騎士も、社会契約により領地(国家)を守るために自己犠牲を払うことを当然とし、その基礎の上に、「名誉を重んじる」あるいは「死を恐れない」というような精神的規範が形成された。
封建制というと、いかにも古臭くて抑圧的に思われがちであるが、実のところ全く逆である。
例えば、欧州においては、絶対王政のもと、国民は農奴などの牛や豚(あるいは奴隷)と同じ扱いを受ける人々が大半であった。
そのような権力者が国民を蹂躙する中で、絶対権力に抵抗するかのように成立したのが封建制度である。
絶対王政では、国王の権力は「神から与えられ不可侵だ」などという議論がなされたが、封建制度では、領主も武士や騎士の土地を「安堵」するという義務を負う。
国王だけが、一方的に命令を下す仕組みでは無いのだ。
つまり「御恩と奉公」=「ギブ・アンド・テイク」=「対等な関係」というところが極めて重要である。
武士道では主君に忠義を尽くすことが求められるが、「主君が愚かであれば、お家のために正しい道を説くこと」も暗黙の臣下の役割であった。
そして、最悪の場合は、主君を廃絶し、より賢明な君主を据えることも(成文法では認められていなかったが)武士道における共通のコンセンサスであった。もちろん、そんな大それたことを行えば、自らも切腹するしかないが…。
つまり、封建制度は絶対王政から民主主義への橋渡し役なのである。
したがって、封建制度を経験していない社会が、絶対王政、ファシズム、軍事独裁、共産主義などの全体主義から民主主義に移行したことは、歴史上無かったといっても過言では無い。
アジアで最初に日本が民主化に成功したのも、封建制度のしっかりとした基盤があったからである。
それに対して、共産主義中国やアラブ、さらには多数の発展途上国で民主化がほぼ不可能なのは、封建制度と産業革命を経験していないからだ。
欧米諸国は「どんな国でも民主化できる」という幻想を描いているが、封建制度と産業革命をまず経験しなければ、民主化は実現できない。
どのようなことも「機が熟する」のを待つ必要があるのだ。
特に「自称儒教国家」の共産主義中国と韓国は、いまだに「対等」という概念さえ理解できていない。すべては「絶対王政」時代のように「どちらが上か下か」ということに固執し、「相手より上で上であれば何をしても良い」という考えが支配的だ。
特に、共産主義は人民の資産を奪い(奪った資産は共産党員で山分けする)、人民を奴隷化する絶対王政(農奴制)への回帰である。
このような国々が、先進国と自由に交流していたことが、現在世界を覆っている厄災の原因である。
最近の香港のデモは「第2の天安門事件」になるかもしれないが、いずれにせよ共産主義中国は元の「巨大な北朝鮮」に戻り、世界に対しては「竹のカーテン」で隔絶するだろう。
「武士の魂」を尊重する高度に精神的な文化を継承する日本にとっては、「自称儒教国家」が世界市場から退場していくのは、大いに好ましいことである。
(大原 浩)
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