3月14日に伊藤忠商事によるデサントへのTOBが成功しました。デサントは代表取締役や役員構成なども含めた伊藤忠案を受け入れたようです。
今回のTOBには実際には予定数の倍の応募があった模様で、TOB価格が大半の投資家が考える理論値より高かったためと考えられます。確かにこの業績レベルのアパレル系企業としてはPBR約2.5倍、予想PER30倍はやや高めに感じます。
今回のTOBは平たく言えば、現経営陣の保身を狙ったMBOを阻止するため、そして伊藤忠が保有する株式の価値を毀損しないための敵対的TOBと言えそうです。
加えて、韓国事業が伸びたとはいえ依然として筆頭株主を蔑にしたまま、営業利益率も伸びず6.7%程度のまま、足元3年間の伸びもほとんど無い経営では、以前から支援している意味が無いと伊藤忠経営陣は考えたのでしょう。
デサント側は「買収されたら大変だぞ~!」と従業員に刷り込むなどで、且つ(恐らく居心地の良かった)上級管理職を中心に買収反対に回ったものと思われますが、救ってもらった恩義も忘れて身勝手な保身に走ったデサント経営陣には分が悪いです。
このTOB表明時点でデサント側に打つ手は無く、何らかの対抗措置を執る余地すらもありませんでしたが、仮に対抗措置があるにせよ、今回のような株主価値を毀損しかねない経営方針を採る、または株主価値を増大出来ない(株価を低いままに放置する)企業については敵対的TOBが成立し易い市場にしていかねばなりません。
日本市場にはPBRが1倍を下回る(株主軽視の)会社が多数あります。
他人資本を使って経営している限り、株主の期待を上回れない(どころか株主資本を私物化する)経営陣なら早々に解散して資本を株主に戻すか、企業価値向上を見込める経営陣にバトンタッチするかなどを選択せねばならないはずです。
先日も低いMBO価格に対抗したTOB案件(アクティビストで有名なMr.村上が動いたようです)が出てきました。公開企業私物化の好例のような会社ですから、今回のような案件でアクティビストが活躍出来なければ産業の活性化や代謝が促されず、資本市場の凋落(=産業の衰退)に繋がります。
古い社内慣行に従った順送り人事(社内政治)により無能な経営陣を選任し続ける経営では、(ダイバーシティー皆無の)経団連同様、何時まで経っても日本村の発想から脱却できず、日本株式会社はいずれ沈没してゆくことでしょう。
つまり、現在のままの日本株市場なら、リスクに見合うリターンを得られない市場が続くことを意味します。
世界で株主還元額が増加したと言う記事もありましたが、相当数の日本企業に於いては株主還元の実態は依然として不満足なレベルです。
ただでさえ今の日本株市場は、一般投資家を軽視した市場運営を続けることで投資家が育たない一方、空売りや相場操縦などの特権を持つ外資系機関投資家に弄ばれ、賭博場と化しているのが現状です。一般投資家が下手に参入すればプロに毟り取られるのですから投資家の裾野が広がるはずもありません。
最近話題の「東証1部から時価総額250億円以下の銘柄を外す」と言う議論も、「割安な株価を放置する会社は乗っ取られてしまう」または「経営陣が交替させられる」と言う株主重視の政策を加えねば形式的な議論に留まり、勿論市場活性化には繋がらず、政治に発言権のある財界大手(の経営陣)を守ると言うだけの結果に陥りかねません。
いや、それを良く分かっているからこそ形式的な手法による市場活性化策で誤魔化そうとしているのでしょう。
「貯蓄から投資へ」と謳うなら、行政も取引所も発行体(経済界)寄りの運営を見直し、真に投資家の為の市場へと改革しなければ、つまり政官財の既得権構造を壊さない限り、日銀や年金の投資も無駄骨に終わり、国民資産の毀損に繋がることになります。
5月の連休明けまでは不透明な環境が続きます。相場操縦に振り回されて損失を被らないよう十分にご注意いただきたいと思います。
(街のコンサルタント)
(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。また、当該情報は執筆時点での取材及び調査に基づいております。配信時点と状況が変化している可能性があります。)
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