前回から連載でご紹介しているアジア開発銀行研究所所長の吉野直行さんの メッセージです。
⇒初回コラム http://okuchika.net/?eid=8057
前回コラム http://okuchika.net/?eid=8086
第2回目は、国有財産の処分方針、埋蔵金問題についてです。
国有財産については村田和彦(財政金融委員会調査室)さんの「立法と調査」2018年9月号に現状がまとめられていたので、引用させてもらいます。
(オリジナルはこちら
→http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2018pdf/20180907055.pdf
以下引用です。
『国有財産行政の対象となる財産は、国有財産法(昭和23年法律第73号。以下「法」という。)
第2条及び附則第4条に規定されている財産をいい、具体的には不動産、船舶・航空機等の動産、有価証券などがある。法では、国有財産を「行政財産」と「普通財産」に分類している(法第3条第
1項)。
行政財産は、
1)庁舎、国家公務員宿舎、刑務所などの「公用財産」、
2)国道、河川、公園などの「公共用財産」、
3)皇居、御所などの「皇室用財産」、
4)国有林野事業のための国有林野の「森林経営用財産」
の4種類に分けられており、各省各庁の長が管理することとされている(法第3条第2項、第5条)。
また、行政財産は、原則として売払い、貸付け等の処分を行うことはできず、行政財産が不要となった場合は、各省各庁の長はその用途を廃止して普通財産とし、財務大臣に引き継ぐこととされている(法第18条第1項、第8条第1項)。
普通財産は、行政財産以外の一切の国有財産をいい(法第3条第3項)、原則として特定の行政目的に直接供されることのないものであり、例えば庁舎などの跡地、物納された土地、政府保有株式などがあり、原則として財務大臣が管理処分することとされている(法第6条)。
一部の各省庁所管の特別会計所属の国有地は、所管省庁が自ら処分する権限が認められている(法第8条第1項ただし書、同条第2項)。
近年は、国有財産の有効活用を図る観点から、財務省への事務委任を積極的に推進することにより、統一的ルールによる処分等が進められている。
国有財産台帳で管理されている国有財産の現在額は、毎年度、国会に報告することとされており、平成28年度末の国有財産現在額は106兆79億円であり、そのうち、行政財産は23兆4,645億円、普通財産は82兆5,434億円となっている。
また、国有財産のうち、土地の総額は17兆9,693億円であり、そのうち行政財産が13兆932億円、普通財産が4兆8,761億円となっている。
普通財産の土地のうち、在日米軍施設、地方公共団体等の公園用地等がその多くを占め、処分対象となる未利用国有地は4,234億円となっている。
土地の面積で見た場合、国有地の面積は87,650km2、国土面積377,971km2の約23.2%に相当する。
そのうち、行政財産は86,633km2とその約99%を占め、普通財産は1,017km2となっている。
普通財産のうち、山林原野等が845km2と83%を占め、未利用国有地は9km2と普通財産の土地の1%程度を占めるにすぎない。
なお、普通財産の土地のうち特別会計所属のものは、1,502億円、2km2となっている。』
以上 引用終了。
引用の中でも
「行政財産は、原則として売払い、貸付け等の処分を行うことはできず、行政財産が不要となった場合は、各省各庁の長はその用途を廃止して普通財産とし、財務大臣に引き継ぐこととされている」
「近年は、国有財産の有効活用を図る観点から、財務省への事務委任を積極的に推進することにより、統一的ルールによる処分等が進められている。」
という事からも、国有財産については、なるべく有効活用の観点から、そして国の財政に貢献することを目的に売却処分されることになっています。
しかし、吉野先生は、この国有財産の売却処分について疑問を持たれています。
それは、売却処分を行って財政的に改善されるのは一時的な効果しか得られません。それよりもしっかりと国有財産を有効利用して、中長期的に活用できる状況にすることの方が長期的な財政改善に貢献することができるのではないかと考えています。
つまり、例えば1,000億円の国有財産があるとした場合、
1)これを民間に売却してしまえば、その時点で1,000億円の国庫収入があり、国家財政が1,000億円改善します
2)これを有効活用し、仮に4%程度の収益性のあるものにできれば、年間40億円の収入があり、財政が40億円分改善します。そして、その効果が長く続くほど、国家財政に長期に寄与します。
ここで、吉野先生が2)の案を支持するのは、主に世代格差や高齢化に伴う影響です。
1)の案は、一時的に改善しますが、それだけで現在の現役世代にしか影響がありません。
2)の案では、中期的に改善を促すことで、その効果は現役世代のみならず、将来世代への好影響も考えられます。
小屋の頭に浮かんだ例は、霞が関コモンゲートです。
この場所は、文部科学省と会計検査院の跡地を、民間と合同で再開発した事例です。
現在では、東館に文部科学省、文化庁、会計検査院、西館に民間企業が入っています。
この土地は官民一体で再開発した結果、国有財産と民間の財産に別れた結果になっていますが、国有財産をこのような形で再開発して、収益性を向上させることのできる例はたくさんありそうです。
このように単純に売却処分をして、現在の財政改善にしか目を向けないのは、将来世代に対する責任のない行為であると吉野先生はしています。
同じ指摘を、「埋蔵金問題」として一時期もてはやされた特別会計の剰余金処分問題にもされています。
埋蔵金問題とは、一般会計ではなく特別会計内に残っていた剰余金や積立金の処分に関する問題ですが、これが、2000年代後半から、一般会計や予算に利用されてきました。
これも先程の国有財産の話と同じで、
1)これを今利用してしまえば、その時点で予算として利用できる
2)これをしっかりと有効活用し、収益性のあるものにできれば、国家財政に長期に寄与します。
政治家としては、現時点で予算化してしまった方が、現役世代から支持が得やすいので、短史眼的な1)を選びがちですし、実際にそういう選択がされてきました。
本来は、これも将来世代に対する責任としては、中長期でしっかりと効果の出る利用方法を検討しなければなりません。
国有財産の処分、あるいは埋蔵金の活用については、現時点だけの判断ではなくどのような利用方法をすれば将来世代に寄与することができるか?
という視点で議論をしてほしい
というのが吉野先生のメッセージです。
株式会社マネーライフプランニング
代表取締役 小屋 洋一
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