産業新潮 http://sangyoshincho.world.coocan.jp/
9月号連載記事
■ビジネスに最も大事なのは真摯さである。お金のためだけに働く人間はいない(社風)
●人間は嘘をつく動物である
嘘をつくというのは高度な知的活動です。例えば、ミドリムシやゾウリムシのような単純な構造の生物は、外界の刺激に対して反応するだけで、高度な思考の産物である「嘘」をつく余地などないでしょう。また、犬や猫も、見る限りでは人間に嘘をつくようには見えません(人間が騙されているだけかもしれませんが・・・)。サルも、少なくとも人間がつくような高度な嘘とは無縁のようですから、人間とサルの境界線は「嘘」をつくかどうかという点にあるのかもしれません。
「嘘」というのは、一般的に悪いことのように考えられていますが、そんなことはありません。「嘘をついたことが無い」という人物は120%嘘つきだと言われますが、どのような人間でも毎日嘘をついています。
例えば妻が出迎えたとき「今日、美容院に行ってきたの」と言えば「素敵な髪型だね」と必ず言わなければなりません。「ずいぶんへんてこな髪型だなあ」などと、心の中の「真実の叫び」を絶対に口にしてはいけません。
また、上司がかんかんになって説教しているときに、「おい、君分かったのか?」と言われて、わけのわからない話だと思っていても「わからない」と言う勇気のある人はあまりいないでしょう(それが正しいこととは言えませんし・・・)。
さらに、エコノミーシート2席分は必要な体格の人に「デブ」と言ったり、頭髪の成長力が弱まった人物に「禿げ」と面と向かって言うのは、むしろ行うべきでは無いことです。
仏陀は「方便」という言葉を使って、良い意図を持った嘘の大切さを説明しましたが、良い意味でも悪い意味でも「人間は嘘をつく」ということは、マネジメントの大前提です。
●正直なのと真摯なのとは違う
人間が「自分の意志で自分の行動を制御する存在である」という立場を取るかぎり(「生物機械論」のようなそれを否定する考えもあります)、それぞれの人物の行動をマネジメントするためには、それぞれの人物の「意識と無意識」に働きかけなければなりません。
その時に重要なのは「正直であることと真摯であること」は違うということです。例えば、ドラッカーは、部下の欠点ばかりを指摘するマネージャーは即刻その任を解くべきである、と述べています。
しかし、このマネージャーは「目につく欠点をそのまま事細かに指摘」するわけですからとても正直なはずです。しかし、人間が最も傷つくのは本当のことを指摘されたときです。
例えばプール付きの豪邸に住んでいる大富豪に「お前は貧乏人だ」と言っても笑い飛ばされるだけでしょう。しかし、電気代や水道代さえ事欠くような人々に同じ言葉を投げつけるのは非人道的とさえいえるでしょう。
そもそも、人間は自分の欠点はよくわかっているものです。わかっていても簡単に直せないから、欠点を直すことにエネルギーと時間を浪費するなというのがドラッカーの考えです。ですから、正直に他人の欠点を指摘することは必要無いだけではなく、モチベーションを下げる最悪の手段です。
それに対して、長所を引き出す時には「嘘も効果的」です。例えば100%の実力だと思っている部下に「君の本当の実力は120%はあるから、もっと頑張ってみたら」と、心にも無いことを言うと、その部下が、本当に頑張って120%・130%の力を発揮することは珍しくありません。
(続く)
続きは「産業新潮」
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9月号をご参照ください。
(大原浩)
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(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。投資に関しては御自身の責任と判断で願います。)
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