書評:トコトンやさしい電気自動車の本 第2版
廣田 幸嗣 著
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本書にも書かれているように、電気自動車はフィルクス・ワーゲンやダイムラー(ベンツ)をはじめとするドイツ自動車産業の礎を築いたフェルディナント・ポルシェ博士(1875年~1951年)の時代から実用化されていました。(ガソリンエンジンのスターターの無い時代に)ボタン一つで始動できることや、変速機が必要無いことから女性を中心に人気があったそうです。
1900年に米国で売れた自動車の40%は電気自動車だといわれています。
そして最近<電気自動車は環境にやさいしいという思い込み>が社会に広がって、再び電気自動車が騒がれています。しかし、電気自動車がガソリン自動車に負けて退場したのにはそれなりの理由があります。
決定的なのは「電池」です。
充電に時間がかかり航続距離も伸ばせません。しかも、使用後の充電池は危険物質を含む産業廃棄物です。電池がエンジンと競争力を持つためには「全個体電池」などの技術の飛躍が必要でしょう。
家庭用電源を使うと、現在の容量の電池でもフル充電に一昼夜ほどかります。また急速充電(それでも10~30分かかる)するためには、(ガソリンスタンドと同程度の数の)充電ステーションを建設しなければなりませんが、電気料金がガソリン代に比べてかなり安いためにあまり儲かりません。つまり設備建設のインセンティブがあまりないのです。
さらに、電気自動車が「環境にやさしい」というのは眉唾です。電気そのものは直接的には環境にやさしいかもしれませんが、世界の発電を見れば、石炭火力が40%、天然ガスが約20%、水力発電が約17%、原子力が約11%です。事故を起こせば環境にとてつもない被害を与える原子力を含めれば、環境にやさしくない発電が7割以上を占めているのです。
しかもマスコミなどが「環境にやさしい」と触れ回っている太陽光発電は、廃棄されるパネル(有害物質が多量に含まれる)が環境を破壊するだけでなく、太陽光パネルの設置のためにはげ山が生まれるという現象も起こっています。
また、太陽光・太陽熱・風力など大概の「再生可能エネルギー」の発電は不安定で技術的に<需要と供給の帳尻をきっちり合わせなければならない>発電・送電網には大きな負担になります。
その中では、地熱やバイオマス発電が<安定供給>という面では極めて有望ですが、少なくとも当面の間は多くのボリューム期待できません。また海洋発電(特に波力発電)は再生可能エネルギーの最有望株ですが、実用化・本格普及までにはまだまだ長い道のりになりそうです。
そもそも、すべての自動車が電気自動車になれば大変なことが起こります。
日本の現在の発電(設備)容量は約<3億キロワット>です。そして、7000万台の自動車がすべてプラグインハイブリッド(平均でモータージェネレーターの容量が50キロワット、電池の容量が10キロワットとする)になったと仮定すると、車の総発電(設備)容量は<35億キロワット!>、蓄電容量は7億キロワットになります(本書の記載)。ハイブリッド車の発電容量が、そのまま電気自動車の走行に必要なエネルギーというわけではありませんが、走行に必要な膨大な電力の供給という点から考えれば、発電所を大量に増設するよりもプラグイン・ハイブリッド車を普及させたほうがはるかに合理的です。
ガソリンエンジン車やハイブリッド車で日本勢(特にハイブリッドはトヨタの独壇場)に全く歯が立たない、中国、EUなどは国ぐるみで、トヨタをはじめとする日本メーカーの足を引っ張るために<電気自動車の導入>を声高に叫びますが、<電気自動車が主流になればとてつもない量の発電を行わなければならない>のは他の国々でも同様です。
多分、トヨタのハイブリッドが世界を席巻する状況はまだまだ続くでしょう。
その後は水素ステーションの新たな建設という重荷はあるものの、「電池」という致命的問題(これは現在の電池のシステムに問題があるので、本格的改善には「全個体電池」など基本技術の飛躍が必要)の無い水素自動車が主流になる確率はかなり高いと思います。
ちなみに、トヨタはは最近タクシーの新型車を発表しましたが、タクシーで使っているLPGは比較的簡単(簡易施設で)に水素に転換できますし、業務用の車は一定の区域内を走行するので、水素ステーションが少ないことはあまり問題になりません。カリフォルニア州の大型FCトラックの実証試験も行われていますが、トラックも同様に水素ステーションの少なさは大きな問題になりません。
本書の著者は電気自動車に力を入れている日産自動車の技術顧問ですが、本書を読んでも電気自動車の問題点の解決への道筋が見えませんでした。しかし、問題点もきちんと率直に記述している点は非常に好感を持てました。
(大原浩)
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