書評:人類は絶滅を逃れられるのか 知の最前線が解き明かす「明日の世界」
スティーヴン・ビンカー、マルコム・グラッドウェル、マット・リドレー他箸
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 「日本人はディベートが下手だ」と、非難がましく言うマスメディアを中心とした人々がいますが、ディベートが得意だからと言って自慢するようなことではありません。

 例えて言えば、ディベートは商品の包み紙、すなわち「見た目」です。表面的な印象を重視し中身に乏しい欧米人は、確かにディベートという包装紙で自分を飾る必要があるでしょう。

 しかし、日本を筆頭とする東洋文化圏では中身を重視(特に精神的なもの、お歳暮などの贈答品は別・・・)するため、見た目にそれほど重きを置きません。「自分がこれだけすごいんだ(正しいんだ)」という主張をするための技術を磨くことよりも、(自分の)中身を高めることに注力します。

 一瞬の勝ち負けは別にして、長い目で見てどちらがあるべき戦略なのかは<ディベート>するまでも無いでしょう・・・


 本書は、「赤の女王」や「繁栄」等の名著を執筆したマット・リドレーの名前があったため、思わず手に取ったのですが、内容はかなり上滑りです。

 訳者前書きにもあるように、ディベート会場は大いに盛り上がったようですが、それはプロレスの「金網デスマッチ」に観客が熱狂するのと一緒で、<その場の興奮>にしかすぎません。活字にするとほとんど内容がありません…

 ディベートでは、よく言葉尻をとらえた揚げ足取りが行われますが、本書でも「明るい未来」の肯定派に対する、否定派の執拗な揚げ足取りが散見されます。

 まるで、日本の明るい未来を実現すべく懸命に努力している政治家に対して、日本の将来を真っ黒にしたい(外国勢力や共産主義勢力に日本を支配させたい)政治家やマスコミが懸命に足を引っ張ろうとしている姿を見ているようです。


 なお、「人類滅亡」については、紀元前から色々な説が流されてきましたが、ミレニアム(1000年紀)、1997年7の月、2000年問題、マヤ歴の終わり(2012年)をはじめとする無数の滅亡説のうち、どれか一つでも当たっていたら、現在我々は存在していないということを直視するべきです。

 しかしなぜ、こうも繰り返し「人類滅亡説」が出てくるのか?
 それは、進化的に人間がネガティブな情報に過敏に反応するよう生まれついているからです。

 例えば古代において、Aというリスクを顧みない<イケイケどんどん>な人と、神経過敏で心配性なBという人とを比べれば、どちらが長く生き残り、より多くの子孫を残すであろうかは明白です。

 人類が生きてきたほとんどの時代は、常に生命の危険にさらされていたので、ネガティブな情報に過敏に反応する個体の方が生き残りやすいのが道理です。

 したがって「人類滅亡」というのはキリスト教を含めた大概の宗教の殺し文句で、<信じなさい、あなただけは救われる>という言葉で多くの信者を獲得してきました。

 「地球温暖化教」もその一つで、「信じなさい、そうすれば(あなたも含めた)人類は滅亡から救われる」という言葉だけで、ほとんど何の科学的証明もせずに、世界中の多くの人々を洗脳してきたのは驚くべきことです。


 ただ、このディベートの聴衆の3000人のうちの多くの人々が「人類滅亡説」を含む人類の未来に対して健全な意見を持っているのが救いです。


(大原浩)


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