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株式連載小説「億の近道」第1話

2016/11/16 20:34 投稿

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 今号よりスタートします株式連載小説。その名もズバリ!!「億の近道」。

 トランプだろうと誰だろうと生まれた時は裸一貫。最初は無一文で親の庇護の下、人生をスタートさせます。

 トランプ大統領も親の仕事を引き継ぎ大きな資産を形成したのかと思いますが、気が付いたら大金持ちなどという人は少なく、途中では紆余曲折。とかくこの世はままならず、すったもんだの挙句に苦労に苦労を重ねてそれなりのお金をつかむ。

 めぐり来るお金の多寡は千差万別。
 小さなお金を早く億にしようともがむ人生模様を株式投資の世界で描く読者待望の株式小説。
 山あり谷ありの株式相場を相手に戦う人々の葛藤や悩みを主人公である松永は優しく包んでくれる。


 さあ、こんな時代だからこそ、億を目指そう!!この小説を読みながら…。





第1話:出会い


 外資系投資顧問会社で、アナリスト兼ファンドマネジャーを務めていた松永芭蕉は、あまりに生き馬の目を抜くような過酷な株式運用の世界から一旦は足を洗おうと考えていたが、幼い頃からの根っからの株好きという性分が、この世界での仕事を続けるよう踏み留まらせた。


 人々が酔いしれていた1989年、熱狂の中に漂い始めた一抹の不安。

 松永の脳裏にも出入りする不安は日常の忙しさで消えてしまい、
日経平均38915円がその後26年もの間抜けない天井となるとは思いもよらなかった。

 バブル経済の崩壊はその後の松永の人生につきまとうこととなった。


    ***  ***  ***


 バブル相場崩壊から8年を経て松永は茅場町からほど近い八丁堀で小さな株式投資塾を開いていた。
 先立つものが限られていてオフィスは小さいビルの一室にあったが、そこには見かけ裕福そうな内心は絶えずびくびくとした証券マンや、その仲間で銭勘定が先に立つ弁護士先生、小銭をためた中小企業のオーナーといった、株で一攫千金を狙う人々が出入りする姿があった。


 バブル崩壊後8年を経過し長引く不況の中で、ゾンビのような企業が未だに命絶え絶え生き延びていて、いつ終えるか分からない企業の一筋の生命線が株価を下支えし、ゾンビ企業の最後の断末魔とも言えるわずか1ケタ台の株価が象徴的に取引の対象となっていた。

 大方の投資家は市場から逃げ出し、二度と戻らないと心の中では宣言するものの、ここがチャンスとばかり事務所に集まる半玄人集団が塾生となっていた。


「でもこのままでは仕事は先細りだ・・。」

 松永は3年ほど前に外資系投資顧問会社で知り合った証券マンの田山華袋(かたい)に、

「話したいことがあるからたまには八丁堀で飲まない?」

と声掛けしてみた。


「ああ、お久しぶりです。松永塾長。お元気ですか。」

 松永は田山が会社を辞めてこれから時流に乗ると確信したヘッジファンドを立ち上げるという話を聞いていた。

「ヘッジファンド立ち上げなんて大変そうだな…。うまく行ってくれれば良いが…。」

 松永はそうした心配から気になって誘ってみたのだが、田山の声を聞いて意外にも元気そうなのでほっとした。


「飲み会?いいですよ。私の昔からの友人の津田にも声掛けしてみます。」

 田山は元気な声でそう答えるとその週末の金曜日に八丁堀の恵比寿家という魚のうまい居酒屋で待ち合わせすることになった。


「松永塾長、ご無沙汰しています。今日は友人の津田も連れてきました。こう見えてもITの専門家で学生時代はお互い呑み潰そうとして夜な夜な飲み明かした朋友です。宜しくお願いします。」

「ちわーす。田山から松永さんのことを聞いてやってきました。宜しくっす。」

 松永は小太りの青年実業家のような津田の姿を見て思わず、タレントの誰かに似てると思ってしまいましたが、そんなことよりITのことは詳しくないので思わず、

「ITの専門家ですか。ぜひ宜しくお願いします。」

と微笑みながら言葉を返していた。


 これは良い出会いとなりそうだと松永はすぐさま感じた。


(第2話に続く)






【バブル相場とバブル崩壊後の相場】


 皆さんは現在の株式相場の指標をご存知かと思います。例えば、時価総額は企業価値を示していますが、それは収益水準がベースになります。

 収益水準(例えば経常利益)の何倍が妥当かは過去の経済環境等で異なりますが、概ねは経常利益の5倍から10倍ではないかと思います。

 バブル経済やバブル相場の定義は明確ではありませんが、常識を逸脱した評価が価値づけが金融商品や不動産価格に対して長期間続く現象だということができます。
 デフレに対してインフレという言葉がありますが、異常な資産インフレ局面が長期化して株式など金融商品や不動産の価格に反映される状況のことを指していると考えられます。


 そうした価値づけを逸脱した時にバブル相場との印象が持たれ、結果としてそれが何らかの契機で、はじけて終わることになります。

 日本の1980年代後半はまさに超ド級のバブル景気とバブル相場に沸いた時期でした。日本全体の東証1部の時価総額は1989年末に600兆円を超えました。銀行や証券、鉄鋼、電力、エネルギー、造船、電機、機械、化学、ゼネコンといった日本の高度経済成長時代を支えた企業群、いわゆるエスタブリッシュメントが織りなす日本の株式市場への評価は平均PER20倍以上、PBR2倍以上という水準となり、多くの投資家がそれが未来永劫続くかと思えるような相場にリスクマネーを投じた時期でした。

 現状の東証1部市場の時価総額は518兆円、PER15.5倍、PBR1.2倍、予想配当利回り1.84%という水準です。ここから景気が悪化して企業業績が悪くなると見れば株価に変化がなくても未来のPERは上昇しますが、業績は向上するのであれば未来のPERは下落します。
 バブル経済の時代の末期は企業業績の向上がいつまでも続くかどうかは不確実だとしても、株価の上昇が当然という錯覚で彩られ、投資家の熱狂とともにいつはじけるか分からない泡が膨らみ続けます。


 バブル相場がはじけると混沌とした世の中がやってきます。一旦高値をつけると株価は悲惨なまでに下落を続けることになります。大方の投資家は個人投資家だろうと機関投資家もどのような投資家も外国人投資家など一部を除くとあきらめの境地となり市場に二度と戻りたくないという気持ちになります。

 そうしたバブル崩壊から8年を経た時期にこの物語はスタートします。


 「億の近道」。

 いい得て妙な株式のミニメディアが誕生した秘話が第1話に続き第2話でも続きますが、今後もぜひストーリーを楽しみながら味わって頂ければ幸いです。


(炎)


(この物語はフィクションであり、実在の人物、企業、団体、出来事、事件等とは関係ありません)


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