だからメディアは嫌われる
1991年の夏。
沖縄水産高校が大阪桐蔭と決勝を戦い、
13対8で負けてしまった試合を
覚えている人はおられるだろうか?
その大会で、たった1人で6試合を連投し、
投手生命を絶つことになったエースがいた。
結局、彼はその後、
持ち前の野球センスを活かし野手へ転向。
見事プロ選手となるのだが、
現在の彼へのインタビューの中に
気になる内容があったのだ。
それは、大学在学中に
当時のどこかのメディアから受けた
インタビュー記事の中で、
彼の発言として
「いつか監督を殺してやる。
毎日、そればっかり考えていました」
と書かれたというのである。
しかし、彼はそんなこと
実際は言っていなかった。
その時、インタビューした記者の
「こう思ったことはなかった?」
みたいな、冗談じみた誘導尋問に
乗せられた笑いの中での答えが、
あたかも本心のように
書かれてしまったというのだ。
そんなことが、
本当にあるのか?
そう思う方も
おられるかもしれない。
しかし、あるのだ。
というのも、オレも昔、
クソかつカスみたいな
週刊誌記者からインタビューを
受けたことがあったから…。
あれは、オレが25歳ぐらいの頃。
高校在学当時、仲の悪かった教師から
とつぜん電話がかかってきた。
何かと思いきや、
彼の教え子だった卒業生の中に
東京で雑誌記者をやっている者がおると。
で、このたびそいつが
パチンコ業界やパチプロの現状について
前向きな記事を作成することになったから、
できれば協力してやってほしい、
と言うのだ。
まぁ、オレもそこまで
気の悪い男でもないつもりだし、
かつて仲の悪かった教師が時を経て、
こうしてオレを頼ってきてくれているのは
正直ほっこりしたというか、
嫌悪感を水に流すのに十分な材料となったため、
快諾することにしたのだ。
数日後、オレが住む
最寄駅のマクドナルドに、
その記者とやらがやってきた。
賢そうなメガネをかけた、
ナンパ大学の坊ちゃんみたいなヤツだった。
で、そいつに現在のパチンコ業界の現状やら、
自分の周りのパチプロ連中がどういうヤツかなど
いろいろ話してやっていたんだが、
どうも調子がおかしいのだ。
オレに、
「見た感じアナタ、
ただ者じゃないみたいな雰囲気ありますけどォ、
今までの武勇伝とかないですかァ?」
とか、
「あ、さっき話しかけてやめた、
過去のあまり人に言えない悪いこと、みたいな。
それって、どんなことなんですかねェ!?」
とか、
「パチプロの仲間ってやっぱり
刑務所上がりとか多いんですかね?
なんなら、人殺しちゃったとかァ!?」
など、やたらとオレや周囲の連中が過去に
どんな悪事を犯してきたかについて、
根掘り葉掘り聞きたがるのだ。
だが、オレはもともと
「ショボイ犬ほどよく吠える」
という考えの持ち主で、
自分の過去の悪事とかをのぼせ上がって
イキイキと話すようなヤツは
一番みっともない人種だと思っているし、
あまりにしつこくオレを持ち上げて
調子に乗って話させようとしているのが
ありありなその記者のことも
気に入らねぇヤツだなぁ…と思えてきて、
頑としてその手の話題は提供しなかったのだ。
1時間後。
そいつは掲載誌を郵送するという
約束だけをオレとかわし、
異様な早足で帰っていった。
しかし、
発売日が過ぎても、
一向に雑誌が届かないのだ。
その記者の携帯電話に、
どんだけ電話しても出ない。
オレは仕方なくコンビニまで、
その雑誌を自分の金で買いに行った。
すると、そこでオレの目に
飛び込んできた記事は、
予想だにせぬ内容だったのである!
パチンコで生計を立てる
パチプロたちのモラルなき生き様
みたいなタイトルが
デカデカと踊っていた。
そこには、記者がインタビューした
何人かのパチプロや業界人が、
自身や周囲が犯したモラルのない暴挙、
犯罪的な行動、ゴト、ひどい言動、
詐欺まがいな行為などが列挙されており、
いかにパチプロという人間が
カスでクズばかりか。
コイツらこそが、日本という国の秩序を
大きく乱す元凶になりうる不穏分子なのは明らかで、
そのおおもとであるパチンコという文化もろとも
早急に撲滅することが必要である!!
という主張が声高に叫ばれていたのだ。
なるほどな。
だから、
オレの周りに多くいた
人柄がいいパチプロたちや、
パチプロってことで一般の社会人より
しっかりしてなきゃイカンと、
他人に親切にしながら
生きている仲間たちの話を
「その話はわかりましたから…」
とさえぎってまで、
オレの過去の悪事をほじくり出すことに
躍起になっていたわけか……。
この記事を目にして、
すべてがようやく理解できた。
メディアの人間にはこのような、
私服を肥やすためだったり、
自分の地位や社内での格を上げるために、
他人の人生を軽く考え、ナメくさり、
誰かをおとしめるような情報を
平気で世に放つ者もいるのだ。
人間の汚い部分や、
自分より劣ったヤツを見つけては
ニヤニヤしているような、
情けない人間向けの記事を作ることでしか
人が振り向く作品を世に出すことができない
無能でモラルがないクズ野郎も、
一見かしこそうな仮面をつけて
文字で情報を発信しているのである。
だから、沖縄水産の元・エースが語った
過去のインタビューにまつわるエピソードも、
この世界ならいかにもありそうな話だな……と
感じたのである。
ちなみに、オレが記者に語った話は、
その記事の中では1行も使われていなかった。
身振り手振りを加えて
1時間もノリノリでオレを持ち上げ
楽しそうに話してたクセして、
帰り際に見せた妙につまらなそうなそいつの顔が
鮮明によみがえってきた。
「オマエ程度の能無し野郎に、
そうホイホイとヤラれるかよ…」
黒ずんだ見開きページを
ため息まじりに眺めながら思った、
若き日のオレであった。
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コメント
コメントを書く(ID:15125791)
私も、似たような経験あります。
私の場合は記者ではなかったのですが、完璧にヤラセ記事に協力しました。
しかも、出版社(かなり有名)には秘密で。
内容に合った写真と、経験談を出版社に話す。
100%ウソの話が出来るほど話術無いので、本当の話を元にアレンジしました。
掲載された週刊誌は、自分で買いました。
記事を読んで、「知らない人は、これが事実だと思うんだな~」
と、思いましたよ。