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岡田斗司夫プレミアムブロマガ「恐怖度MAX『千と千尋の神隠し』8分〜16分までを完全解説」

2019/11/21 07:00 投稿

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岡田斗司夫プレミアムブロマガ 2019/11/21

 今日は、2019/11/03配信の岡田斗司夫ゼミ「『千と千尋の神隠し』を読み解く13の謎[前編]」からハイライトをお届けします。


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 7分38秒。トンネルを抜けて不思議な光景が目の前に広がります。
(パネルを見せる)

 早いですよね。7分38秒でここまで行くから、ハリウッド映画で言っても、なかなかのペースなんですよね。
 この、気持ち悪い目の看板、ちょっとつげ義春の漫画っぽいですね。ここから下の方へカメラが降りて行って、お父さん、お母さん、続いて千尋が階段を上って行きます。
 無人の歓楽街が広がっている。ここは、もう、幻想の世界と現実の世界の中間なんですけど。もともと神様の神聖な土地であった場所に、バブル崩壊のちょっと前、金余りの日本が、こういう変な建物をいっぱい作ってしまい、今ではそこにお化けが住むことになった、と。

 まあ、千尋のお父さんは「バブル時代の名残」って言うんですけど。実はこういう巨大な変なテーマパークというのは、日本中に昔からあったんですね。
 明治時代から、例えば、東京の浅草に富士山縦覧場というのがありました。
(パネルを見せる)

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【画像】富士山縦覧場

 これは、当時のパンフレットみたいなものなんですけど。明治20年に、浅草六区に、富士山を現実にセットとして作っちゃったんですね。高さ32メートルだから、かなり高い建物です。この頂上まで登れるというふうになっています。
 写真もあります。もう、荒い写真しか残ってないんですけど。
(パネルを見せる)

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【画像】浅草富士

 手前に自転車に乗った人とか人間がいます。これが浅草富士と言われたやつですね。本当に、人間が歩いてグルグル回って登れるようになっていて、高さ32メートルだから、かなり高い建物なんですよ。
 これが、明治23年に取り壊されて、後に凌雲閣という建物になりました。いわゆる浅草十二階というやつですね。まあ、ピサの斜塔の垂直に建っているみたいな建物なんですけど。
 こういうのが作られたわけですね。当時の版画も残っています。
(パネルを見せる)

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【画像】浅草富士版画

 こういう建物が、浅草に建てられました。

 明治から大正のバブル期には、こういうのがエラい多かったみたいです。京王閣遊園とか、花月園遊園地とか、あとは兎月園とか。いろんな有名なものがありました。
 あと、浅草の奥山風景というのは、神社仏閣のデパートと言われ、「そこに行けばあらゆる神様仏様にお参りが出来る」と言われていました。
 小説では、江戸川乱歩が『パノラマ島奇談』を書いたり、『幽霊塔』を書いたりした時代です。これは『千と千尋』と似てるんですよね。「明治の末期から大正期にかけて、日本にちょっとしたバブル期が来た時に、神様をないがしろにするようなテーマパークを建てて、そこでちょっと変な事が起こる」というのが、江戸川乱歩などの話で書いてた話なんですけど。
 この辺、詳しく知りたい人は、今日の放課後に資料を見せながら、ちょっと話をします。
 つまり、何がいいたいのかと言うと『千と千尋の神隠し』というのは、実は破棄され、ゴーストの住み着いたテーマパークが舞台なんですよ。

・・・

 9分目。美味しそうな料理を見つけた千尋の両親は、無我夢中になって食べてしまう。千尋は嫌な予感がするので、それを食べずに両親の元を離れて、街の中を散策します。
 このシーンですね。
(パネルを見せる)

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【画像】街と千尋 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 無人の繁華街がどこまでも広がっている。この提灯が後でいい感じになるんですけども。このカット、千尋が立っているのが画面の端っこというのが良いですよね。
 あと、この影の位置に注意してください。建物の影が落ちている。これは、ほぼ真上というか、ほんのちょっと傾いた位置から日光が来てるんですけど。これが、後々の怖いことが起こる伏線になっているんですね。
 もう、無駄がない。こういう無人の商店街を見せる時、わざと主人公を左端に置いて、影を反対側に落として、あくまでも明るくて、怖いことは何も起こってないのに「これから怖いことが起こるよ?」というのを画面の反対側で見せるという方法です。
 ここから、どんどん怖い展開になっていきます。

 階段を上っていくと不思議な建物があります。
(パネルを見せる)

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【画像】油屋 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 立派な松が生えていて、灯籠があって、赤い欄干の太鼓橋があって、その向こうに「油屋」という巨大なお風呂屋さんが見えます。
 太鼓橋があるのは、まあ実用性もあるんでしょうけど、何よりも異世界の入り口だからです。いわゆる神仙思想と言うんですかね? 中国には「仙人が住んでる場所には、必ず真中が盛り上がった太鼓橋が掛かっている」という法則があるんです。
 なので、日本の昔のお金持ちが日本庭園を造る時、あれって「日本庭園」と言いながら、中国の仙人が住んでる神様の土地というのを作っているんですね。だから、必ず、橋のミニチュアを置く時には、こういう反り返った太鼓橋を置くんです。
 そんな太鼓橋の巨大なものがあって、その向こうには絢爛豪華な建物が建ってるわけですね。

 11分15秒。千尋がこの太鼓橋を渡って、油屋の前に行こうとすると……本当は渡っちゃいけないんですよ。そこから先は神様の土地ですから。すると、白い服を着た少年ハクが現れて「戻れ! ここから先は行ってはいけない!」と言うんですね。
(パネルを見せる)

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【画像】ハク © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 これがそのハク少年なんですけど。「戻れ! 行ってはいけない!」と画面の正面に向かって、ちょっと近づきながら言うんですけど。この時、ハクの後ろの影が、急激に伸び始めます。
 すごい勢いで夕日が沈んでるから、後ろの橋の影がギューンとすごい勢いで伸びているんです。そんな中、ハクが焦って言葉を掛けるんですけど、話しているうちに、横顔がどんどん赤くなっていって、夕焼けが迫って来て、影が横向きに伸びているのがわかるんですよね。
 もうね、これは吸血鬼モノのホラー映画なんですよ。ここら辺は、メチャクチャ怖い表現ですよね。

 油屋が存在するこの神様の世界、仙人の世界では、この速度で時間が流れちゃうんですね。
 現実のおよそ10倍の速度です。なんで10倍なのかというのは、まあ、後で説明しますけど。
 実は、千尋にとって、この『千と千尋の神隠し』というのは、4日間の話なんですね。わずか3泊4日の話なんですけど、現実の世界では、その中で1ヶ月くらい経っているんです。1ヶ月以上かな?
 この「10倍の時間」というのも、来週解説する後半のテーマに関わる大事なポイントだから、忘れないようにしておいてください。

・・・

 とにかく、すごい勢いで時間が流れ始めると、さっきの誰もいない街に赤い光が次々と灯って、黒い影が地面からヌーッとはえてくるわけですね。
 千尋は、慌てて「お父さん、お母さん!」と言って、逃げ帰ろうとするんですけど、父親と母親は、いつの間にか、神様のお供えものを食べた罰でブタになっているわけですね。
(パネルを見せる)

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【画像】ブタになった両親 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 さらに、暗くなった街には黒い幽霊のようなものが現れます。
(パネルを見せる)

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【画像】黒い幽霊 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 この辺、上手いですよね。さっきまでの誰もいなかった街に、いつの間にか黒い影がぬーっと地面から生えてきて、不安そうに立っている千尋の周りで動き回る。
 千尋が、もう両親を置いて逃げようと、一番最初の階段を下りて行くと、その階段のところからも、黒い影がどんどん歩いてきてしまうわけですね。
 まあ、どんどんホラー映画になっていくわけです。

 しかし、さっき登って来た階段を下りたら、途中で水になっていることに気がつく。
(パネルを見せる)

 いつの間にか、さっきくぐったトンネルは遥か向こうにあって、そこには街の灯りが見えていて、途中は川というか、もう海みたいになっていて、帰れなくなっているんですね。
 この辺、絶望的だけど美しい風景です。
 宮崎駿は、こういう状況を見せるだけじゃないんですね。千尋が「もう、こんなの嘘だ、嘘だ! 消えろ、消えろ! 消えてなくなれ!」と言うと、自分の身体が透明になっていくんですよ。
(パネルを見せる)

 自分の身体が透明になっていくと同時に、絢爛豪華な渡し船が現れて、そこから化け物みたいなものが陸に上がってくるんですけど。それが見えるのが、自分の透けた手越しなんですね。
 つまり、千尋が「うわっ! 私の身体が透けていって、消えてしまってる!」と恐怖の中で自分の透けた手を見つめていると、その向こうに光る船が現れているのが見える、という2つの状況。「今、何が起こっているのか?」ということと「千尋の身体に起こった変化」というのを、同時に1フレームで見せる、メチャクチャ上手いカットですね。
 単なる説明っぽいカットにはせず、ちゃんとサスペンスとか次の展開が盛り込まれている。もう本当に、ここらへんのコンテは名人芸ですね。

 この船が岸に着くと、中から神様が降りてきます。
(パネルを見せる)

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【画像】船から降りる神様 © 2001 Studio Ghibli・NDDTM

 神様、特に日本の神様って見えないんですよ。姿がないんですね。
 以前にも説明したと思うんですけど、なんで秋田のナマハゲは、あんなお面やミノを着けているのかというと、本来、神様というのは目に見えない存在なので、その周りをミノやお面で覆うことで、神様ということにするものだからです。
 これは、ニューギニアとかあっちの方でも信じられているリーとかピーという精霊に近い。だから、『千と千尋の神隠し』の英語のタイトルは『Spirited Away』になってるんですね。この「Spirit」というのは、神様というよりは精霊に近いものなんですね。
 そんな、姿が見えなくて、お面しかない神様なんですけど。ところが、それが千尋がいる岸の上におりてくると、身体がどんどん実体化して、本来、見えてはいけないはずの神様の姿が見えるようになるんですね。
 この世界というのは、神様の世界と人間がいる現実世界の、ちょうど狭間にあるところなんです。

 こんなふうに、どんどん上陸してくるんですけど。まあ、この時の千尋は、これが神様だとはわからずに、お化けだと思っています。

 千尋は恐怖にうずくまって動けない。そこに、さっきの美少年ハクがやって来て、この世界のものを食べさせてくれるんですね。「この世界のものを何か食べないと消えてしまう」ということで、ようやっと透明になりかけていた身体が元に戻る。
 さらに、ハクはさっきの油屋の脇に千尋を連れて行って「ボイラー室にいる釜爺に会って、仕事をさせて欲しいと頼むんだ。仕事をしないものは湯屋を支配している湯婆婆という魔法使いに動物に変えられてしまう」と言われます。

・・・

 ここまでで16分です。この16分間、ものすごい密度で、描写は完全にホラーなんですね。
 ホラーなんですけども、子供がギリギリ見られるホラーとして作っている。
 でも、そんなホラーの中で欲しいシーン、例えば「やってはいけないことを両親がやってしまって、一生懸命、止めるんだけども聞いてくれない」とか「嫌な予感がするのに、そこに入ってしまう」とか。あとは「まるで吸血鬼モノのように、あり得ない速度で、さっきまで空高く輝いていた太陽が、あっという間に夕日になって沈んでいって、街が暗くなり、変なものが現れる」という、すごく面白いホラー映画の展開が、わずか16分で、ザーッと目白押しにやってくるんですよ。
 本当にね、これ、ホラー映画としては、世界最高の面白さだと思うんですけど。『千と千尋』って、あんまりホラーとして評価されてないんですね。

 『千と千尋』の14個ある謎のうち最初の謎、この不思議な世界はなんだったのか?
 実は、古代の神聖な場所の上に、バブル時代に驕り高ぶった人間がテーマパークを作ってしまった。さらに、そのテーマパークが破棄されたおかげで、いわゆるテーマパーク全部が幽霊屋敷になってしまったんですね。それが、この不思議な世界の正体なんですよ。
 つまり、これって『シャイニング』なんですね。『シャイニング』などのお化け屋敷モノを、巨大なフレームに置き換えたもの。
 だから、お化け屋敷モノだって、見ている人が気付かないんですね。そうじゃなくて不思議なファンタジーの世界だって思っているんですけど。導入部のあの面白さというのは、完全にホラー映画なんです。
 だけど、途中から、お化けたちの気持ちになったり、お化けたちと一緒に働くという、不思議な展開になっていくわけですね。

 そんな世界に入ってしまい、逃げられなくなった女の子の話です。
 両親はブタになってしまい、自分の身体もどんどん消えていく。「どうすればいい!?」と。
 こんな、ものすごいホラー映画が、実はここから先、ちょっと面白いファンタジー映画に変化していくんですね。
 実は、この「現実の世界からホラーの世界に入って行くんだけど、だんだんとファンタジーに変化していく」という展開には、元ネタがあります。その元ネタは、次のコーナーで話しましょう。


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